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クラスメートは今日も勇者!  作者: 一ノ瀬悠
3/3

【2】

 今日、葛西くん、木野くん、倉橋くんの、仲良し三人組と一緒に、B組の天海春さんと話をしてきました。

 B組は、いじめや、不登校の生徒が多く、荒れた生徒が多いそうです。

 天海さんは、B組でいじめをうけていると、仲良し三人組に聞きました。

 三人組は、いじめをやめさせたいと言っていました。面倒事は避けて通りたいタイプだと思っていた倉橋くんも、いじめをやめさせたい言っていました。

 天海さんは、同じ一年の僕に対しても、敬語を使っていました。けど、本当に少しですがタメ口を使っていたので、常に敬語というわけでは無さそうです。呼んだ時、本を持っていたし、委員会も図書委員らしく、本が好きな子なんだと思います。

 いじめをやめさせたいと、天海さんに倉橋くんが言った時、天海さんは、いじめられてることを隠そうとしているようでした。いじめなんてない、仲のいいクラスだとも言っていました。

 確かに、B組は、ごく普通の、仲のいいクラスに見えました。けど、倉橋くんいわく、すぐにバレるようないじめ方はしていないとのことです。先生も気付いてないみたいだとも言っていました。

 まずは、先生に言うことが最善だと思いますが、半信半疑で先生が生徒に訊いたりなんかして、それでいじめが悪化してはいけないから、まずは証拠を集める事が先だと、倉橋くんが言っていました。

 倉橋くんは、やれば出来る子です。

 また明日、頑張ります。


「……なんかなぁ」

 毎日書いている日記を書き終えて、俺は呟いた。

綾斗あやと、どうかした? 今日元気ないね。学校で何かあったの?」

 兄の奏斗かなとだ。兄との共同部屋で、大学受験を控えた兄は勉強をしていたから、邪魔をしてしまったようで申し訳ない。

「いや、俺は別に……ただ、隣のクラスでいじめがあるらしくて、倉橋たちがいじめをやめさせたいって言ってて」

「へぇ。それで、綾斗も、一緒にやめさせると?」

「うん、まぁ、そうなるかな……」

 俺がいじめなんて大きな問題を止められるとは思わないし、あまり実感は出来ていないが。

 不安そうな表情になっていたのか、奏兄かなにいに、「大丈夫だよ」と励まされた。

「綾斗は、自分で思っているよりも、強いと思うよ。だから、ある程度大丈夫だと思うよ。けど、手助けが必要なら言って。してあげられることはあまりないけど、相談くらいなら乗れるから」

「……奏兄だって、受験勉強で忙しいだろ」

 それなのに、俺のことを気にかけてくれるなんて。

「ありがとう。本当にダメな時は、頼らせて貰うよ」

「どういたしまして。あんまり溜め込まないでね」

 奏兄はそう言って、再び机に向かいだした。

 普段はあまり言えないが、俺は奏兄が大好きだ。決してブラコンとかではない。

 普段は天然なのに、こういう時だけ鋭いっていうかなんていうか……本当に、奏兄に助けられてるなあ。

 日記ノートをしまい、俺も勉強道具を広げた。

「あ、わかんないとこあったら教えるよ」

「大丈夫だから奏兄も勉強頑張って!」

 ……優しすぎて詐欺に合わないか心配だ。むしろ自分から合いに飛び込んでいきそう、無意識に。


 今日は六時に起きた。いつもより三十分も早く目が覚めてしまったが、この時間に二度寝すると、寝過ごしそうなので、そのまま起きる。

 顔を洗いに洗面所へ行くと、そこには制服を着た奏兄がいた。

 県内の進学校に、奏兄は通っている。

「あ、おはよう、綾斗。今日は早いね。何か用事でもあるの?」

 歯磨きしていた手を止めて、奏兄は言った。

「いや、特にないよ。目ぇ覚めちゃって。奏兄は部活? バスケ部だよね」

「うん。夏の大会が近いからね」

 インターハイっていうんだっけ?

