天国と地獄
「お姉ちゃん、どうして死んでしまったの。」
お姉ちゃんの部屋の扉を開けながらあたしは考えた。何か悩み事があるようにはとても見えなかったし、普段からとても明るいお姉ちゃんだった。
「何も触っちゃダメよ。お母さんが怒る!」
背後から声がした。あたしは気にせずベッドに腰掛けた。
「ねぇ、どうしてお姉ちゃんは死んだの?」
あたしは思い切って聞いてみた、既にこの世にいるはずの無いお姉ちゃんに。
「それは言えないわ」
部屋の外から声がした。昔から霊感の強かったあたしはどこからか声が聞こえてくるのだ。
「誰か知ってるよね?教えてよ」
軽い耳鳴り以外何も聞こえなかった。
お姉ちゃんは昨日風呂場で倒れていた。部活の練習から帰ったあたしがシャワーを浴びようと風呂場に行った時発見した。まるでデートに行くかのようにばっちりメークをし可愛い服を着ていたお姉ちゃんは、真っ赤な水でいっぱいのバスタブの横で眠っていた。眠っていると信じたかった。
起こそうと触れると既に体温無く、バスタブにつかる腕を引き出すと生々しい傷があった。床に落ちていた包丁には茶色い何かが付いておりそれを見て全てを悟った。お姉ちゃんは死んだのだ。
目が覚めると外は薄暗くなっていた。もうすぐお姉ちゃんの葬式の時間だ。
「やっと起きたね」
声の方へ振り返るとそこにお姉ちゃんがいた。私はついに霊が見えるようになったらしい。お姉ちゃんの死というきっかけのおかげだろうか。
「そろそろ私の葬式の時間だね」
そこにはあの日のあのままのお姉ちゃんがいた。いつもと変わらず笑顔の素敵なお姉ちゃんがいた。
「すごい……私見えるようになったよ!お姉ちゃんが見えるよ!」
お姉ちゃんは特に表情を変えず私の前を通り部屋の出口へと向かった。
「何をしているの?いくよ」
お姉ちゃんは振り返り手を差し伸べた。霊となったお姉ちゃんの手をつかむことはできないので、私は自力で立ち上がった。居眠りをしたからか、少し身体が軽くなっている気がした。
「葬式まで時間はまだあるわ。それよりどうして死んだの?教えて」
お姉ちゃんはただ微笑んで「早く行こう」とだけ言った。良くわからないあたしは行くべきか否か悩んでしまった。きっとそれが顔に出ていたのだろう、お姉ちゃんはあたしの方に向き直り説明をしてくれた。
「人は死ぬとね、しばらくは生きている人といれるの。でもね結局は天国に行くか地獄に行くかなのよ」
「えっ!天国とか地獄とか本当にあるの!」
「まぁたとえ話よ。そういう名前でも呼ばれていないし、実際そのような場所でもないわ。簡単にいうと、そうね、学校みたいな場所ね。死んだ魂は教育を受けて、また新しい命として生まれ変わるのよ。自殺をしてしまった私はどっちかという地獄行きね。命とはどういうもので本来はどう生きないといけないのか、復習と反省をしながら次産まれるのを待つの」
「そうなんだ。死んでも学校ってなんかだるいね」
「そうでもないわ。知らなかったことを知ることもできるだろうし」
お姉ちゃんはとても穏やかな顔で色々教えてくれた。命とはどういうものか。本来生きるということはどういうことなのか。死んで一日しかたってないのに、既にこんなにも勉強したんだ。
「だから、行こう」
そうだ。あたしはちゃんとお姉ちゃんを見送る義務がある。第一発見者として、妹として、ちゃんとさよならを言わないと。
「葬儀会場って遠かったっけ?」
「え?何を言っているの?葬式は行かないわよ」
お姉ちゃんはあたしではなくあたしの後ろを見ていた。恐る々々振り返ってみると、そこには血の海に横たわっているあたしがいた。
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