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餓死はしたくないけど別の死に方を望んでる訳じゃないから

しばらく続いた問答は苛々が募るだけかと思いきやいくらか有益な情報もあった。

魔族についてだけでなく、ドラゴンの事も聞いたら教えてくれたのだ。


この世界のドラゴン、想像以上に偏食だったわ。

生涯決まった物からしか魔力を摂取できないらしいが、それが肉か野菜かという次元ではないらしい。


例えば林檎から摂取するドラゴンは基本的に林檎しか食べない。

食べれば食べた分全てを魔力に変換して生命維持をするので食い溜めしておけば林檎の実らない季節も問題ない、つまり定期的な食事は必要無いらしい。


ちなみに音や光、匂いなどを媒介に魔力を摂取するドラゴンは珍しくないらしい。

炎や雷、果ては色を食べるドラゴンもいるのだとか。

……色を食べるってどういう事ですか?


あと人食いドラゴンについても聞かされた。

基本的に特定のモノしか食べられないドラゴンだが、それが希少なモノで十分に摂取できない場合は代用に人間や魔族を食べるらしいのだ。

それらの体内に宿る魔力なら問題無く吸収できるらしい。


飢えたドラゴンに襲われたときは魔力の多い人間を差し出して被害を抑えるらしく、まぁ聞いても無いのにグラトンが嬉々として、

「もし森のドラゴンが飢えてたらお前を口に放り込んで俺達は帰るぜ!」

とか言い出してまたノースに

「勇者さんだけで満足しなかったら我々も食われますよ。 それにあの森のドラゴンは最近居着いたばかりですから、飢えている事は無いでしょうね」

とたしなめられていた。

グラトンの頭の中は鳥並か!!


それにしても飢える飢えると聞いていたら私もお腹が減ってきた。

声を出したからか休憩直後より喉も渇いた気がする。

「そういや腹減ったな」

「昼食を食べる暇もなく城を出ましたからね」

「ああ、勇者様召還のせいで食い損ねたんだったか」

嫌味たらしい言い方をするグラトンだが、流石に私も逐一立腹するほど若輩者ではない。

……と心の中で自分に言い聞かせる。


いい加減慣れないとこっちが疲れ損ですよ全く…。

チータムさんが荷物から皮袋と紙に包まれた塊を2つ取り出し片方をノースに差し出す。 チータムさんはノースに使えてるのか? だからそんなに甲斐甲斐しいの?

グラトンも自分の荷物から似たような物を取り出して早々に包みを開く。 するとそこには長さ20cmほどのバケットサンドのような物が3本あった。


「おや、勇者さんどうなされましたか?」

物欲しそうな顔に気付いたノースが白々しく聞いてくる。 これは分けてもらえそうに無いと思うけど…ものは試しですよね!!

「私にも分けてもらえませんか?」

「これは我々の昼食なので申し訳ありませんが無理ですね。 夕食は5人分を想定した量を用意してありますのでそれまで我慢して頂けますようお願いします」

ぐぬぅ…。

これは一口も分けてくれる気無いわ。 そんだけあるんなら分けてくれても良いと思うんですがね…。


しかし飢え死には無さそうで安心した。

一食抜いた程度で貧血を起こすようなやわな育ちはしていないし、ノースの速度に合わせるなら夕飯まで過酷な事は何も無いでしょう!

だから静まれ腹の虫!!

しかし水分補給はしないと脱水症状はかなり辛い。


「では水だけでも分けてもらえませんか?」

「いちいちうるせえな! ………はっ、まあ良いこれでも使えよ」

!?

あのグラトンが私に皮袋を投げて寄越しただと!?

皮袋の中身は毒じゃ……無いね。

むしろ何も入って無いね!!

皮でも噛んで唾液啜ってろってか!?


「グラトン、勇者さんは魔法が使えないのですから貴方の優しさは理解されませんよ」

「ああ、こいつが幼子以下の魔法知識なのを忘れてました。 これすら使えないなんて放っておけば直ぐに死ぬんじゃ無いですか?」

何なんだこいつら中学生レベルの嫌がらせか!?

逆にこっちが恥ずかしい気分にさせられる低レベルな嫌味に、チータムさんが顔を背けたのが余計に居たたまれない。


大丈夫かこの人達…精神年齢的に考えて。


しかしこの皮袋どうすりゃ良いんですか?

魔法で水が溢れる不思議な皮袋なの?

と考えていたら横から手が伸びてきて皮袋をがしりと掴んだ。


…………すっかり忘れていたけど真横に無表情がいましたわ。

見れば無表情も自分のバケットサンドを膝の上に広げて食べていたらしい。

無表情の顔と皮袋を持つ手を交互に見ていると……いつの間にか皮袋が膨らんでいる。


そのままゆっくり私の手に皮袋を置いた無表情は膝上のバケットサンドの1本を千切って私に差し出した。

突然の事に躊躇って直ぐに受け取らなかった私に無表情が無言の圧力をかけてきたので慌てて受け取る。


左手には水の入った皮袋、右手にはバケットサンドを持った私に何故か圧力を掛け続ける無表情。

何だこれさっさと食べろと言うことか!?

取り敢えずバケットサンドにかじり付くと、レタスと厚く切られたハムの歯ごたえと味を感じた。

横で無表情も食べ始める。


…………………なんですかこれは。

背後を見ればノースとグラトンが固まっていて、チータムさんはこちらを気にせずバケットサンドをかじっていた。

これは無表情味方フラグですか?

あとこのメンバーで1番偉いの無表情で確定ですか?

私殺されない可能性有りですか!?

ちょっとテンション上がってきましたよ私!


しかし…現実はそんなに甘く無かった。

「………お前が、…死ぬのは、……魔界だ…。 それまで、…精々、余生…を、……噛み、締め…ろ」

初めて口を開いた無表情は驚くほど途切れ途切れに、私に死を宣告したのだった。

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