小話
影の民・彰夏視点
緑人族・アーシャ視点
双頭の狼・八重視点
それぞれの小話です
レイン・シュレイア
我等<影>の光の君
愛しき姫
守るべき主
「彼の御方は、とても大きな大きな宿命を背負われていらっしゃる
故に我等は彼の方がその宿命に押し潰されぬよう、飲み込まれてしまわれぬよう守り続けて行かなくてはならない。よいか?幼き影たちよ
あの方を守り、あの方の願いを叶える一助となれ」
彰夏が、桐藍が、影の民達がこのシュレイアに根を下ろして数年が経った
東の故郷から逃れたとき、乳飲み子だったりまだまだ幼かった子供も、大きくなった
本格的に始まる、影の民としての訓練を前に、影の民として最も守り慈しまなければならない大切な一族と大切な主について教え込む
「お前達は、レイン様が好きだろう?」
そう問えば、すぐに首肯が返ってくる
幼い影の子達にとって、レイン様はよく会いに来る優しい姉のような母のような存在なのだろう
今は、それでいいと、そう思っている
慕う心に変わりない
成長し、物事を知れば慕う心に忠誠心が自ずと足される
・・・決して、強制的にではない
あの方と共にいれば、勝手に芽生えるのだから
「レイン様が、笑ってくださるように、厳しくてもしかと励みなさい。」
自身も経験してきた道だ
辛い訓練の日々
それでも、投げだし、逃げ出した者はいない
「ふくとうりょう、がんばれば、れいんさま、ほめてくださる?」
もじもじとしながら、そう聞いてきた子供に、ふっと思わず笑う
「ああ。よく頑張ったと、そう笑顔で頭を撫でてくださるだろう」
「・・・っがんばります!!」
わあっと顔を輝かせる子供達のキラキラした瞳に、嗚呼我が一族の未来はきっと輝かしいモノだろうと思った
「はは。良いか?しかと励んで目指すは桐藍頭領だ
桐藍頭領は、レイン様のお付きだからな。桐藍頭領のようにずっとお側にいたければ、励みなさい」
途端やる気を漲らせる子供達に、さあ、自分も負けては居られないと笑った
・・・遠くで桐藍が盛大に嚔をしていたなんて知るよしもない
「メルは、薬草を覚えるの早いわねぇ」
「アルは育てるのが上手いぞ姉さん」
レイン様が連れて帰ってくださった小さな双子も今は身長も倍近くなった
双子だけれど全てが似るわけではないようで、メルとアルにはそれぞれ得意不得意分野があり、初めは随分それを気にしていた
「あらあら。お互いの苦手分野を補えるだなんて、双子って素晴らしいわね」
まあそれも、レイン様のその一言で吹っ切れたようだけれど
メルとアルは、他の一族以上に盲目的にレイン様を敬愛している
時に行き過ぎ暴走するが、それすら笑って許容してしまうレイン様には一生勝てないような気がするわ
「メル、アル、貴方たち最近頑張ってるわね。ってレイン様が褒めてくださっていたわよ」
「「!本当ですか?長」」
「本当よ。今度頑張ってるご褒美を上げたいから、何が良いか聞いておいて。って言われたのだけど」
「「ご褒美・・・」」
ぱあっと笑顔になって、大好きな人からのご褒美に何を御願いしようか、と悩む二人が微笑ましく可愛らしい
「滅多に手に入らないモノでも、きっとレイン様なら手に入れてくださるよ
だからお強請りすると良い
あの方は、甘えられることが嬉しいんだからな」
「「っ今夜中考えます!!」」
そう言って唸る双子にトールと笑った
初めて相見えたのはあの子が吾の足の長さほどの小さな子だ
子供にはない、大きな牙に、鋭い爪に、何より二つある頭に怯えることなど何一つ無く、つぶらな瞳に険を宿すことなく、ふんわりと甘く笑った表情に、衝撃が走った
「ふはぁーーーーーーーーーー」
「主、年寄りのような声であるぞ」
「あら、八重ったら酷いわぁ。気持ち良すぎるのが悪いのよー」
にへらと笑う顔を見て、嗚呼、温泉を掘り当てて良かったと笑う
それにしても
「主、何故吾も共に入らねばならなかったのか。」
「あら、イヤだった?折角だもの。いっしょに入りたいじゃない」
鼻歌を歌ってしまいそうなほど機嫌が良い主に、まあいいか。と思考を止める
主の前では己の知る常識など容易く吹き飛んでしまうのだ
きっと金や銀にはチクチクと文句を言われるだろうが、まあその時はその時だろう