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クラスメートは今日も勇者!  作者: 一ノ瀬悠
2/3

【1】

「やーまだ! おっはよ!」

 帰宅部エースと自称する、相沢あいざわだ。朝から元気だなぁ、コイツ。

「おはよう」

「元気ないなぁ! なんかやな事でもあったか? 相談乗るよ?」

「大丈夫だよ。お前が元気すぎるだけだ」

「あ、そう? ならいいや」

 よっぽど相談に乗ってみたかったのか、残念そうな顔をして、相沢は席に戻った。

 何だったんだろ……。

「おはよう、山田やまだ。悪いな。またなんか変なドラマ見たらしくて……」

神楽かぐらか。おはよう。だからか……いつもならあんな事言わないから、何かと思ったよ」

 神楽は、相沢の幼なじみだ。いや、むしろ保護者だな。

 相沢の元へ戻っていく神楽を見てから、俺は、自分の席についた。

 図書館で借りた本を読んでいるうちに、チャイムがなった。

 ちなみに読書中もこの教室は騒がしかった。


「そういえば、B組ってすごい荒れてるらしいけど、山田は知ってたか?」

「え、そうなの?」

 休み時間。弁当を食べてたら、隣の席の木野きのに話し掛けられた。

「知らないの? 結構有名な話だよ。いじめが多いんだって。不登校も何人かいるとか」

「俺でも知ってる」

 木野と一緒に弁当を食べていた倉橋くらはし葛西かさいに、馬鹿にするように言われた。いや、葛西はそんなつもり無さそうだけど、倉橋は確実にある。

「葛西も知ってるのに、知らないんだ? やばいね」

「やばいな……葛西に負けるとは」

「今俺のこと馬鹿にしたか?」

 倉橋と木野が口を揃えて言うものだから、葛西がもともと鋭い目つきをさらに鋭くさせる。

 悪い悪いと軽く謝る二人だが、弁当の唐揚げと出し巻き卵がそれぞれ犠牲となったようだ。

「それで、話戻すけど。B組の天海春あまがいはるっていう子は、知ってる?」

 木野に変わって、倉橋に訊かれる。当然知ってるはずもないので、首を横に振る。

 すると、盛大なため息を倉橋につかれた。

「本当に何も知らないんだね。あまりの無知さに驚いたよ」

「倉橋酷くない?」

 やれやれという感じで言う倉橋。

「今、その子が万引きしたとか、証拠もない噂流されてるんだけど、それも知らないのか?」

「知らない」

 葛西にも訊かれたが、当然知っているはずもない。

「無知すぎるのも大概にしなよ。それが原因で、その子、酷いいじめを受けてるの」

「見ていて気分のいいものでもないからな」

「山田に、止めて欲しい」

 なんという連携プレー。分かってはいたが、仲いいなこいつら。

 っていうか、は?

「……何で俺?」

 お前らだけでやってくれないのか。そういう目立ち方はしたくないし、大体、いじめられたことなんてない、平和な環境で育った俺に何が出来る?

 相沢とかの方が、そういうのは向いているだろう。

「山田は、周りをよく見てるし、正義感も強い。面倒くさがりな俺がいっても、中途半端にしかできないし、木野じゃあ、お人好しが過ぎて、いじめっ子を止められない。短気な葛西が関わっても、いじめっ子を殴って停学か、最悪退学になるだけだよ。相沢なんてもっての外! アイツは、周りを楽しませることは出来るけど、こういう暗いことから救うのには向いてないよ。

 だから、山田に助けてやってほしい。中途半端に助けたら、いじめは悪化するだけだから、俺では出来ないんだ、途中で投げ出してしまいそうで」

 至って真剣に、倉橋がそう言った。

 アイツが長文を喋ることだけでも珍しいのに、こんなに真剣な顔で。

 正義感の強さなら、お前も充分だろ。

 そのたまに出てくる過小評価は何なんだ。

「俺だって、途中で投げ出すかもよ」

「山田は、そんな事しない」

 真っ直ぐ、相変わらず俺の目を見て真剣に、倉橋は言う。

「いじめっ子を止められないかも」

「山田なら大丈夫だ」

 嘘偽りがない。そう思える迷いない即答。木野は嘘がつけないタイプでもある。

「退学の可能性も」

「ないだろ。てか俺もそんなことしないぞ」

「いやいやいやいや……」

 俺の言葉を遮る葛西に、倉橋からツッコミが入る。

 仲良し三人組と周りから言われるコイツらに、俺はここまで信用されているとは。

 自惚れてもいいよな、少しくらい。

「分かったよ。その代わり、手助けくらいしろよな」

「ああ、任せとけ」

 結局、折れたのは俺。人助けは、嫌いじゃない。

 まだ休み時間はある。弁当も食い終わったし。

「天海っていう子、どの子か見せてよ」

「了解。着いてきて。葛西と木野も早く!」

 俺が訊くと、倉橋が立ち上がってB組に行こうとした。

「乗り気だな。行こうか」

 それを見て、木野も立ち上がる。

「え、まだ唐揚げ残ってんだけど」

「早く口に突っ込め。置いてくよ」

 ゆっくりと弁当を食べていた葛西を少し待って、俺達はB組の教室を覗きに行った。

 隣のクラスなのに、行ったことなかったな。いや、B組に限らず、他のクラスに行ったことがない。

 この学校に、俺の中学時代の友達はいないから、クラスメートにしか友達がいないんだ。

 寂しいな、俺。けど、これが普通なのか?


