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森で野宿の4:1

あれからなんとか森に到着し、暗くなる前に泉を見つけたチータムさんの提案で野宿の場所が決まった。

水場は野生動物が集まる時もあるから近すぎると問題が生じるらしく、泉から少し離れた開けた場所で今夜は寝るそうだ。


本来の予定ではこの小さな泉ではなくもっと奥にある湖の近くで野宿予定だったらしい。

それで明日は湖に流れ込む川を辿って出発するはずだったとか。


グラトンが

「勇者様が女じゃなけりゃこんな不便な旅じゃ無かったんだけどな。 女は足が遅いしよぉ…」

とか嫌みを言ってきたけど、最後のあたりはかなり意識してノースを見ないようにしてた気がする。


いやー、ノースの足の遅さとスタミナの無さは本人含む全員にとって予想外だったんだね!

『ま…さか、この、程度…で…』

とか息も絶え絶えにノースが呟いたのを聞いた私は心の中で大笑いしましたよふへへ…。

これは1週間以上かかりますわ。


それと休憩中に無表情の威圧感が急に増えた理由はチータムさんが気付いて対処した。

何がどうしたって、サーモンサンドの生タマネギが嫌だったらしい。


子どもか!!

食べるのも遅いな!!

というかチータムさん無表情が嫌いなもの知ってるんかい!!


という心の突っ込みはともかく、チータムさんが自分の卵サンドを無表情に渡してサーモンサンドを回収したら威圧感が消えた。

苦労人ぽいというかチータムさんアナタこのメンバーのお母さんですか!? っていう感じですよ。

出来ることならグラトンを躾直して頂きたい。


そして今はチータムさんが料理の最中、グラトンが寝る場所の確保の為に整地をしたあと大量の柔らかそうな草を集めてきたところだ。

一方私を含む他の3人はというと、ノースはまた用意してもらった麻袋に座って、私はノースから距離を取って座り、その横に無表情がいるという休憩時と場所が変わっただけの状況。


ノースが働く訳もなく、私が何かさせてもらえる訳もなく、無表情は見張りだからなのか私から離れない。

正直非常に気まずい状況である。


ちなみにチータムさんは料理中だと言ったが半分は周囲の散策だったりする。

散策の理由はメニューが貧相だから。

夕飯メニューは会話から察するにパンとスープらしいのだが、パンは持ってきたものそのまま、スープは油脂で固めた具をお湯に溶かすだけらしくグラトンが

『ちゃんとした旅ならこんなもん食わなくても済むのにな』

と私の顔を見ながら文句をつけたのだ。

するとチータムさんは笑顔で

『ノース様もいらっしゃるのにこんなものをそのまま出すわけ無いだろ』

と言い、適当な木の枝を集めて火をおこすと鍋に水を入れ火にかけその場を離れ、戻ってくる度に採ってきた茸や芋っぽいものを泉の水で洗っては適当に切って放り込んでいった。

それを4回ほど繰り返した事によりスープの具は豪華になり、さらにデザートになりそうな果物まで揃っていた。

チータムさん凄い。


というかノースどんだけ偉いんだろう?


しかもグラトンが集めてきた草はノース用らしく、それを全部集めて上からシーツらしきものを掛け1人分の寝床を作った後は火を維持するための枝だけ集めて、それも終わった今はもう草を集める気は無いらしくスープの完成を待っているだけだ。


ノース何でこの旅に同行したの?

歩きでの旅は初めてみたいだし、本来なら神殿で優雅に過ごすのが仕事なんじゃないかっていうぐらい世話をされてる。

でも世話を焼く人間は少ないし、私を魔族の土地で殺すだけなら神官なんて要らないんじゃないの?

神官って所謂僧侶みたいな回復役かと思ってたけど、他に何かいないといけない理由があるのかねぇ…。



夕飯のスープは絶品だった。

グラトンが

『あのスープがこんなに旨く!?』

と驚くほどだったから間違いない。

まぁノースと無表情は相変わらず全く表情を変えないから、どう思っているのかは分からないけど。


しかし美味しい物を食べてほっこりとしていた所で爆弾が落ちた。

「そういえば、水浴びどうします?」

「面倒ですしどうせ間違いなんて起こり得ませんから、勇者さんも一緒で良いでしょう」


な ん で す と !?


今更気付いたけどこれ男4人に女1人、しかも宿屋に泊まって部屋は別みたいな措置が無いこの状況、常識で考えたらアレですよアレ。

『エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!』

ってパターン。

まぁ無いとは思うけどね、この扱いじゃ。


だがそれとこれとは話が別だ!!

問題が無いなら一緒に水浴びしても良い?

んなわけ無いだろ変態!!

男が気にしなくてもこっちは嫌に決まってる!!

でも嫌だなんて言った所で自意識過剰とか言われたら殴らずにいられる自信が無い。

ならば攻めるべき方向はただひとつ!!

「神官が異性と共に水浴びをする事を推奨するなんて、この世界の神職って俗物だったんですね」

つまり聖職者なら清廉潔白にしやがれこの野郎!! だ!

「おいてめぇノース様に向かって」

「心外ですね。 推奨したつもりはありませんよ? 普段ならどのような理由が有ろうとも許される事ではありませんが…」

グラトン黙れ!

