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三題噺(投稿テスト)

作者: 斑鳩じゅん

三題噺。

「うさぎ」「ぬいぐるみ」「冬」


 冬というのは、どうしてこうも悲しく寂しい気持ちになるのだろうか。

そんな普段は、考えもしないような事を考えてしまうのは冬という季節が持ち得る魔力

なのだろうか。

昔、冬に何か嫌なことでもあったかなと過去の出来事に思いを馳せてみると、冬だから

嫌なことなんてさしてなく春夏秋冬どの季節でも嫌な事は、起こり得るという事を確信

して更に悲しい気持ちが倍加したので過去に思いを馳せるのを打ち切った。


「ふぅ」

溜息を一つ

 眩しいぐらいの雪化粧を施した下校道をギシギシと雪を踏み固める音を五月蝿いぐら

いに聞きながら帰路の道程を進んでいると、目の前にうさぎが横切った。

「……」

「……」

 うさぎと俺は、目が合ってお互いの間に沈黙が場を支配した。

うさぎ、うさぎである事は間違いない、誰が見てもうさぎと答えるだろう。

だがそのうさぎは、野で見かけるような小さく可憐で思わず愛でてしまうような赤目の

ソレとは一線を画していた。

 ソレは人の形を成していた。

頭には、黒く縦長の耳が生えていて、全身は黒で覆われていた、脚は綺麗な黒タイツを

履いて足は雪道だというのにヒール姿だというのに赤いマフラーをしている。思わず絶

句してしまった。

 なにより今は冬である標高の高い山道にあるこの街は気温も低く、冬となれば氷点下

まで下がる、というのに目の前のソレは、所謂バニーガールの姿で現れたのだ。

ただでさえシトシトと降る雪で銀世界に覆われている中黒い扮装で現れるとそれだけで

目を引くというのにバニーガール姿である。俺の処理能力は、たちまち限界を迎えオー

バーヒートしてしまったようで、口をOの形で文字通り唖然としてしまっていた。

 そのバニーの少女は、俺のそんな胸中を察す事もなくにっこりと喜色満面で

「こんにちは」

とさも当然のように挨拶をしてくる始末だ。

「……」

 俺は、挨拶を返すこともなくフリーズしたままその少女を眺めていた。

 少女は、俺に無視された事にめげもせず。

「最近は寒いですね〜寒さの記録をまた更新したらしいですよ」

と世間話をしようとしている。

俺は、あんたの姿を見ているだけで寒いです。

 その少女は、急に身体を掻き抱いて体をくねらすように斜めに構える。

流石に寒いだろう、変態じゃなくてよかったと心の中で安堵していると。

急に彼女は咎めるような鋭い視線をこちらに向けると。

「あんまりじろじろ見られると流石に恥ずかしい」

 寒かった訳ではなかったようだ、いや寒いのかもしれないが、それよりも俺の視線が

ねちっこく感じてそれに嫌悪を覚えたようだ。

視線を斜め下にずらすと。

「なんでバニーなんだ、というかあんたは寒くないのか」

そう憮然と答えると

「えっちな人には秘密です」

また満面の笑みでそう答える

「誰が見ず知らずのいきなり現れた変態姿に欲情するか」

そう吠えると、よほどショックな発言だったのか後ろを向いてしゃがみこんでしまった。

「どうせ私の身体なんて誰も興味ないんだ……私、変態なんだうぅっ……」

 後ろ姿もセクシーだなと脱線しそうな脳を無理やり奮い立たせ

「いや、あの……セクシーだと綺麗だとは思うけど……こんな極寒の地でそんな寒そう

な姿を見るとそれよりも心配になるというか、なんというか……」

そう言葉を濁しながらたじたじに答える

「本当ですか、ありがとうございます、渚感激です」

 と、さっきまでの落ち込みが嘘のように喜色満面でずいっと身体が密着するぐらいま

で身を寄せてきて手まで握ってくる。

 いくら何でもそんな裸同然の格好で近寄られると流石に恥ずかしくて堪らない。

「わかった、わかった」

と両肩に手をやり強引に身体を押し返す。

 それには不服そうに少しむっと頬を膨らます。動揺とパニックで聞き逃しそうになっ

たけれど、彼女は、渚と言うらしい。それとバカっぽい子という事もわかった。