「ほら、あの子だよ。メガネかけた黒髪ボブの、分厚い本持ってる……」

「ああ、あの子か。クラスに一人は居そうな子だな」

 倉橋が控えめに指さした先に居たのは、倉橋が説明した通りの容姿の、根暗そうな子だ。

 その周りの人たちも、普通に話してるみたいだし……。

「普通に仲のいいクラスじゃない?」

「まあ、これだけ見たら、そう見えるかもね」

 否定はしない倉橋。辺りをキョロキョロと見た後に、今は居ないのかと呟いた。

「邪魔よ」

 突然、後ろから声をかけられた。びっくりして振り向くと、腕を組んだつり目の、髪の長い女子生徒がいた。

「え、あ、悪い」

「アンタ達A組でしょ。なんでB組にいる訳?」

「あ、それは……」

「天海春さんに、用事があって。図書委員担当の先生に、天海さんを呼んでくるよう頼まれたんです」

 返事に戸惑う俺達のかわりに倉橋が咄嗟にこたえてくれた。

 女子生徒は、興味なさげに「あっそ」と言ってから、俺達を押し退けて、教室に入って行った。

 そのまま天海さんの席に行って、何かを話しつつ、コチラを指さしていた。もしかしたら、読んでくれているのかもしれない。

 案の定、天海さんは、読みかけの本に栞を挟んで、こちらへ来てくれた。

「天海です。何の用でしたか」

 冷めた言い方だな、なんて思いながら、図書の先生が呼んでたから、図書室に行こうと、木野が声をかけた。

「……委員会の用事ですか? あなた達、全員図書委員ではないでしょう」

「いや、友達が図書委員なんだけど、その子休んじゃって。代理だよ、代理。さあ、一緒に行こう」

 嘘も方便って言葉があるくらいだし、これくらいの嘘は許してほしい。納得いかなそうな表情で、分かりましたと天海さんは、呟いた。

 図書室に向かうよう、足を進めながら、俺は思う。

 どうすんだよこれ!

 今日は顔を見るだけの予定だったのに、こんな事になろうとは。

 とりあえず、倉橋の方を見る。いつも通りの無表情。何考えてんのか読めない。

 木野の方を見る。あ、ダメだ。コイツも俺と同じように助けを求める顔してる。

 葛西は……コイツ何も考えてねぇ!

「……あのさ、天海さん」

「はい」

 倉橋が、天海さんに話しかけた。

 何を言うつもりだろうか。

 期待の眼差しで見つめる俺に気付いたのか気付いてないのか、気にせずに話を続ける。

「実は、委員会とかじゃなくて、個人的に話がしたかったから、呼び出したんだ」

 マジかよ! ここでバラしちゃうんだ!

 天海さん怒ったかなーと思って見てみると、そうでもないみたいだ。

「……そんな気はしてました」

「気付いてたのに、着いてきてくれたのか?」

 天海さんが、無言で頷いた。

「それで、本当は何の用でしたか」

 やっぱり、訊かれるよねぇ!

 しかし、ここで言っていいものなのか? 展開が早すぎて、どうすればいいのかさっぱりだ。

 けど、変にごまかしても、この子にはすぐバレる気がするんだよな。

「……うちの学校に、いじめがあるらしい。天海? さんは、知ってるか?」

「え……」

 話し出したのは、意外にも葛西だった。突然の「いじめ」という暗い話題。天海さんは困惑した表情になった。

 当然だろう。俺でもそうなるよ。 

「……いや、単刀直入に言うよ。その方が、コチラとしても都合がいい。俺達は、いじめをやめさせて、天海さんを助けに来たんだよ」

 真剣な顔で、天海さん見て、倉橋が言う。

 嘘偽りない言葉だ。天海さんも、それは分かったと思う。

 けど、二つ返事でオーケー出来る内容ではなかったらしい。

「じょ、冗談はやめてください。私がいじめられてる? ふざけないで。あなた達も見たでしょう。B組に、いじめなんてありません。……そろそろ、お暇させて頂きますね」

 天海さんは、早口にそうまくし立て、駆け足で逃げていった。

 残された俺達は、天海さんを引き止めることも出来ずに立ち尽くしていた。

「……ごめん、俺のせいだ。もっと、順序とかを、踏むべきだったね。ほんとごめん」

 自分を責める言葉を並べる、倉橋を見て、俺らはやばいと思った。

「あ、いや、倉橋のせいじゃねぇよ!」

「そうだぞ、俺達だったら何も言えなかったし……」

「これから頑張ればいいだろ! そんな落ち込むなよ!」

 木野、葛西、俺と、倉橋を慰めようと言葉を順番にかけていく。

「……ありがとう。うん、そうだよね。じゃあ、俺らも教室戻ろうか」

「よし、行こう!」

 明るい声で、そう言った。

 いじめとはずっと無縁だった。これからもそうだろうと思っていた。

 当事者でなくとも、避けては通れない道なのだと、初めて知った。

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