人を見下ろすジャイアントホイール
ゴンドラに展開された迷宮に挑むヤヤ
死神仮面の女性が言う。
「やっぱり、戦闘であれを倒すのは、人には、不可能なのかも知れないわね」
「そうか? ヤヤが負けている所なんてよく見るけどな」
良美の言葉に死神仮面の女性が言う。
「それは、その相手が人間を止めているからよ」
「好きに言ってるね。それでどうするの?」
良美の言葉に死神仮面の女性が言う。
「だから、からめ手で行くわ。迷宮脱出、それを得意にする友達が居たみたいだけど、本人は、どうかしら?」
良美が少し考えながらいう。
「時間制限なければ大丈夫だって言ってたけどね」
死神仮面の女性が告げる。
「今回は、その時間制限があるわよ」
そんな中、較がメリーゴーランドのゴンドラ乗り場に入る映像が映されていた。
ゴンドラの前には、死神の仮面を被った陰陽師が立っていた。
「お待ちしておりました」
それを聞いて較が言う。
「直接対決するって風じゃないね?」
陰陽師が頷く。
「ええ、私との勝負は、術による、競い合い。この観覧車には、一周、ほぼ十五分、そして、入ってから十五分以内に脱出出来なければ一生抜け出せなくなります」
較がゴンドラを形成している術を見て言う。
「これってあちきも契約を結ばなければその効果は、出ないよね?」
陰陽師が笑顔で答える。
「はい。しかし、貴女は、契約を結ぶ」
大きなため息を吐いて較が言う。
「詰り、その契約をしなければ、その仮面を壊すって事?」
あっさり頷く陰陽師に較がゴンドラに近づき言う。
「了解。やってあげるよ、この勝負」
そして、較がゴンドラに入ると観覧車が回り始め、狭い筈のゴンドラの中が無限に広がっていく。
「どこかに出口があり、制限時間内にそこに到達出来る。そうでなければ契約が成立せず、術が発動しないはず。とりあえず、『アポロンビーム』」
較の指先から放たれた熱線は、真直ぐに伸びていく。
「完璧に端が無いね。取り敢えず、動いてみますか」
陸上の世界新記録を遥かに超えるスピードで駆け出す較。
それでも、周りの風景は、変わらず、ゴンドラの端の窓から見える外の風景は、ゆっくりと上昇していく。
「左右が駄目なら、次は、上下!」
ジャンプをして下降を始める前に空中を蹴る。
『イカロスキック』
次々と蹴り上げていき、本来の観覧車の高さより高く飛び上がっていた。
しかし、窓から見える風景は、ゆっくり上昇を続け、下降をするとすぐに着地してしまう。
「空間が捻じ曲げられているのは、間違いないね。力技が通用するかな。『アポロン』」
超高熱が空間に広がるが、それだけであった。
そうしている間に窓から見える風景に変化が現れた。
「風景の上昇が止まった」
そして、窓からの風景がゆっくりと降下し始めた。
「もう、半分が終わったって事だね。純粋に時間が掛かる迷宮じゃ無い事を祈るしかないね」
複雑な印を刻み、長い詠唱を続け、古流の技で出口を探索する較。
「おかしい、この空間全ての風を操ったけど、外部に繋がる流れが無かった。どういうこと?」
悩む較だったが、その間にも術に掛かった時間もあり、窓から見える風景は、地上に近づいていた。
「もう時間が無い。契約を結んだ以上、自力での脱出が不可能になる」
焦る較。
窓から見える風景は、最初のそれと殆ど同じになる。
「きっちり、十五分って事か……」
そこで較がある事に気付く。
「そうか、ここは、観覧車のゴンドラの中だったんだよね」
そして気配を探り言う。
「絶対に間に合わせる! 『カーバンクルドリル』」
自分が術で生み出された床に打ち抜き、下降を開始する較であった。
ゴンドラの外、陰陽師が勝利を確信していた。
「いくら八刃でもこの迷宮から脱出する事は、出来ない」
そうしている間に、較が乗ったゴンドラがゆっくりと乗り場に戻ってきた。
「陰陽師の勝利だ。これで、真に大和を護っていた者が我ら陰陽師の力だと証明できる!」
歓喜の声を上げる陰陽師。
そんな中、ゴンドラの扉が内側から吹き飛ぶ。
「馬鹿な、この迷宮の脱出法が解るわけが無い!」
驚く陰陽師に地面に降り立った較が言う。
「随分と巧妙な迷宮だった。自分が乗っているのがどんなに広がっていてもゴンドラだって事を思い出さなかったらやばかったよ」
陰陽師が悔しげに言う。
「気付いたのか?」
較が頷く。
「一周にほぼ十五分、このほぼ十五分、詰り、十五分掛からないのがこの迷宮の仕掛け。この迷宮の出口は、ゴンドラが一周し、地上部で客を降ろす僅かな時間だけ開くように設定されていた。観覧車という特別な施設を考慮し、常識にあった方法で出口の開く時間を制限した見事な迷宮だったよ」
悔しげに死神の仮面を脱ぐ陰陽師。
「所詮は、お前達、八刃には、勝てない。大和の平和を護っていたのは、お前達って事だな」
較は、仮面を受け取りながら言う。
「それって物凄い勘違い。あちき達に他人を護っている気なんて無い。あくまで自分の為だけに戦っていた。妖しや悪霊から大和を、日本を護っていたのは、貴方達だったよ」
「本気で言っているのか?」
驚いた顔で言う陰陽師に較は、強く頷く。
「八刃の人間だったら、誰に聞いても同じ答えだよ」
それを聞いて陰陽師が苦笑する。
「結局、独り相撲だったって事か」
較は、五枚の仮面を持ち、中央の城を見て言う。
「絶対に助け出すからね」
こうして、較は、良美が囚われた城に向かうのであった。