第4話:口へ
雲ひとつない快晴の空からふりそそぐ光が、白く輝く包帯を巻いたエプロン姿の若い女性を照らす。
「皆さんこんにちは。一文字岩鉄先生のクッキングエルボー、まだ野外ロケです」
カメラマンの足取りも軽い。四回目ともなれば、河原での足さばきにも慣れたようだ。
「それでは登場してもらいましょう。先週のちょっとした事故で入院していた一文字岩鉄先生です」
若い女性の横には、黒い道着を着込んだ屈強な男が腕組みをして立っていた。
「うむ、皆には心配をかけた」
「先生、退院おめでとうございます」
「うむ、そっちも何か怪我をしているようだが」
「これですか? 常識を知らない馬鹿に石をぶつけられまして」
「そうか、大変だったな」
「ええ、それはもう」
二人は顔を見合わせて笑った。
「それで先生、本日のメニューはなんでしょうか」
「うむ、今回はこのうどんを使おうと思う」
男はもっていた皮袋からうどん玉を取り出した。
「魚ではないんですか?」
「うむ、懇意にしている占い師に水難の相があるので水に近づくなと言われたのでな」
「そうだったんですか。でもすごく当たりそうな方ですね」
「うむ、我が道場設立の時にも世話になっている」
男は何かを思い出しているような遠い目をした。
「あの時も占い師に火難、水難、険難、獄難の」
「そうなんですか。それで今日はどんな料理を作るのですか?」
「今日は焼きうどんでいく」
「焼きうどんはさっぱりしていいですね。それでは先生、よろしくお願いします」
「うむ、今まで料理できなかった分、気合を入れていこう」
男はキッチンのコンロを無視してそこらに落ちている小枝をかき集めて火をつけた。焚き火はゆらゆらとした炎を上げる。
「まずはうどんを焼く」
「火でうどんを焼きます」
男はうどん玉を一つ掴むと焚き火の上に直接のせた。白いうどんの肌が所々黒く変色していく。
「次にうどんを皿に乗せる」
「焼きあがったうどんを皿に盛り付けます」
男は手づかみで焚き火からうどんを取り出すと、用意してあった皿に載せた。
白と黒のコントラストも不気味な物体が、皿の上でとぐろを巻いている。
「よし、食え」
「嫌です」
新・男の料理教室「ワクワク野外ロケ」終