「というか渚ちゃん……か、こんなところでそんな姿で何をやってるんだ」

「そうだった」

渚は、思い出したように、手のひらにぽんっとやや古臭い動作で手を打つと

「お兄さん、お兄さん、ちょっと付き合って下さい」

と突然手をひっぱって駆け出してゆく


 雪道で転ばないように必死に着いて行くとショッピングセンターのゲーセンの前でや

っとの事で開放された。

「ここにうさちゃんがいるんです」

と豊満な胸を張って偉そうに宣言する。

俺は、脳内でその言葉を訳してみる、つまりクレンゲームでうさぎのぬいぐるみだか何

かを取りたいから手伝いやがれこのやろーって事らしい。


だがその前にやらなければならない事がある。


ここは、ショッピングセンターだ、そして今は昼間だ。

辺りの学生や男連中からねちっこい視線が渚を注視して、射るような殺意を帯びた視線

が俺を貫く。前者は主に男どもが後者は、主婦や女性達に、お前彼女に何を着せている。

と言わんばかりに視線を投げかけてくる。


 俺は、この場から遁走するように彼女の手首を掴むと一目散にその場から退散した。

「うにぁーうさちゃんがぁ〜」

と悲愴な叫びを渚は上げていたけれど俺は、それを無視して唯々疾走した。

さっきとはまるっきり立場が逆転した形となる。

 そうして到着したのは、ファミリー向けの比較的安価で機能的な服が揃っていること

で有名な服屋である。

 店内に一歩足を踏み入れると、店員が目を剥き、責任者と思しきピリッとした雰囲気

の三〇第半ばの女性が歩み寄ってきた。

「お客様、そのようなお召し物での来店は他のお客様のご迷惑に――」

俺は、屈しないように負けずに言葉を遮るようにして

「この子を可愛くコーディネートしてくれないか、予算は三万円まで、この服が迷惑だ

と言うならば手短に」

そう語気を強めて言うと。渚は、胸を押し付けるように腕を組んできた。

「いきなり何をっ」

「手伝って、コーディネート」

 少し大人しめに怯えたように子供が叱られるのを待つような仕草でこちらを見上げて

くる。

「わかった」

それで彼女の機嫌は一気に満面。

彼女の扱いが少しわかってきた気がする。

 それから小一時間程彼女は着せ替え人形のように色々な服を取っ替え引っ変え着こな

していった。

 正直、モデル雑誌も買わない俺は、目が肥えているとはお世辞にも言えないが元々の

素体がいいのか、どの服を着てもプロのモデルと見間違える程に可愛かった。

俺は、そんな事をおくびにも出さず、財布を覗き込むと諭吉が四人程こちらを見上げて

いた。

 最近の流行を取り入れつつ、唯一使いえる赤いマフラーを合わせたコーディネートで

纏まった。

 さっきまでの淫靡な雰囲気が嘘のように今は、チェック柄のミニスカートにレースの

ついたシャツにキャメルのコートにバニー衣装の時から身につけていた赤いマフラーに

茶色いひざ下ぐらいまでのブーツ。絶対領域と言われる、スカートとニーソックスの間

から覗き込む素肌が先ほどまでにバニーとは違うエロさを醸し出していた。

「合計二万八千円です」

 会計を済ますと彼女はウキウキとした感じで自然な感じで手を繋いでくる。

 そこでふと我に帰る、どうした今日出会った、見ず知らずの女の子に俺は、服を上か

ら下までおごっているんだろうか。

「さぁお兄さんうさちゃんを開放しにいきましょう」

そんな嬉しそうな声を聞くと、そんな疑問はどうでもよくなった。

「徹守だ」

簡潔に名前を名乗ると、手を強く握り返してゲームセンターまで向かった。


余談だが結果的に残りの諭吉の一人もうさぎのぬいぐるみ開放で鉄の塊に吸い込まれる

事となり俺は、今日という日を嬉しくもあり充実はしたが、色々と後悔するハメとなっ

た。それでも、かなり巨大なうさぎのぬいぐるみを両手抱える嬉しそうな満面の笑みを

見るそとやはりそのような後悔すらもどうでもよくなってしまった。


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