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これは死ぬしかないんじゃないの?

もやもやとした気持ちのまま私は取り敢えず装備品を地面に置いた。

靴を拾って履く。


靴すら履かせず外に出すとか!!

……これは魔王退治したら私が第2の魔王になるフラグなのかもしれない。

神が私にこの国を滅ぼしなさいと告げている気がする!

これはそういう話の世界か!!


そうじゃなきゃやってらんないですよ真剣に。

というか私装備品渡されただけで旅費とか旅の必需品渡されてない。

さっきからあえて見ないようにしてる4人が私の分を持ってくれているなら良いんだけど…。


「おい」

はい来ました何でか知らないけど怒り露わな顔の人が。

「俺はお前が勇者なんて認めないからな」

でっすよねー!!

そんな匂いがぷんぷんしてました。


「早く真の勇者を召還するためにもさっさと死ね」


……は?

おいお前ちょっとそういう事言うの?

私の海どころかマントル突き抜け内核まで到達するほど深い心でも死ねとか言われたら流石に噴火しますけど!?

6000℃の鉄の塊ぶつけて欲しいのかーっ!!


「やめなさいグラトン、女性にいきなりそんな事を言うなんて」

いきなりじゃなくても駄目ですけど!?

胡散臭い笑顔の野郎はやっぱり信用できん!

とりあえず無視だ無視。

私は大人だ怒らなーい。


なんとか残りの防具をスウェットとTシャツの上に装着したけど着替えの服も無いしそもそもこれ外に着て行く服じゃない…。

無い無い尽くしだよ本当に!!


しかもこれ全部サイズ大きいんですけど。

脛当てと胸当てはぎっちぎちに締めて許容範囲になったけど籠手だけは締めてもぶかぶか。

剣は鞘にベルトが付いたままだった物を選んだからなんとか帯刀できたけど重いしそもそも使い方も良くわかんないのに持ってても逆に怖い。


いっその事皮の服とひのきの棒装備の方が安心できる気がしてきた。

どこかの街で自分に合う装備を見付けたとしても買うお金はどうしたら良いんだろう…。


それにしてもだ。

無視したら突っ掛かってくるかと思ってたけどグラトンとやらは何故か静か。

ちらりと4人に目を向ければ胡散臭い笑顔の野郎が全員を集めてひそひそと話をしている。


召還された場にいたやつらとは違い私に聞こえない声量にしているあたりがいやらしいなこいつら!


微妙な顔してたヤツは何か凄い困ってるし、無表情は無表情のままだけど絶対良い相談じゃない。

グラトンが悪い笑顔になってる時点で身の危険を感じる。

胡散臭いヤツの顔は見えないけど絶対表情変わってないわ。


これ私殺されるかもしれないね。


なんかこう事故に見せかけるか見殺し的な。

もう絶望しか見えないんですがここに突然弟が空から降ってくる的な展開はありませんかー。


……はあ。

どうやら相談は終わったらしい。


胡散臭いヤツが張り付いた笑顔のままこっちに3人を連れて近付いてくる。

いきなり刺されたりしないよね…?

流石に城門前で殺される事は無いよね?


「改めまして自己紹介をさせて頂きますね。 私はノース・アルジャンと申します。 生業なりわいは聖職者です」

狐顔の胡散臭い笑顔で聖職者とか信用できないわー。

関西弁で話しながら商人ですと言われたほうが納得できる。


「俺はグラトンだ。 お前なんぞに名乗る家名は無いさっさと死ね」

……お前は会話の最後に死ねと言わないと死ぬの?

そうじゃないならしばくぞコラ。


「あー…、俺はチータム・ゼッカ。 騎士だ」

ぎこちない笑顔で握手を求める微妙な顔もといチータム。

今のところチータムが1番まともそう…。

邪魔な籠手を外して握手に応じると笑顔が固まった。

そっちが握手を求めたくせにそんな反応するなんて失礼ですよ…。


最後は無表情だが顔を見ると見返してはくるが一向に声を出す気配が無い。

話したくないほど嫌だったりするのかね…。


王っぽい人が剣士と魔術師と神官をつけるとか言ってたけど無表情が魔術師っぽい。

剣士2人に魔術師と神官。 ゲームならバランスは良さそうだけど現実ではどうなんだろう。

4人をまじまじと見ると服装は似たり寄ったりだ。

旅の出で立ちという事か。


チータムとグラトンは鎧を着て帯刀しているがノースと無表情は私と同じ軽装備にメイスと杖を持っている。

魔術師や聖職者ならローブとかじゃないのかと思うけど旅には向かないのかな?

マントとかも着けてないし。

全員そこそこ大きな荷物を背負っているけどあの中に私の分はあるだろうか…?


