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第2話『三者三様』

 クラス中の生徒が片耳にイヤホンを付けながら教師の授業を受けているこの異様な光景にも慣れてきた。

 私立共鳴高校では効率的な人の殺し方を学ぶ。

 今日のスケジュールはこうだ。一限目は拳銃の訓練、二限目三限目は格闘術の実施、四限目の現在は魔導音響変換器について学んでいる。


「魔導音響変換器の特徴はなんだ? じゃあ、黒坂答えてみろ」


 白髪混じりの中年の男性教師が僕に質問を投げかける。


「脳の空き容量に呪歌を流し込み、一時的に超常現象を引き起こすイヤホン型の魔導変換器です」


 僕は無感情に教科書通りの模範解答を口にする。


「正解だ。では次、適合率以外で呪歌の効力を左右する二点について答えろ水沢」


 白髪混じりの教師が僕の右隣りに座る少女へと言った。


「呪歌に使用する記憶量と音量」


 つまらなそうに、窓の外を眺めながら答える少女。背中にまで流れる銀髪が印象的だ。


 その後も複数の生徒が質問に答え、四時限目の授業は終わった。


 チャイムの音が昼休みの始まりを告げる。

 手早く昼食を済ませてしまおう。


「集、お昼食べよ!」


 見知らぬ少女が僕の机の上に弁当箱を広げる。


「えっと、どちら様」


 おそらくは以前に何かの任務で組んだのだろうが、僕は無駄な記憶と大切な記憶は忘れる主義だ。


「集が何度忘れたっていいよ。私が覚えていればいいんだから」


 何が楽しいのか、彼女の声音は弾んでいる。


「何してるの、ここ僕の机」


 普通の奴は第一声のどちら様、で引き返すのだが。


「ここが集の机なのは重々承知よ。私の名前はユイ、これで六度目の自己紹介ね」


 自らをユイと名乗った少女は淡々とそう語った。


「六回も消してるわけだから、次もはじめましてになると思うけど」


 無駄な記憶は弱さに繋がる。これは精神論ではない。呪歌に使う容量の問題だ。


「いいのよ、その回数の多さは集にとって私が特別である証明だから」


 僅かに微笑む彼女の顔は会話の内容とは裏腹に晴れやかだ。


 それから、見知らぬ少女と数度の言葉を交わし、昼休みが終わった。



 五限目の内容はいつも決まって同じだ。

 学校にきた依頼の中から自らにあったものを選び、各々がチームを組み依頼を遂行するための作戦を練る。


「おい、お前が黒坂か?」


 無作法な男の声が僕の背後から聞こえた。


「人違いです」


 面倒ごとは避けるに限る。


「嘘つけよ、俺の気配に気づく人間はそう多くない」


 見覚えのない短髪の男がこちらに顔を向け話しかけてくる。


「確信しているなら、質問しないでくれ」


 どうせ消す記憶だが、時間の無駄だ。

 

「噂通り、他人を遠ざける話し方をするんだな。どうせ記憶を消すからか?」


 挑発的な態度で問い返してくる男。


「まぁ、役に立たない人の記憶をとっておける程の容量も寛容さも僕にはないからね」


「なら、俺の有用性を証明してやるよ」


 短髪の男はそう言って身構える。


「高くつくよ?」


 僕が最終警告をすると、不敵な笑みを返してくる短髪の男。


『プレイリスト』


 二人の声が細長い廊下に同時に響く。

 同時に二人分の魔導音響変換器が起動する。


 僕は言い慣れた曲名を口にして一気に加速する。その勢いのまま懐からナイフを取り出し斬りかかる。すると、僕と短髪の男を遮るかのように、半透明な壁のようなものにナイフの刃が衝突した。ニヤリとした表情を浮かべる相手。


「ちっ、次の曲で仕留めるか」


 仕方ない、あまり手の内は見せたくないが……。


「そこまでだ!」


 廊下内に女性としては低めの声が響き渡る。


 急な乱入者に動きを止める僕と相手。


「黒坂と瀧本、今すぐに魔導音響変換器を止めろ! さもなくば力ずくで止める」


 教師らしき女性が眉間に皺を寄せながら叫んだ。


 生徒の名前に記憶領域を使ってる女に僕を止められるとは思わないが。


「すみませんでした」


 そう言って、曲を止める僕。

 瀧本と呼ばれた短髪の男もイヤホンを外して、教師に向けて手を上げている。


 * * *


 四階の教室の窓からは、すっかり暗くなった街の景色が見える。あれから職員室に呼ばれて、反省文を書く羽目になったのだ。


「なぁ、俺の実力はなんとなくわかったろ? 次の依頼は俺と組めよ」


 瀧本と呼ばれていた男子生徒が、まだしつこく誘ってくる。


「はぁ……。じゃあ、一応話だけは聞くよ」


「俺の名前は、瀧本竜一だ。今日の深夜に行われる依頼を受けたいんだが、基準を満たす仲間が足りなくてね」


「なるほど、依頼内容は?」


「四人の侵食者の救助及び討伐だ。侵食段階が浅い者は救い、深い者は殺す。報酬は九千万」


「やろう」


 条件は少し厳しめだが、報酬は悪くない。今はとにかく、金と力が必要だ。


「じゃあ、もう一人の仲間を紹介する。今回の依頼は三人で受けるつもりだ」


「いらないよ、わけ前が減るだけさ」


 僕はすぐさまそう言った。すると背後から見知らぬ声が返ってきた。


「言ってくれるわね。B級難易度の依頼を二人で受ける気なの? あんた正気?」


 声の主の方に顔を向けるとそこには、今朝の授業で教師に当てられていた水沢とかいう女子生徒がいた。銀髪の髪が教室の人工的な明かりを反射し輝いてみえる。


「あぁ、B級難易度なら一度ソロでもクリア済みだからね。この瀧本ってやつがあんまりにもしつこいから付き合うだけさ。それに足手まといは少ない方がいい」


 余計な荷は背負わないに限る。


「私がお荷物かどうか、試してみる?」


 右耳のイヤホンに片手を添える水沢。

 左脳を揺らすタイプか……。感情的なやっかいなやつだな。


「おいおい、二人とも起動させるなよ? 俺は一日に二枚も反省文を書きたくない。それに水沢はいい動きをするさ」


 瀧本が僕と水沢の間に割って入る。


「まぁいいや、三で割っても悪くない報酬金だからね」



 こうして歪なスリーマンセルが組まれた。

 今夜もまた、他人を殺して世界を救う。

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