名探偵織田茂の華麗なる推理〜プロローグ〜
前話の回想シーンからは飛びますが、ご容赦ください。
月曜の朝早くから大神恢は朝食もとらずに、自宅の書斎で医療関係の論文に眼を通しているところだった。
一階の、それも恐らくは玄関口から妻の天子が自分を呼ぶ声が聞こえた。
「どうかしたのか」
ドアを半開きにさせて尋ねると、二十年以上聞いてきた声が聞こえた。
「お邪魔します、天子さん。兄貴のヤツ、また書斎にこもってるんですね」
あぁ、間違いない。あの声の持ち主こそ我が親愛なる弟君、大神仁その人だろう。面倒くさい。
「すいません、こいつべろんべろんに酔ってるみたいで」
「ウィーぅ」
「あら、茂君じゃないの」
なんてことだ、あいつもいっしょにいるのか。
「よかったら二人とも私たちと一緒に朝ごはん、食べない?」
やめてくれ、天子よ。
「はい、喜んで」
終った……。
「はい、茂君お水」
「ど、ども」
茂が天子から受け取った水を飲み干すのを待ってから、恢は仁と茂に尋ねた。
「で、なんでだ」
「兄貴の問いかけは昔から抽象的過ぎるよ」
「モのぐぉとは、ぐてぃタキにだ」
恐らくは「物事は具体的に言うべきだ」と言っているのだろう。面倒くさい。
「なぜ、月曜の朝早くに来たんだ」
若干、苛立ちながら早口で喋ると、はっきりした口調で「何曜ならいいんだよ」と茂が返した。
「はいはい、口論はそこまで。ご飯でも食べて落ち着いて」
天子がそういいながら、テーブルの上に四人分の箸とご飯茶碗、そしてベーコンエッグと器に移した納豆を置いた。
四人で食事を始めてから数分後、再び恢は尋ねた。
「何の用でうちに来たんだ」
仁がベーコンをほう張りながら答える。
「あのさ、昨日からちょっと飲みすぎちゃってて」
仁の話によると、昨日から知り合いの女性一名と二人の後輩一名、計四人で某居酒屋で朝まで飲んでいたらしい。最初はその後輩が居酒屋の女性従業員に告白するつもりで店に行ったのだが、決心が付く前に当の本人および茂が酔いつぶれてしまい結局どうすることも出来なかった。そうして仕方がないから、後輩と知り合いの女性をそれぞれタクシーに乗せて家に帰し、自分たち二人はこの家に来た。
「納得出来ないな。それでは明確な説明になっていない」
「いいじゃない、別に。そんなこと言われても、政治家たちでさえ答えられないようなことをこの子達が答えられるわけないじゃないの」
いつも天子の言うことは正しい。
「なんとなく、でしょ仁君」
「えぇ、まぁ」
「じゃあ、そのなんとなくのついでに、私に協力してね」