ノースは狐顔の糸目のせいで目の色は分からないが後ろで束ねた髪は青銀で腰より少し上ぐらいの長さ。 唯一の聖職者らしさはこの髪の毛だけだね! 全体的に線が細くて私より拳一つ分背が高い。 ちなみに私は高校時代の最後の測定で165cmだった。


グラトンは目も髪も暗い赤、臙脂えんじ色だ。 短い髪がつんつんしている三白眼の悪人顔。 鎧で身体は見えないがそんなものを着てるぐらいだから筋肉質なんだろう。 背は180cmを余裕で超えてると思う。


チータムは目が濃い青色で髪は艶の無い茶色がもさもさしている。 何かを頼まれたら断れない苦労人っぽい雰囲気。 グラトンと同じく身体は見えないが身長はグラトンより少しだけ高い。


無表情は全体的に暗い。 熟したオリーブみたいな目で暗緑色のさらさらストレートをハーフアップにしている。 軽装の下は筋肉質で何故かこのメンバーの中で1番背が高い。 ……まさかグラトンが魔術師で無表情が剣士だったり…? いや武器が杖だからそれは無いか。


魔法を扱う人間は髪を伸ばす習慣でもあるのかノースも無表情も綺麗な髪をしている。

それに比べ私は日本人らしい黒目黒髪で髪は切るのが面倒で伸ばしっぱなしなのを全部まとめて高い位置で束ねたポニーテールとも呼べないひっつめのでこっぱち。 服装は言わずもがな…。


これは駄目ですわ。

私の女子力は地に埋まっている。

安らかに眠れ我が女子力よ…アーメン。


いつまでも無表情と見詰め合っていては話が進まないのでとりあえず私も自己紹介をば…

「私はナガレ・ウツロ。 剣とは無縁の生活を送る魔法の無い世界から召還されました。 この世界で死ぬ気は無いです」

あと勇者になる気も全く無いです。 言わないけど。

「うるせぇな…。 お前が死ねばまた召還術が使えるようになるからさっさと死ねよ」

だからお前は最後に死ねって言わないと死ぬの!? いい加減にしろ!!


いやきちんと声に出さない私がいい加減にするべきか…?

でも逆切れされても困るからまだ言わないでおこうっと。


「魔法の無い世界!?」

「ええ。 召還された場で魔力の強い者を召還したと聞きましたが、私の住む世界で魔法とは御伽噺の中にしか存在しない不思議な力という程度の認識しかありません。 この世界の魔法とは何なのか。 魔力があるらしいですが使いこなせるのか。 現状それすら分かっていません」

チータムさんは驚いているがノースと無表情は表情が変わらないから驚いてるのかわからん。

というかチータムさんの言葉聞いてようやく驚くとかどんだけ私の話に関心無かったんだグラトン。


「魔法が無いと言われましたが魔法の概念はあるんですか? おかしな世界ですね」

私とノースの唯一の共通点は相手を最初から疑ってかかっている所のようだ。

面倒なやつ……お互い様か。

「先程も言ったように御伽噺の中には魔法を使う魔女や魔法使いがいるんです。 しかし私の世界の人間にとって魔法は夢物語であり現実に使える力ではありません。 もしかすると使えない上信じていないのに魔法の概念があるのは、異世界の住人が伝えたからかもしれないと今思っています」

「というと?」

「私のように異世界に召還され使命を全うし帰った者がいれば思い出として手記に残すかもしれませんし、もしくは魔法の存在する世界の方が私の世界に来て伝授しようとしたかもしれません。 それらが時代を経て夢物語として残ったと考えれば不思議では無いでしょう」

「では貴女は本当に魔法を使った事が無いのですか?」

「ありません。 是非とも使い方を教えて頂きたいくらいです。 呪文詠唱なのか魔方陣なのか、媒体が必要なのか無くても良いのか、タブーがあるならそれは何なのか。 聞きたい事は山ほどあります。 剣の扱いも全く知りませんし、それならば召還された理由の魔力を伸ばそうと思っていますので」

「生憎私は教師ではないので人に教える事はできませんね」

あ、そう。 教える気は無いんですね。


これは頼んでも教えてくれないわー。 絶対私なんぞが勇者様に云々的な言い訳で教えてくれないわー。

わーわーわー…、これは酷い。

暗に戦いの最中に死ねって言われた気がする。


ノースがこれじゃさっきの話し合いの様子からするに誰も私に戦い方を教えてくれないだろう。

何がいかんのかはわかんないけどグラトンだけが隠さなかっただけで召還の場にいた人間と目の前の4人は満場一致で私にさっさと死んでもらって次の勇者呼び出したいんだなきっと。

だからこんな扱いなんだ。


心当たりが1つしかないけど…女じゃいかんのか?

質問しても絶対誰もまともな答えはくれないわ。

ヤバイこれ高校生がクラスでぼっちで虐められるより切実にヤバイ。


なんせこれ命かかってる。

剣とか防具渡された時点で戦闘必須だと思ってたけど建前で渡されただけできっと剣持って前衛職したらすぐ死ぬ装備なんだこれは。

だって後衛職と同じ装備だしそれより絶対質が悪い。

実践用ですら無い気がする。 もしかして木刀とかの訓練の時に身に着けるやつじゃないの?


これは戦いの最中殺意の波動に目覚めるもしくは暗黒面に落ちないと死ぬわ。

闇落ち確定だわ。

次の勇者が弟で打たれるパターンですわ。


……弟よ、姉ちゃんは巫女じゃなくて魔王みたいです。

いや魔王化より先に死ぬかもしれないけどね…。

「城門前にいてもどうにもなりませんし、出発しましょうか勇者さん」

名前すら呼ばれないみたいだ。 まあ偽名ですけどね。


知らない土地で何も持たず逃げても野垂れ死にが関の山。

敵しか居ないこの現状。

こいつらには何も期待すまい。

私はとりあえず殺されそうになるまでこいつらについていくだけですね。

こっちの世界で死んだら元の世界に送還もしくは夢落ち、とかだったらいいなぁ…。

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