「忙しいそうだね、主将は。冬まで残るの?」

「うーん、そうだねぇ。冬の大会まで勝ち進めたら、残るかな」

「そっか。頑張れ」

 頑張ると言って、歯磨きの続きをする奏兄。

 本当、奏兄には適わないよ。自慢の兄だ。

 歯磨きを終えた奏兄は、行ってきますと俺に声をかけてから向こうに行った。

「いってらっしゃい」

 そう返して、空いた洗面所で顔を洗ってから、着替えに二階の自分の部屋に戻って行った。

 玄関が開いて、閉まる音がしたから、奏兄はもう学校に行ったのだろう。

 着替えを終えて、リビングにいる母さんに挨拶をして、いただきますと言って手を合わせてから、用意されている朝ごはんを食べる。

 今日は鮭の塩焼きだ。うむ、美味しい。

「奏斗は今日も家を出るの早いわねぇ。お母さんお弁当作るの大変だわ。ま、その分頑張ってるから作りがいがあるけど」

「なんか胸に刺さる言葉……いつもありがとうございます」

 料理好きの母さんは、好きだからこそなのか知らないが、料理は上手い。ていうか、手先が器用。

 資格とかも持っているらしい。よく分からないが。

「ま、いいのよ。学校楽しい?」

「うん、まあね」

「そう、ならいいわ。今度うちに友達連れて来なさいよ。見てみたいわ」

「あぁ……分かった。また今度ね」

 誰を連れてこようか。仲良し三人組あたりかなぁ? どうしよう。俺の友達に常識人がいない。あ、いや、みんな良い奴なんだけど、それとは別で。

「ごちそうさま。それじゃあ、そろそろ行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 食器を、流しの所に置いてから、鞄を持って、靴を履いて、学校へと向かう。

 今日こそは、少しでもいい方に進展しますように。


 昼休み。今度こそはと、早めに弁当を食べて、仲良し三人組と一緒に、B組へと向かおうとした。

 が、倉橋に引き止められた。

「証拠を集めるのが先だって、言っただろ」

「そうだけど……どうやって集めるんだ?」

「無音カメラのアプリインストールして。俺らはもう入れたから、あとは山田だけ。いじめに関係してそうな場面見かけたら、すぐに撮って」

「わ、分かった」

 言われた通り、無音カメラのアプリを探して、インストールする。

 なんか、ストーカーしてる気分……。

「とは言っても、どうやって探すんだ? そんな場面、そうそうないだろ」

「主に放課後がメインかな。俺らは部活があるから、それに関してはあまり手伝えないけど……」

 三人とも演劇部で、期待の一年と言われている。

 少し部活を覗きに行ったことがあるが、凄かった。自分の語彙力のなさを恨むレベルだった。

 今度、夏休み中に、学年ごとの劇と、三年生最後の舞台ということで、演劇部全員で、劇を、シナリオからセット、衣装まで、全部作り上げるらしい。

 だから、夏休み前の今は凄く忙しいらしい。前に言ってた。

「おう、それに関しては俺に任せておけ。ただ、お前らも見かけたら頼むぞ。部活、頑張れ。舞台見に行くよ」

「ありがとな」

「任せとけ!」

「いい席取れるか頼んでみるよ」

 本当、良い奴だ。高校卒業した後も、ぜひ仲良くさせていただきたい。

 俺はもう一度、ありがとうと言った。


 時間はあっという間に過ぎて、もう放課後。

 真っ先に帰ったのは、いつも通り自称帰宅部エースの相沢だ。いつも四階の窓から飛びおりて帰るものだから、いつか死ぬんじゃないかと見てるこっちはヒヤヒヤしている。初日なんて心臓止まるかと思った。どうやら、ベランダを使っておりているらしい。階段使え。

 相沢の幼なじみの神楽は、部活に入っているため、相沢は一人で帰るらしい。弓道部だったと思う。因みにアイツと俺とは方向が違うから、普段から一緒には帰らない。

 さて、天海さん探しますか。

 そう、俺が意気込んだところで、誰かに声をかけられた。

「ねぇ、山田」

 振り向くと、見慣れた茶髪のサイドテール。そしてつり目。

藤原ふじわらか。どうかした?」

華音はなね見なかった? 一緒に部活行こうとしたんだけど、居なくなってて」

 二人共、同じ部活だ。確か文芸部で、絵とか小説をかいているらしい。

須賀すがなら、先生に呼ばれてたから、用事が終わったら部活行くと思うぞ」

「了解。ありがとう。華音今日日直だったみたいだし、多分それだわ。雑用だと思うし、時間がかかるだろうから、華音に会ったら先に部活行ったって言っておいて。お願い。じゃあね」

 そう言って、文芸部の部室へ行こうとする藤原。

 しかし、何故か足を止めた。

「お礼に小説一冊貰ってく? 仲良し三人組の三角関係ものなんだけど、どう?」

「遠慮します」

 そうだった。最近大人しかったから忘れかけていた。コイツと須賀は腐女子だった。

 上手く書けたのにと文句を言いながら、今度こそ部室へと向かっていった。

 俺は静かに、ここにはいない仲良し三人組に手を合わせた。

 気にするな、いつもの事だ。

 いじめといえば、校舎裏のリンチだ! という、漫画でよくあるシチュエーションを思い出し、俺は早速校舎裏へと向かった。

 校舎裏に近付いたところで、話し声が聞こえた。複数であるうえに、男の声が聞こえないから、告白ではないはずだ。

 だとすると。

 俺はおそるおそる覗いた。思った通り、天海さんをB組の人だと思われる女子が囲んでいる。

 その中に、昨日B組に行った時に威圧感たっぷりで話しかけてきたあの女子生徒がいることに気付いた。

 とりあえず、今日は会話だけでもと思い、俺は録画モードにしたスマホを、気付かれない程度に近付けた。音が入るだろうか。距離は多分五メートルくらいで、案外近いから、小さくても多少は入るだろう。

 今日は映像までは撮れなさそうだ。

「……あんたさぁ、周りを馬鹿にしてるの? 自分が頭いいからって調子乗ってんじゃねぇよ」

 うわぁ、怖い。威圧感のある人だと思われる人が、低めの声で言った。覗くとバレそうなので覗きません。だから誰が喋ってるかまで分からない。

「本当それな」

「ていうか、昨日男子に連れてかれてるの見たんだけど」

「マジで!?」

 俺らの事じゃん! ごめんなさい!

