正しい水浴びの仕方(異世界基準)
20分ほどしてからノースとグラトンが帰ってきた。
服装が全く変わってないけど、こんな旅にお洒落なんて必要無いから同じ物を持ってきていてそれを着回すつもりなんだろう。
「まだ次に水浴びをする人がいるんですから、早く行って下さい」
ノースはさっきのあれをまだ引き摺ってるのか私と顔を合わせたくないみたいだ。
しかもいつの間にかあの胡散臭い笑顔じゃなくなっている!
………ぶふっ、こいつ思ったより余裕無さ過ぎ。
あまり刺激し過ぎてヒステリックになられたら嫌だから、無表情に借りた水浴び道具と替えの服をもって泉に向かった。
泉の畔の火は思っていたより大きい。
どうせ覗き見する人間がいるとも思わないし、さっさと服を脱いで火の近くに座ると、私はまず着ていた物を洗う事にした。
少量の草を揉み込んでから濯いで火の傍に並べ、下着は軽く絞って1枚のタオルの上に置く。
これで水浴びの間にパンツぐらいは乾いてくれるだろう。
そして予想通りだったが泉の水結構冷たい。
歩いている間は季節は夏の終わりっぽいと思ったけど、夜になると秋半ばみたいに薄ら寒くなった。
洗濯しただけで手が冷たくなるぐらいだしこれで何も考えず水浴びしようと泉に入ったら絶対風邪引く。
……思案した結果私は泉に入って頭まで浸かり全身をわしゃわしゃとして汚れを落とし直ぐに焚き火の横に戻った。
それから頭に草を揉み込み、濡らしたタオルを焚き火に翳して温めてから草を馴染ませ身体を擦る。
泉の畔の焚き火の横の真っ裸の女。
今更ながらに自分の姿を考えると、もし他人に見られたら泉の底に沈んで二度と地上に出たくないと思う程度に恥ずかしいなぁこれ。
まあこの世界じゃなかったら絶対しないし、吹っ切れているというか諦めているというか…。
とりあえず洗えたと思うのでまた泉に潜ってわしゃわしゃわしゃわしゃ…。
うー、寒いわこれ。
これで私が女子校生なら泉から上半身を出した瞬間をイケメンに見られて『水の精霊…!?』みたいな展開があるかもしれないが当然そんなもんは無い。
軽く震えながら焚き火の横に向かい、絞ったタオルで水気を拭った。
流石にまだ乾いていなかったパンツを焚き火に翳して乾す間に髪の毛以外は乾き、さっさとパンツを履いて借り物のシャツを着てみると思っていたより丈が長く膝が完全に隠れた。
胸が擦れて痛くなるような素材でも無いし、ブラは明日の朝までに乾けば問題ないかな?
タオルに包んだ下着と半乾きの部屋着セット、それから借り物の水浴び道具を持って私はさっさと戻る事にした。
ノースに時間かけ過ぎだとか嫌みを言われるのも嫌だし、とりあえずもうさっさと寝たい。
……素足で履く靴の気持ち悪さを久々に感じながら4人の元に戻る私。
その時の私はまさか、こんな事になるなんて夢にも思っていなかった…。
そう、今の私は…
……顔を真っ赤にして怒ったノースに猛烈な説教をされている最中です。
いやもう本当に何で?って思うけど、目の前でノースは怒ってるしその横のグラトンも睨んでくるしチータムさんは呆れ顔だし無表情は無表情なんですけど…、まあ、それは置いといて…。
「大体貴女私にあれだけ俗物やら神の目がと言っていた癖に自分はどうなんですか!! そのような姿で男性の前に現れるなんて娼婦でもしませんよ!」
「神官なのに娼婦の服装知ってるんですか?」
「黙りなさい! 今は私の事は関係無いでしょう! そもそもどうして…」
とまあ、ついつい口が滑り火に油を注いだりもしたけど、つまりは無表情が貸してくれたのは着替えでは無かったらしい。
そんな訳で茶々を入れながら聞いた話を要約した水浴びの方法はこんな感じだった。
まずタオルで身体を隠しつつ服を脱いで水浴び着を着ます。
(藍染シャツは水浴びの最中に身体を隠す為の服だったらしい)
次に脱いだ服を洗って乾かします。
(魔法で洗濯&乾燥するらしい)
水温を調節しながら水浴びをします。
(魔法で身体の周りの水だけ調節するらしい)
水浴びが終わったら髪と身体を乾かします。
(これも魔法で乾かすらしい)
またタオルで身体を隠しつつ服を着ます。
(外で全裸はこの世界の宗教的な問題で人目が無くてもアウトらしい)
水浴び完了。
(魔法が使えないとこの手順無理だわ…)
つまりまぁ…私には到底無理な手段しか無いんですよね。
魔法を使えない私1人で水浴びをした結果が湿った膝下丸出しの水浴び着姿での野営地帰還になった訳で…。
野営地に帰った私を見てノースは激怒、グラトン嘲笑、チータムさんは頭を抱え、無表情は無表情のまま私にシーツをばさっとかけた。
それでまあ、説教の流れになったという…。
「魔法が使えない人間なんて相手にした事が全く無かったので失念していたこちらも問題があったかもしれませんがそもそも貴女が私たちを挑発したのが」
「いや挑発に乗って大事な事忘れないで下さいよ」
「貴女が原因でしょうがーっ!!」
ははは…。
笑顔じゃなくなったノースをからかうの面白過ぎる…っ!
なんだこれ私の中でノースがスカしたクソ野郎からただのガキンチョになったわ。
いや歳は上だと思うけどこの打てば響く反応はちょっと年上扱いしにくい。
「ノース様、とりあえず服を着せませんか? ほら、乾かすから服をこっちに…」
そしてチータムさんに渡すより先に私の手元から服を引っ手繰り乾かし更に温風をこっちに吹かせて髪を解いて梳かしながら乾かしてくれる無表情が凄い。
凄いというかまぁ…うん、凄いよね。
「さっさと着なさい!!」
「…はい」
シーツを頭から被りもぞもぞと着替えた私は無表情が持ったままの私の髪ゴムを返して貰い、胸まである前髪をオールバック状態で後ろに流しハーフアップにして視界を保つ。
完全に乾いた髪はもつれる事も無く、改めて私は魔法の力ってスゲー!! と思ったのだった。