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猫獣人のタマ

注1)本作は平行世界の日本を舞台にしております。

注2)現実世界の中に獣人が溶け込んでいます。

 わたしは雨池茂奈(あまいけもな)、二十六歳、OLよ。


 今は婚活ばっかりしているわ。

 昔はたくさん男の子とお付き合いしてたんだけど、やっぱり人間の男ってダメね。


 別に悪いってわけじゃないけど、なんていうか真面目で理性的で、かと思えばわがままだったりして。わたしとしてはもっとワイルドでかっこいい人がいいのよね。


 だからわたしはもう人間の男に夢を見るのはやめたの。

 これからは獣人よね。獣人。


 中には亜人はちょっと……って言う人もいるけど、彼らだって姿形が違うだけで言葉は話せるし、人間と大差ないもの。


 そういうわけで、今日は初めて獣人の人とディナーするの。

 猫獣人のHNタマさんって人なんだけどね。


 きっと素敵な人なんだろうなあ。

 獣人の男の人と一緒に食事をするのは初めてだけど、うまくいくかしら。


 ううん、弱気になっちゃダメよ、茂奈!

 わたしに人間の男なんて似合わないんだから!


 まあ、わたしって熱しやすく冷めやすい性格なのは自覚してるけど。

 でも、愛があって運命ならきっと冷めるはずないわ!

 うん、きっと大丈夫よ!

 頑張れ茂奈! 諦めちゃダメよ!

 まだまだこれからなんだから!


 *


 待ち合わせ場所に指定されたホテルについたわ。


 こんな一流ホテルで待ち合わせだなんて、タマさんったらとっても素敵な人ね。


 お仕事は何をしているのかしら。

 もしかして収入もいいのかな。


 あっ、いけない。

 愛に収入なんて関係ないものね!

 愛さえあればなんとかなるもの。うん、大丈夫よ、茂奈!


「失礼。あなたがモナさんですか?」


 ロビーの椅子に座ってドキドキしていたら後ろから声をかけられて振り向いた。

 あっ……やばいっ!


 何この人!

 超かっこいい!


 まずくりっとした瞳がとっても素敵!

 ちょっと無愛想に見える表情も、なんだかクールに見えてドキドキしちゃう!


「はっ、はいっ! えっと、あなたがタマさん、ですか?」

「ええ、そうです。初めまして、モナさん」

「初めまして!」


 あんまりぺこぺこしたせいかしら。

 タマさんに苦笑させちゃった。でも、困ったように笑った顔も素敵!


「ははっ、あんまり緊張しないで。もっとラフにいきましょう」

「ご、ごめんなさい……」

「でもよかった」

「え?」

「メールではご自分のことを卑下なさってましたけど、今日会って驚きました。まさかこんなお綺麗な方と食事をともにできるなんて」

「もうっ、お世辞がお上手なんですから!」

「そんな、お世辞なんかじゃありませんよ。私は嘘なんか吐いてません。でも、毛玉は吐くかもしれませんよ? あはは」


 あーもう! なんて素敵なの!

 毛並みもつやつやしてて、しゃむっけがあってとっても素敵じゃない!

 お世辞はまあ言われて嫌な気分もしないし、それにふふっ、冗談も言えるだなんて、やっぱりひと味違うわね。


「じゃあ、先にレストランに行きましょうか。おっと、失礼。私は先にちょっとお手洗いに行きたいのですが、モナさんは?」

「あっ、はい。じゃあ、わたしも」


 やだ。そんなところまで気遣いができるなんて、タマさんってクールな表情に似合わず紳士なのね。

 まだ出会ったばかりなのにもう惚れちゃったかも!

 きっとこの人が運命の人なんだわ!


 *


 レストランに入り、店員の案内に従って奥の席に進む。

 タマさんが予約してくれた席は角の席で、夜景がよく見えるとってもいい席だったわ。


 おまけにタマさん自ら椅子を引いてくれたの!

 もうほんっと紳士!


 ちらりと見えた肉球がとってもキュートだわ!

 あーっ! はやくぷにぷにしたい!

 我慢よ! 茂奈! 今は我慢の時なのよ!


 タマさんったら今日のためにシャンパンを用意してくれていたみたい。

 できる男はひと味違うわね!


 ちょっと店内が暗いせいかしら。

 タマさんの瞳が余計に大きく感じちゃうわね。

 なんだか心の奥まで見つめられているみたいでドキドキしちゃう!


 もう食事どころじゃないわ!

 胸が高鳴って食事が喉を通らないもの!


 いつの間にか前菜も終わってスープが来ちゃってるし、はあ。もうちょっと真剣にお話しなきゃ。


「あつっ……失礼」

「どうかされましたか?」

「あはは、いえいえ。大したことではありません。実は熱い食べ物が少し苦手でしてね」

「まあ、そうなんですか」

「ええ、少し冷めるのを待ちましょう。あっ、モナさんはぜひお熱いうちに召し上がってくださいね」


 猫舌なのかしら。

 でも気遣いができるところもとっても素敵!

 やっぱりこの人が私の運命の人なのよ。

 じゃないとこんなに胸がきゅんきゅんしている理由がわからないじゃない!


 スープの後はお魚料理ね。

 お魚はタマさんの大好物みたい。


「わたし、実は実家が漁師町で……お魚料理は得意なんです」

「ええっ! 本当ですか!? すごいですね!」

「自分で言うのも変ですけど……その、ちゃんと一からさばけるんですよ?」

「すごいじゃないですか! それはぜひ今度モナさんの手料理を食べさせてください!」

「えっ……それって――」


 もしかしてこれって!

