緑人族
この世界には、多くの種族が生きている
龍や獣人、人魚、魚人、巨人に魔人
其の種族数は数百、或いは千を超えるのではないかといわれ、未だ世に明らかになっていない種族も多く居ると言う
緑人族もまた、十年ほど前に初めて世界に認識された種族である
薬作りの名手であり、美しい碧の髪を持つ緑人族は、あっという間に権力者達のコレクションにされていった
とある小国に外交の為に訪れていたレイン・・・勿論、中身はどうあれ外見はいたいけな十の子供だ
自己紹介のみし、実際の外交は父、セルゲイが行う
場合によっては長時間に渡る交渉の場である故、挨拶の後は町を散策するのが常であった
「父様、お散歩に行ってきます」
「うん。気をつけてね。桐藍、彰夏、いるんだね?」
「はい。ちゃんと着いて来てくれます」
「じゃあ行ってらっしゃい。」
「おや、レイン殿は散策に行かれるのですか?」
「ええ。娘の楽しみの一つなんですよ」
「なるほど。しかし、国の首都とはいえ、貴国に比べれば治安は悪い。どうぞお気をつけて。
案内役もつけましょう」
「ありがとうございます」
素直に礼を言ったレインは、案内役にと紹介された褐色の肌の青年に先導され部屋を出た
「・・・これ、美味しい」
「お気に召しましたか?それはマコの実と言うんですよ」
褐色の肌の青年、ゼンはレインが齧る黄色のフルーツを指して笑う
「(マンゴーみたい)
ゼンさん、次は海に行ってみたいです」
「畏まりました」
恭しく頭を下げるゼンさんにニコリと子供らしく笑って見せたレイン
普段の年不相応な、精神年齢に準じた態度とは真逆の所謂外向けの仮面を外さない
底まで透き通る海は、美しく、地球の南国リゾートのようだと感じたレイン
しかし、不意に目に入った光景には眉根を寄せた
「あれは・・・レイン様、少し」
目に入った光景を、見せないようにゼンが壁になったが、既に遅く、レインは自分の影に短く行って、と命じた
「この国では、人身売買が行われているのですか」
レインの鋭い声にゼンは驚いたように目を見開く
先ほどまでの、年相応の、しかし我儘言わないイイコはそこにはいなかった
鋭い視線、瞳にはゼンが気付くほど知で溢れている
「・・・・・ゼン殿」
「貴女は、一体・・・いえ、
この国は治安が良くないと言うのは主が申していた通りです
戦争は無いが、十数年の間に国のトップが何度も変わったせいでメインストリートは賑やかに活気付いていますが、一歩路地に入ると危険区域に変わる
規模が大きな人攫いの集団が幾つもあり、人を売る専門の店が幾つもあるため国も中々排除に乗り出せていないのです。何せ、一つ潰せば次の日には三つは新しい店が出来ていますから」
「害虫ですか。
・・・・帰って来ましたね。」
「?」
誰に向けた台詞なのかと首をかしげたゼンは、レインの影から突如現れた男に目を見開いた
「どうでしたか」
「居場所は特定しましタ。救出ニ行きマスか?」
「ん。」
レインと出現した男の間で交わされるやり取りに思わず目を見開き待ったをかける
間違いなく、このまま傍観したらレインは危険な目に遭うし自身も叱責を食らう事になる
「・・・・・・ここですね。しかし本気ですか、レイン様」
「本気も本気です
この国で人身売買があるのは哀しいですが、現実ならせめて、救えるものだけでも、と思うのはきっと傲慢なんでしょう
今この瞬間に買われている人だっているわけで、私が手を差し出せるのなんてほんの少しです
傲慢で自己満足
それでも、簡単に見過ごすわけにも行きません
貴方も居るわけですから、無茶も余りする気はありません
それに、この亜人の店には私の探している人も居るかもしれませんから」
結局、レインを止める事は出来ず一緒に裏通りに来たゼンの顔は酷く疲れていた
其の表情は、何故他国からの主人の客人を人身売買の会場まで連れてこなければならないのかと語っていた
レインの先刻までとはまるで異なるその様子にも、ゼンは疑問を口にする事は無い
イチ、この散策の従者である自分が聞く事ではないし、世の中には知らないほうが身のためな事は多々あるからだ
店内はオークションのようになっていた
客同士が接触しないようパーテーションのようなもので区切られている
店員も仮面をして素性がばれない様になっていた
レイン達が席に着くと程なく、オークションは始まる
オークションは、番号札と手の形でシナモノと値段を店に伝えるのだがレインは始まってから既に十二人競り落している
思わずその持ち金に不安に思うゼンだがそれは店側も同じようで毎回すぐに現金での取引を行っている
全て即金で渡している額は、既にこの国の庶民が十年は働かずとも裕福に生きていける額になっていてゼンは一瞬遠い目をしてしまった
これらの金は、レインの家の金ではなく彼女の所持金というのだから余計だ
聞けば既に個人で貿易を行っていると言う
「お嬢様、既に十三人ですが・・・」
「ん。一通り出たみたいだし、帰りましょう」
「お嬢様の探していた人というのはこいつらなんですか?」
「そう。
桐藍、影の子達は連れて行ってあげて
後は、歩いて帰りましょう」
レインが名前を呼ぶと買い上げた十三人のうち三人が五感を拘束されているまま、影に引き摺りこまれた
残る十人はまだ小さな少年少女ばかりだ
「とにかく、帰りましょう」
そう言って十人の頭を優しく撫でると出口へと先導する
ゼンはすでに諦めた面持ちで恐らく三つほどの年齢の子供を抱きかかえ出口に向った
・・・主に何を言われるかと思いながら
24年11月12日、大分変更しました。矛盾がありましたので。詳しくは後で更新する活動報告まで