「……それは委員会の用事です。何か文句ありますか?」

「……は? 何その言い方」

 あーあーあーあー! なんでそういう言い方するかなぁ!?

 思わず頭を抱える。知ってるぞ、こういうの。火に油を注ぐっていうやつだ。

 相手の女の子の声が絶対零度になった気がする。

 小さいが、ガッと何かを掴む音がした。多分、胸ぐらを掴んだか……女子なら髪を掴んだ可能性もある。

「ふざけてんの?」

 どうしよう。いい加減助けないといけない気がする。

 けど、もし後日更にいじめが酷くなったらどうしよう。

 俺が迷っていたところで、場違いな明るい声がした。

「あれ、どうしたの? B組の子だよね。なになに喧嘩ー?」

 相沢!?

 確かに、相沢の声だ。なんでここにいるんだよ。お前真っ先に帰ってっただろ!

 だがしかし、ナイスだ。

 うまいことこれを止めていってくれ!

「別に、何でもいいでしょ」

「もう行こ」

「うん」

 あれ、自分からみんな去ってったぞ。

 ……って、やばい、こっち来る!

 咄嗟に、そばにあった木の後ろに隠れる。向こうも急いでここを去りたかったからなのか、俺には気付かずに早足に去っていった。

 一安心した俺を、また危険な道に引きずり込もうとする奴が、一名。

「あれ、山田じゃん! どうしたの? こんなところで。もしかして盗み聞きぃー? いーっけないんだ! あやちゃんって呼んじゃうぞ!」

 うわ、見つかった。黙って逃げようとしたのに。なんで見つけるかなぁ……?

「やめろ!! ていうか、盗み聞きじゃなくて、偶然通りかかっただけだって!」

「なんだ、つまんねえの」

 一気に冷めやがって!!

「……あ、昨日の人?」

 天海さんにも気付かれた!?

 姿は見られていないはずだから、声で気付いたのだろうか。

 おそるおそる壁から顔を出す。

「あ、天海さん。別に覗いてたわけじゃなくてだな……偶然だよ、偶然……」

「それは何でもいいです。けど……」

 見ましたかと、疑問文になっているはずなのに、明らかに確信しているであろうきき方だった。

 やばいと思いながら、小さく頷く。

「あれ、二人共知り合い?」

「いいえ、違います。名前も知りません」

 相沢の問いに、真顔で返す天海さん。

「あれ、名前言ってなかったっけ。山田だよ」

「名前は綾斗! 是非親しみを込めて綾ちゃんって呼んであげて!」

「余計なこと言うな!」

 綾ちゃんは、相沢はふざける時によく呼ぶ呼び方だ。それを真似して他の人も呼ばれる。時々だけど。だがしかし、俺はその呼び方は気に入っていないのだ。ツンデレとかじゃなくて、真剣に。

「あはっ。冗談冗談!」

「そういえばお前何でここにいるんだよ」

「あっ! そうそう、明日提出のプリント取りに来たんだった! じゃあね山田!」

 おどけてみせる相沢を軽く睨みながらいうと、はっとしたようにダッシュで向こうへ行ってしまった。

 何だったんだ……。

「それでは、私も行きますね」

 呆然とする俺を見てから軽くため息をついて、相変わらず冷めた声でそう言った。

「あ、ちょっと待って天海さん!」

「……なんですか」

 俺が引き止めると、訝しげな顔でコチラをみてくる。

 そんな顔しないでよとは、あえて言わない。言ったら今度こそ逃げられる。

「俺は、俺達は、天海さんの味方だから。いじめなんてやめさせてやるから、何かあったら頼りなよ」

「上からですか。別に、必要ありません」

「あ、すいません。でも、俺らは……」

「しつこいです」

 そう言って、去ろうとする天海さんを追いかける。

「ま、待って。本当に天海さんを助けようと」

 そう言って、天海さんの肩に触れようとしたところで思いっきり振り払われた。

「アンタなんかに何が出来る!?」

 無表情が崩れた。

 下を向いてるせいで、どんな表情なのかは分からないが、笑っていないことは流石に分かった。

 今度こそ去っていく天海さんを、俺は追いかけなかった。

「……また失敗かよ」

 倉橋たちに、どうやって報告しよう。

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