 ぷっ、ぷっ、ぷろぽ――。


「あっ、す、すみません! 私としたことが。つい興奮して……あはは。モナさんがあんまりお綺麗だから、毎日手料理を作ってもらえたらどんなに幸せだろうと……ちょっと妄想が膨らんでしまいました」


 ダメよ! 茂奈! 今は我慢よ!

 ここでがっついちゃダメ!

 こういうときこそ駆け引きが大事なんだから!


「うふふっ、タマさんってとってもクールな人かと思ったら、実はお茶目なところもあるんですね」

「これはお恥ずかしい」

「かわいいところもあるんだなって、ちょっとドキっとしちゃいました」

「あははっ、かわいいだなんて初めて言われましたよ」

「タマさんはかわいいだけじゃなくて、とってもかっこよくて素敵ですよ? さっきからドキドキしてるんです……」


 見つめ合う二人。

 窓の外には夜景!

 卓上のキャンドルライト!

 最高のシチュエーション!


 完璧よ、完璧じゃない! 茂奈!


「失礼いたします。お肉料理をお持ちいたしました」

「あっ、ああ、すみません」


 チッ。空気の読めない店員ね!

 まあいいわ。まだ時間はあるもの。


 それに……うふっ。ちょっぴりそわそわしてるタマさんもかわいいじゃないの。じゅるり。


「そういえば、タマさんはどんなご趣味を?」

「あははっ、実は出不精でして。最近は仕事の疲れもあって休みの日はずっと家でゴロゴロしてばかりなんですよ」


 タマさんったら器用なのね。

 今更だけどフォークとナイフを綺麗に使っているわ。

 やっぱり肉球のおかげかしら。

 あーもう! はやくぷにぷにしたいわ!

 でも、まだ我慢しなくちゃ!


 今肉球触らせてください、だなんて言ったらきっと嫌われちゃう!


「でも、元気があるときはよく散歩に出かけるんです」

「お気に入りの場所なんかあるんですか?」

「いえ、あてもない散歩です。気持ちがいいですよ。知らない人と出会って挨拶をしたり、通りがかった場所に咲いている花を見つけたり……」


 まあっ、タマさんってなんて風流な方なのかしら。

 やっぱり彼を逃しちゃダメね。

 絶対ものにしなきゃ!


 もしかして、ホテルのレストランを予約したってことは、彼はこのあとのことも考えているのかしら。


 きゃーっ! ダメ! ダメよ!

 でも、流されちゃう! 茂奈も我慢できない!

 こんなに素敵な人に誘われたら絶対断れないー!


「どうかしましたか?」

「えっ……あっ、ごめんなさい!」


 いけないわ。わたしとしたことが。

 もうデザートが来てるじゃないの。

 妄想のしすぎね。もうちょっと落ち着かなきゃ。


 はあ。でも今日は勝負下着を着けてきて正解だったわね。

 こんなに素敵な人の誘いを断るだなんて選択肢、絶対にないもの。


 是が非でも既成事実をつくって責任をとってもらわなくちゃ!


「デザートも美味しいですね」

「モナさんに気に入ってもらえてよかった」


 ちょっとホッとするタマさん。

 なんでこんなに様になるのかしら。

 やっぱり持っているものが違うのかしらね。


「モナさん……」


 やだ。急に手を握られちゃった。

 肉球……やばい。

 なにこれ! めっちゃぷにぷにしてる! 柔らかいっ!

 超気持ちいいんですけど!

 こんなので触られちゃったら、わたしっ……わたしっ! 壊れちゃう!


「はっ、はい……」

「よければこのあと……っと、ちょっと失礼」


 タマさんは手を離してそっぽを向いちゃった。

 手を口元に当ててるみたい。

 もしかして気分が悪くなっちゃったのかしら。

 それはそれで介抱するって大義名分もあるわね。うふふ。もしかしてそういうプレイがお好きなのかしら。


 大丈夫よ。タマさん。

 わたしはだいたいどんなプレイでも受け入れてみせるから!


「えっと、タマさん? ご気分が優れないのかしら」

「いや……あの、すみません。うっぷ……はあ。よかった」


 首を傾げるわたし。タマさんはなんだかすっきりした顔をしている。


「いやあ、すみません。タイミング悪く毛玉が出てきちゃいました」

「えっ……」


 聞き間違えかしら。今確かに……。


「たまに出てくるんですよ。ほら、毛玉を吐くかもって言ったじゃないですか」


 タマさんは紙ナプキンを一枚とって何かをそっと包み、皿の端に置いた。


 見えてる。

 紙ナプキンのくしゃくしゃした隙間から、もじゃっとしたタマさんの毛色と同じものが……見えてる! 見えちゃってるうっ!


 あれってもしかして……毛玉? 毛玉なの?

 えっ、この人もしかして、こんな大事な場面で毛玉吐いちゃったの?

 猫獣人だから?

 えっ、じゃあもしかして猫舌なのも猫獣人だからなの?


「それでね、モナさん。実は最上階の部屋を――」

「帰ります」

「えっ?」

「帰ります」


 いや、さすがに毛玉吐く男は無理だわ。

 それにしても、よく毛玉だけ器用に吐き出せたわね。

 毛玉の吐き方もやっぱりスマートだったわ。


 でも無理。運命の人じゃなかったのね。

 冷めちゃった。


 わたしの運命の獣人はこの人じゃなかったのよ。


 やっぱり婚活は一筋縄じゃいかないわね。

 もっとたくさんの人と出会わなきゃ!


 次よ! 次があるのよ! 茂奈!

 焦っちゃダメ!

 頑張れ、茂奈!


 奮い立つのよ!


次回「トカゲ獣人のタツミ」

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