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人魚

幼い人魚のホルンにとって、人間というのは未知の存在であった。


ホルンの暮らすカラクサは世界四大国の一角で、海中にある大きな国だ。


カラクサには海獣や人魚達が暮らしていて、人間は国主であるツユリの補佐官の1人だけ。


遠目に見たことはあっても言葉を交わしたことはなかった。


何せ、国主の補佐官だ。多忙である以前に、その地位は高く、近寄ることは畏れ多い。


人間とはどんな存在なのか。


人魚の集落の大人達に聞けば、人間とは、恐ろしく、近寄ってはならない存在だと怖い顔でホルンに言った。


我々の声を好み、我々を見せ物にする者が多いのだ、と。


故に決して、人間に関わらず、近寄ってもならんよ、と大人達は何度も言い聞かせた。


その度に、人間って恐ろしいのか・・・とホルンは頷くのだ。


そして、ホルンが真実、人間の恐ろしさを目の当たりにするのは、それから間もなくの事だった。




海中の大国、カラクサにある人魚の集落は1つきりではない。海のあちこちに点在している。


一カ所に固まれば襲われたとき一溜まりもないということと、分散していれば敵から発見されにくいという理由だった。


ホルンの暮らす集落は、カラクサでも端の方に位置している。


人の住む大陸にほど近く危険だが、周囲は岩場が多くあり、これまで一度も襲撃されたことのない見付かりにくい場所だった。


これからも、見付かることはないだろう。


きっと、みんなそう思ってた、とホルンは唇を噛みしめ海中で1、2を争う速度を誇る人魚の全速力で、遙か頭上で猛スピードで大陸に向かう船影を追った。





1時間ほど前、集落を、人間が襲った。


大量の襲撃者に、為す術無く、息を殺して岩の隙間に隠れたホルン以外の全員が捕らえられ、船に連れ去られた。


ホルンに出来たのは、襲撃者から身を隠しきり、立ち去ったのを確認して王宮に救援を求めて足早に逃げる船影をこっそり追うことだけだった。


「っ絶対、助ける!!」


集落は1つの家族だ。


家族をみすみす見せ物にするわけにはいかない。




どれほど後を追っただろうか。


陸地が遠くに見える頃、それまで猛スピードを出していた船が何故か一気に減速した。


まだ陸地は遠く、他に船影は見えない。何故・・・?


何かあったのだろうか?


ホルンは緊張しつつ船から離れて浮上した。


後で知ったことだが、そこはシュレイアの内海にも繋がる湾の入り口で、その入り口にはシュレイアを含めた海に面する各国の見張りが許可のない船舶の侵入するのを防ぐため、牽制していたところだったのだ。


船の止まる今の内に、家族を救出したい、救出せねば、とホルンは船を睨む。


だが、幼い人魚のホルンに、一体どうやって単身助けることが出来るだろうか。


ぎゅっと拳を握る。


「どうしたら・・・」


<何がだ?人魚のお嬢ちゃん>


「え?」


後ろから声を掛けられ驚き振り返るホルンの目に、真っ白な獣が飛び込んでくる。


初めて見るその獣に、ホルンは驚き固まった。


<人魚がこの湾にいるのは珍しい。どうしたのだ?


・・・面倒事になりそうだから早く自分の家に帰りなさい>


「か」


<蚊?>


「家族が、あの船に捕まったの・・・!!助けたい!!御願いします!!手を貸して!!」


見ず知らずの獣に、頼むしかホルンには選択肢は無い。


何時までも船が止まっているとも思えないからだ。


ホルンの訴えに、獣は目を鋭くさせ、船を睨んだ。


<人魚狩りか・・・この辺りでは無いと思っていたんだが・・・


よし、お嬢ちゃん。ワシだけでは動けぬ故、嬢に指示を仰ぎに行く。


着いてきなさい>


「じょー?」


首を傾げるホルンに、獣は嬢じゃと笑った。


<ワシの大切な主人のような方だ>




嬢、と獣が呼びかけたのはホルンより少し年下だろう人間の少女だった。


「あら、シロさん。偵察どうでした・・・ん?


人魚さんとは、珍しいわね」


陸側にいて大きな水鳥の背に跨る少女に、シロと呼ばれた獣は困ったことになったぞ、と報告する。


「何かしら・・・」


<あの船に、一集落分の人魚が捕らえられているらしい。この人魚のお嬢ちゃんの家族だそうだ>


「あの中に?


わかったわ。容赦しないで良いという事ね」


船を睨んだその少女は、私を見て微笑んだ。


「大丈夫。多分、役に立てると思うわ」


<だそうだ。嬢がこう言うんだ。安心しろ>


獣はホルンを安心させるように穏やかな声色でそう告げた。


「各国の警備に、今の話を伝えてきてくれる?シロさんは、彼を呼んできてくれるかしら」


<御意>


<わかった>


誰に話しかけるのか、と思っていたら海面に映る少女の影から声が聞こえてホルンはビックリして目を見開いた。


「多分、船底にいるわね。こういう場合・・・


底に穴を開けましょうか」


「穴を・・・?でも、どうやって」


「ふふ。その為には、貴女の力も必要よ」


「私の・・・?」


「ええ。人魚の声は、ソナーの役目と、仲間に声を伝えるでしょう?


その力で、船底に家族がいるかどうかの確認と、いたら出来るだけ船底から離れるように伝えて欲しいの」


「わ、分かった!!!」


家族を助ける手助けが出来るなら!!とホルンは目一杯の声を船底に向けた。


ホルンの耳に、驚きと了承を伝える声がすぐに返ってきて、それを少女に伝える。


「ふふ。ばっちりね」


「っでも、どうやって船底を壊すの?」


「ああ、それはね・・・ほら、来たわよ」


「??」


少女の示す方向を見れば巨大な黒い影が船に向かって行くところだった。


「あれは、何・・・??あんな大きな魚・・・鯨?」


「あれは、水蛇という竜族よ。特に、彼は種族の中でも大きいのよ。


見ていなさい?」


少女は船を示して微笑む。


ホルンは、言われるがまま、船を見れば、その瞬間、船が一度大きく揺れ、その後すぐに船上から悲鳴と怒声がホルン達の場所にまで届いた。


次第に沈む船から、どんどん船員が脱出し、それを湾の見張り役である各国の警護達が次々と捕らえ引き上げていく。


あっという間だ・・・とホルンは何度も瞬きしその様子が幻で無いことを確認して、少女を見た。


「ふふ。さ、貴女の家族も上がってきたわよ。


とりあえず、ウチの領地に招待するわ。怪我をしていたら大変だし、一応事情を聞いて、説明しないとね」


にっこり笑って少女が示した先に、海面に次々浮上する家族の姿を認め、ホルンは何度も頷き、礼を言ったのであった



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