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私のような貴方へ

作者: 林檎

 貴方と居ると、とても静か。

心は穏やかな海。

静かに波の音がする。

いつか死ぬ時が来るとすれば、こんな気持ちで居られたらいいのに。


 貴方も私も同じような気持ち。

同じ不安。

変化しやすい感情。

一人になれば不安になる。

どちらかが自分の知らない場所で、息をしている事が不安になる。


 貴方の洋服はいつも、触り心地が良さそう。

だけど触れない。

一度も触れた事が無い。

あの日、雪で凍り付きそうだった貴方の指先を温める事も出来なかった。

まだそんな距離じゃない。

だけど、とても素敵だと思う。

触れた事の無い相手は、何故か尊い。

もしも触れてしまえば、何か変わってしまうような気がするから。


 私は怖くなどない。

きっと貴方もそう。

そして貴方もちゃんと分かっている。

物事にはいつか終わりがやって来て、何もかも記憶の片隅に飲み込んでいってしまうことを。

大丈夫。

その分今を大切に出来ると思うから。



 貴方の呼吸の音は、悲しいような幸せなような不思議な感じ。

音の無い打ち上げ花火のように、静かな美しさと儚さ。

眩しくなんてないのに、私はいつも目を細めてその横顔を眺めている。

気付くと貴方も同じようにして私を見つめて居たりする。


 愛していると、何度言われるよりも貴方の笑顔が嬉しい。

私の言葉に笑って欲しい。

ほんの少しでもいいから、笑って欲しい。

私も自然と笑うから。


 桜は咲いてもまだ寒い。

昼下がりの夢から覚めた時、とても寂しい。

胸の霧が濃くなっているような気がして。

貴方もこんな胸苦しさを味わったりするのだろうか。

あんなに近くに居たのに、お互いの心に空いている大きな風穴は冷え切っているのか。

埋められなくとも、これからも一緒に居るのか。


 私は今日もあの歌を子守歌に目を閉じる。

不思議に涙が出て来る。

悲しくなどないのに。

一度大きく深呼吸すると、苦しい事全てが流れて一瞬だけ消える。

貴方もこんな夜を過ごすだろうか。

霧の中に浮かぶ満月のようにぼんやりした夜。


 海面に桜の花びらが大量に浮かんでいる。

夜の海が眩しい。

側に居て欲しい誰かに焦がれる時、孤独はその色を濃くする。

私も貴方も、もう懲り懲りなのにいつの間にかまた、人を信じてしまう。

感情の波が激し過ぎて、息さえもどかしい。

誰かの全てを分かろうだなんて、到底不可能な話。


 私は今日、一人様々な想いを巡らせながら貴方に恋をしていると気付いた。

空が寒い。

カーテンを冷やす。

この街の何処かを今一人歩く貴方に、私は何もしてあげられない。

だから今度貴方の隣に座る時には、せめていつものように沢山笑っていよう。

この街の隅々まで二人の面影を残そう。

いつか全てが幻のように思えた日には、幸せだった事を確かに思い出せるように。




 貴方の心が、今この瞬間、少しでも穏やかである事を願って。

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