そしてノース、言い訳は許さん!

「普段なら!? 人目が無ければ問題無いという事でしょうか? まさか神の目より人の目を気にされるのですか? 神官ともあろう方が?」

「勇者さんを1人にして何かがあれば困りますから仕方無く…」

「そうですか…。 この世界の神が状況に応じてそのような事を許される神なら仕方ありませんね。 非常時であれば若き男女が肌を晒し合い共に水を浴びる事を許される、この世界の神に仕える神官の言葉に従いましょう」

「……………くっ…」

この沈黙、……勝った!

ノースが言葉を失っている!!

良かったこの世界の神は真面目らしい。

これでギリシャ神話みたいな人間くさい神が奉られてたら危なかったけど結果オーライ!


「泉の畔に火を焚いてくる。 水浴びの順はノース様とグラトン、次に勇者様、最後に俺と…」

チータムさんの視線を受けて無表情が頷いた。

そんなに無表情の名前を教えたく無いのか!!


ノース優先はまぁ、そういうものだと十分理解した。

最後じゃないのは多分私が逃げようとしたらチータムさんと無表情が追いかける為かな。

逃げ切れても野垂れ死にしそうだから逃げないんだけど、死の宣告された人間に逃げないなんて言われても私だって信用しないから仕方無い。


チータムさんが火をおこしに行ってる間にノースとグラトンは防具と鎧を脱いだ。

ノースは下に何を着ているかは丸分かりな装備だったけど、グラトンは全身鎧。

鎧を脱いだグラトンは………腹筋と腕筋がくっきり丸分かりなぴちぴちの服を着ていた。

幸い股間はもっこりにならないようにかゆったりしていたが脛から下は上と同じぴっちり素材で腰から膝だけ余裕のあるその姿は新種の全身タイツにしか見えず、吹き出しそうになって慌てて目を逸らした。

なんだアレは!

面白過ぎる!


私が笑いを堪えている間にチータムさんが帰ってきたので、グラトンが荷物から水浴び道具らしき物が入った袋を持ち、ノースを連れて水浴びに行った。


ああ、危なかった。


それにしても袋の中は石鹸とかタオルとかが入っているんだろうか?

あと替えの下着とか…………私着替え持ってない!!

「そういえば私、水浴び道具や水を浴びた後の着替えを持ってないのですが…」

「あー…、それなら…」

チータムさんが荷物に手を伸ばすより先に無表情が自分の荷物からタオル2枚と櫛、2種の草が入った小袋、代えの服を取り出し私に押し付けた。

差し出すとか渡すじゃなく、ぐいっと横から押し付けてきたから呆気にとられる。

会話をしてくれ無表情。


「ありがとう…ございます」

お礼を言うと頷いたけど、無表情は私を殺す代わりにその時が来るまでは尽くすつもりなのだろうか?

甘えようとは思ったけど、ちょっと反応に困る。


「これは何ですか?」

まぁそれは置いといて、この袋に入った草は何だろう。

乾燥しているけど結構柔らかい。

「それは石鹸の原料の草で、水場を汚さないよう旅ではそれを使うのが主流だ」

無表情が無言だから解説はチータムさんがしてくれるみたいだ。

大変ですなぁチータムさんは。

「なるほど…使う量と種類の違いは?」

「薄い色の方はふたつまみ位を濡らしたタオルに馴染ませて体を洗う。 濃い色の方は確か水で戻した後に頭と髪に揉み込むようにして使う物だ」

「分かりました。 ありがとうございます」

流石に下着は無いけど、さっきチータムさんが泉の畔にも火を焚いてきてくれたらしいから手洗いしてそこで乾かせば良い。

パンツとはともかくブラとキャミソールは直ぐに乾きそうには無いけど、タオルに挟んで一晩火の近くに置いておけばなんとかなるかな。

シャツとスウェットは焚き火の近くにそのまま置くしかないか…。


渡された服は藍染されたシャツだけでズボンは無いけど、サイズが無表情基準だから私が着れば膝位までの丈はあるだろうし問題無い。

頭からすっぽり被るタイプだから所謂男の夢の彼シャツ状態にはならないし、襟刳りも広すぎないから肩からずり落ちるなんてだらしない事にもならないだろう。

白じゃないから透ける事も無いし、生地がしっかりしてるから乳首が目立つことも無さそうだ。

ラノベなんかの逆ハー物なら女子高生主人公がそれらを狙って色仕掛け展開とかあるかもしれんが、20歳過ぎた良識持つ大人の私はそんな事したくもないしむしろ恥にしかならんわ。

身嗜みのだらしなさを許されるのは、家の中家族的相手限定だ。


………今の服装は家装備ではあるけど外に出れないこともないからノーカウント! ノーカウントだから!

セーフセーフ!!



私は物語の紅一点には色気を求めるけど、自分がその立場になるなら話は別だ。

シチュエーションだけならなかなかだけど、キャストで全てが台無しだし、そもそも4人も私にそんなもん望んでないっていうか望んでるのは死っていう、どういう事なの状態。

さっさと水浴び済ませて早く寝よう。


あーあ、明日本当にノースが筋肉痛になってたら良いなぁ…。

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