太陽編〜弐〜
〜太陽〜
映画を観終わり織田と陽介は館外で見つけたベンチに腰掛け、それぞれパンフレッドを読んでいるときだった。織田の携帯電話から着信メロディがなる。織田は電話に出ると、「申す、申す。」と奇怪な言動をとる。
「先輩、何言ってんですか?」
織田はめんどくさそうにこっちを見て言う。
「あのな、電話に出るとき、もしもしっていうだろ。あれはもともと昔電話の交換手がかけてきた相手にこう言ったのが始まりなんだよ。申す申す、かける相手とその後用件は何ですか、ってな」
そう言うと織田はかけてきた相手に「いやなに、出来の悪い後輩に教え諭していたところだよ」と言った。
その後の織田は「ほう、なんと」や「それはいいじゃないか」などと言うばかりなので陽介は喋っている内容を聞き取ることはできなかった。ただ、最後に「わかったよ、仁」、と織田が言うのでかけてきた相手だけは分かった。
電話を切り、織田が陽介に向って言う。
「さあ、行こうぜ」
六時になっても大神が来ないので仕方なく陽介は織田と共に居酒屋に入った。
意外と混んでいたが、従業員に後からもう一人来るので、と言い椅子に腰掛ける。織田はすでに何を頼もうかとメニュー表を見ていた。
「生、二つ」
織田が従業員にいうのを聞きながら、月山さんはどこかと目を凝らす。が、見当たらない。しばらくキョロキョロしていると、織田が声をかけてきた。
「お前な、そんなに見ていると店のどっかに穴が開くぞ」
「あ、開くわけないじゃないですか」
陽介が赤面しつつ答えると、
「そんなに気になるなら、従業員に月島って女を呼ばせたらいいじゃないか」
と返された。その言い方には腹が立ったが、それも一理あるな、とも思わなくもない。
「そんな言い方は失礼ですよ」
「うるせえな。んなこと知るかっての」
うるさいのは織田のほうだし、喋りかけてきたくせに知らないとはどういうことだ、と怒鳴りたいのをこらえた。
その後は、従業員の持ってきたビールを二人でちびりちびりとやりながら、大学でのことをお互いに話した。ハゲをづらで隠しているのがバレバレの教授の話なんかもそれなりにおもしろかったし、なによりうるさいとしか思っていなかった織田との会話がとても楽しかった。たぶんお酒の影響が関係しているのだろう。
二十分ばかし喋っていると、大神が大人の雰囲気をかもし出した女性を一人連れやってきた。なんだ、先輩にも彼女、いるじゃないか。と、大神について語っていたあの女子を馬鹿にした。
「よう、遅かったな。仁、清美。早く座れよ」
「ごめん、茂。悪かったよ」「悪かったわね、遅れて。あら、その子が?」
清美と呼ばれた女性が、陽介に自己紹介をした。
「こんばんわ、わたしが清美よ。ちなみに、こいつらとはちょっとした事件で知り合った、まあ友人のようなものね」
「ど、どうも。日野です」どうやら大神の彼女ではないようだ。すなわちあの女子の言い分のほうが正しかったようだ。
「あのなんであなたが?」陽介はなるべく失礼にならないように尋ねた。
「え、織田から聞いてないの」
「は、はい」
「ダメじゃないか、茂」そういう大神の声には織田をとがめる響きはない。
「だってよ。教えてたらちっともおもしろくないじゃないか」織田に反省の色はなかった。
「おもしろくなくていいのよ」そう言う清美はヤレヤレといった感じで首を横に振った。
陽介は一人だけ疎外感を感じたので三人に向って言う。
「ところで、月山さんはどこにいるんでしょうね」
「そういえばまだ見つけてないよな、お前の彼女」
「まだ決まったわけじゃないんですから」
そう言うと「大船に乗ったつもりでいろ。この俺がいるから大丈夫だ」と、織田は言う。かなり小さい泥舟に乗った気分だ。
「なんだ、まだだったの」
「ええ、まあ。いったい、どこにいるのやら」
そう言ったとき、お盆を両の手に乗せて通路を歩く月山の姿を見た。混んでいたから見つけられなかったのではと、三人に言うと、「ほう、あれが」、「陽介くん、なかなか可愛いらしい子じゃないか」、「あら、本当」と、思い思いの感想を言われた。
しかし、その後三十分ぐらいたっても彼女がこちら側に来ないのに、腹を立てて織田は食事する場所での発言としては考えられないことを言った。
「あぁ、もうじれったい。ちょっとウンコに行ってくるわ」
そう言い残して織田は席を立った。
織田がいなくなってからすぐに清美が喋りかけてきた。
「そういえば、陽介君は織田と映画を観に行ったのよね。何を観たの?」
「一緒に観に行ったわけじゃないんですけど」と陽介は苦笑ながら、観た映画のタイトルを伝えた。
「『ポリス・ラビリンス』ですよ。新米警官とベテラン警官もののヤツ」
と陽介が言ったところで、大神が声を上げた。
「え!!茂がその映画を観たのかい」
「はい。それがどうかしたんですか?」
「いや別に……」
大神が言いよどんだところで清美が言った。
「そういえば、あいつって警察のことが嫌いなのかも」
「えっ?」
陽介が話の全貌を捉えられずにいると大神は「実はね…」と話し始めた。
「実は、茂の父親は警察官だったんだよ」
「へー。そうだったの」
「もしかして、父親への反抗心で警察が嫌いになった、とかですか」
織田のことならありえなくもない。だが、大神の口調からもっともっとずっと深刻ななことなのではないのかとも思う。
「四年前に起きた警察官殺傷事件のことを知っているかい」
もちろん知っていた。いや、覚えていた。あれはなかなか印象強い事件だった。
四年前、陽介がまだ高校生活を満喫しているときにその事件は起こった。
当時、陽介たちが住む街ではかなり悪質な押し込み強盗が頻繁に起こっていた……。
早めに次の章へ進もうと思っていたのにまた延長してしまう結果になり、申し訳ありません。
これからもどんどんと、書いていこうと思うのでよろしくお願いします。