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呼んでいる声がする(その7)

カフェマーメイドに行く二人。

呼んでいる声がする(その7)


 駅までの途中にそのカフェは白い壁でマーメイドという喫茶店で瑠子は、前から入って見たかった、高い天井の窓の広いカフェであった。感じの良い音楽が流れている。メニューを開くと真っ先に目に飛び込んで来たのがチョコレートパフェであった。

それを、指差しながら瑠子は声を上げた。

「美味しそうだよね、あたし、これにする。」

「あ、あたしも。」

 小さい声で蓮花が続けた。

「あたしチョコパフェって食べた事が無いんです。」

「えっ。」

 驚いた瑠子は絶句してしまった。

「いえ、あの、食べる機会が無くて。」

 戸惑った様に蓮花は答えた。

機会が無かったっていうのは不思議だったけれど「そうだよね。」

と、それだけ答えた。

 日差しが当たって窓辺のそのテラスはぽかぽかしている。

 話題を変えた方が良いなと思った時、瑠子は恰好の良いネタが浮かんだ

「あたしの、アパートに変わった人が住んでいるの。」

「変わった人?」

「うん、夜中に酔っぱらって人の家のドアを叩くのよ。」

「えっ。怖い、大丈夫なんですか。」

「うん、平気、ただの変人なだけだから。」

「そうですか。」

ほっとした様を蓮花はした。

「猫男っていうんだ。」

「猫男?」

「彼は、本人は呼ばれてる事知らないけれど。何時も猫にご飯あげてるの。」

「それで猫男っていうのね。」

蓮花は、小さく笑った。

 その笑顔を見て瑠子は、ほっとした。猫男も少しは役立つねと思った。

駅ビルの店員が食する食堂の窓辺も良いが目の前に広がるここの窓はそれとは比べようが無いくらい気持ち良い。

 程なくして、チョコレートパフェが運ばれてきた。

チョコレートアイスクリームの周りには生クリームがたっぷり乗っている。

初めて食べる蓮花がどんな風に食べるのか興味があってじっと見つめてしまった。

 彼女は、パフェスプーンで真ん中のアイスクリームを

すくってそれを口に運んだ。

「美味しい。」

 とても幸せそうな言い方だ。

ああ、素直な人だなと瑠子はその表情をまじまじと見つめてしまった。

 その時、はっと脳裏に浮かんだ映像があった。それは、いつも急に暗い表情になって帰っていく彼女の姿であった。その時間はいつも8時近くで腕時計を見るとまさにその時間だった。

 今日は大丈夫なのだろうかと瑠子は心配になったので聞く事にした。

「あの、時間は大丈夫?」

「あ。」

 彼女は鞄から携帯を取り出して見るとたちまち瞳が曇った。たぶん携帯の時計を見たのじゃないかと瑠子は思った。

「ごめんなさい。もう帰らないと。」

 やはりと瑠子は思った。蓮花はすまなそうに言った。

「まだ、帰りたくないんですけど、9時までに家に帰らないと怒るから。」

「え、門限なんか有るの?」

「ううん、あの彼氏から携帯に。」

「そうなんだ。」

 少しがっかりした。

 一方的に蓮花には彼がいないと決めつけていた気がした。こんな可憐な人が彼氏いないわけ無いよなと蓮子の顔を見つめた。

 この前と同じく怯えた様な表情をしていた。それは瑠子を心配させるのに十分であった。なにゆえ携帯に電話かかって来るのに家にいないといけないのだろうか、それは、問いたかったのだけれど知り合って日が浅い彼女にそんな事を聞いてはいけない気がした。

「あの、ごめんなさい。じゃあ、あたしはこれで。」

 急いで蓮花は、立ち上がった。

「チョコパフェ、残っちゃったね。」

「あ、良かったらこれ、・・・・あ、ごめんなさい口つけちゃったからこれは、食べられませんよね。」

上のアイスクリーム少しと生クリーム少しだけが口をつけていた。

「あ、ううん、いただきます。」

「あ、でも」

「平気、平気。」

 やがて来る世界を恐怖に陥れた伝染病の前の世界である。

 しかし、瑠子だって流石にどんな人の残りものも食べられるわけでは無いけれど信用している人の者の食べ物は食べられる。蓮花とはまだ、知り合い程度であったが、なぜか食べられる気がしたのだ。

「あ、これ。」

 そう言うと蓮花は慌てて千円札をテーブルに置いた

「食べて無いからいいよ。」

と言いかけたが彼女は急いで出口の方へ行ってしまった。

 慌てて帰る蓮花の後ろを見送りながら瑠子は呟いた。

「行っちゃった。」

 そして、首をすくめながら少しくしゃっとしている千円札を見つめた。

 その時、天井まで有るウインドウからカフェの入り口から慌てて走る去る蓮花の姿が見てとれた。

 その小さくなっていく彼女の姿に胸が痛んだ。初めて食べるって言っていたのに食べられなくなっちゃって、お金も多すぎるのに。何やら怪しい黒い雲が立ちこめていた。

 それから瑠子は二人分のパフェをゆっくり食べた。周りの目が少し気になった。

 二つ食べてる人を人はどう思うだろうと思ったからだ。

店内には、スピーカーからピアノの音が流れ続けている。

「夕ご飯いらないな。」

 案の定、瑠子が店を出る頃には、冷たい雨が空から降っていた。

 また雨か、よく降るなと瑠子は思った。

 誰も待つ者もいないので慌てて帰る必要は無い瑠子は黒い雲を見上げた。

 こんなに雨がいつも降るなんて、いつか大洪水でこの街にあの箱舟が来るのではないか心汚れた人々は残され心の清い人は運ばれていく。

 あたしはどうなのだろうかと瑠子は思った。選別にかけられてもしかしてここに残されてしまうかもしれないけれど、蓮花の様な純真な人はあの空に    舞い上がって別天地へと浮上して行くのであろう気がした。

以前土砂降りにあってからいつ降るかわからない雨の為に折り畳みの赤い傘を用意している

 アスファルトが濡れて光っている。

空は暗く、人々はいちおうに足早で歩いていた。

                 

(つづく)



読んでいただいてありがとうございます(^^)



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