不理解という名の希望
───人は、理解出来ないものに恐怖を感じる。
───人は、未知なる物事に恐怖を感じる。
それは全ての生物が生きるために植え付けられた本能であり、知らない危機に対抗する為の合理的なシステムだ。
───人は、恐怖に興奮を感じる。
では、「オカルトマニア」という人種は正しく奇妙な存在だろう。本来避けるべき事象に自ら足を踏み入れるからだ。何故か?
───人は、既定された恐怖に興奮を感じる。
「幽霊」「妖怪」などと呼ばれる存在は、今日に至るまでにその多くが解明、分析される事によって根拠を失ってきた。また、ネットの出現により一層それらが引き起こすとされた現象が暴かれ、知られてきた。現代社会における「お化け屋敷」「肝試し」は、己の不理解を引き起こす可能性が限りなく低い。
───人は、不理解に真の恐怖を感じる。
ならば、そうでないものは?
普通に生きていれば知らない、知ることのない恐怖に身を置かれた時の人間は一体どうなるのか?
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「「月刊ヌーは、読者の皆様に真の恐怖を感じさせることだろう」…か。いや、雑誌も小説も筆者が理解した内容しか載らないじゃん」
そう言って机の上に雑誌を裏返す
5月、そこそこな日差しの差し込む夕暮れ時…彼女、佐々木八枝は花の高校デビューを失敗し、結局中学と同じように少ない仲間たちとつるむ事となった何処にでもいる学生だ
「帰ろ帰ろ〜!…あ、それ最新のやつ?導入良いよね、私ゾクってきちゃった!」
「え、また買えてない…先っちょだけ!先っちょだけでいいから読ませて」
「角見てどうするよ…普通に全部読んでいいよ」
「マジ!?よっしゃー!!」
「陽菜ずっと金欠じゃん。バ畜なのに?」
「分かってないわね茜…お金なんてもんはね、あればある程使いたくなるの」
何一つとして自慢げに言える内容では無いにも関わらず堂々とした発言にひとしきり笑う。陽菜も茜も大のオカルトマニアだ。
最初の席が近かったという理由で仲良くなった二人はノリも良く、性格も少し癖はあるがいい子で付き合いやすい。
だが八枝としては一つだけ大きな問題がある。二人は、八枝とはあまり趣味が合わないのだ
「(そろそろギターの弦買いに行かないとな…)」
オカルトやホラーが好きな二人とは違い、八枝はバンドをこよなく愛すバンドマニアなのだ。学校が終わればすぐにでも着替えて店に行かねばならない。オンラインショップではなくわざわざ店に向かうのは、店員さんに話が聞けるし新しく入荷された楽器も見れるからだ。
陽菜達と別れ、帰路に着く。
部活動に勤しむ者はまだ学校、それ以外の人は早々に帰ったか門が閉まるまで教室にいる微妙な時間帯
朝は人の多い通学路の静かな様は、中々非現実感とノスタルジーを感じる、不思議だが悪くは────
「…ん?」
効いたことのないような音がする。…羽音?にしては大きい。近くにいるのかと思い手で払おうとするが、むしろ近づいて、大きくなっている気がする。
「なんなんだ…?いや、このタイプの虫は覚悟決めた方が楽だ」
音のする方向…路地裏の方から聞こえているのか。
どれどれ、さっさと何か確認して帰っ
「───は?」
『───人は、不理解に真の恐怖を感じる。』
知る事のない恐怖に、身を置かれた人間はどうなるか。
知らない、知る必要がない、知る事のない、恐怖
「幽霊」でも「妖怪」でもないような"ソレ"など、本当に存在するのだろうか?したとして我々はそれを知らない、知る由もない。知らなければ、「不理解」であるとすら思えないのだから
「ならお前は何で、何でこんなところにいて一体何をするつもりで、私は早く帰りたかったんだ、ギターの弦を新調して流行りの音楽を練習したかったのにそれがどうして一体『聞こえるか』こんな事、え?」
思考の奔流が一度堰き止められる。…いや、私は喋ってたのかずっと────そうじゃない。なんだ、何なんだこの化け物は。虫にしては大きすぎるし、そもそも頭から触手が生えてる虫なんて知らない、理解出来ない。いや違う、喋った?話しかけて来たのか?コレが?
『聞こえるか』
「……あ、その、私は」
『聞こえるか』
「聞こえる、聞こえるんですけど、何なんですか?コスプレ?こんな所で?」
そもそも目の前で飛行してる時点でその可能性は殆どないのだが。一縷の望みにかけて問いかける
『否、我々は人間の研究に来た。丁度いい、研究材料に加える』
今気づいたが喋ってないなコイツ、脳に直接…!?テレパシーなんて高位生命体ムーブをフルコンボしに来ている。研究材料に加えるとか言ってたし。何を?
「は、私を?」
『そうだ』
「…………」
随分と不味い。不味いことだけは間違い無く理解出来た。からといって対処法なんてない。一回の学生がそう簡単にこんな化け物殴れる訳無いだろうが、漫画じゃ無いんだぞ!?今ならまだ逃げて…そう逃げよう、逃げないと
「ッ……ぁ、うわあああ!!」
走り出すと、雷みたいに悲鳴が遅れて喉を打った。後ろなんざ見ている暇はない、逃げて逃げて逃げて───
『人は遅い、勝負を挑む方がまだマシでは?』
羽音が迫る─────────────逃げなければ
「そんな、事言われたって、」
羽音が迫る──────────速すぎる
『───?音を感知。いや、気にすることはない』
羽音が迫「五月蝿い」───「止まった?」
嫌に響いていた音が、唐突に途切れる。何だ?後ろで何が……
「ああ、振り向くなよ?処理するから」
「装甲も付けてないミ=ゴなんて一般人でも勝てる奴は勝てるよな。逆に逃げたりするとやられちゃうんだよ」
「───終わりでいいや、うん。もういいよ」
一通り作業?が済んだようで、振り向く許可が降りた。
……軍服のような服装に身を包み、髪の毛は高い位置で一つ括りされている。まさにヒーロー、先ほどの化け物との試合で血一つ無いとは
「あの、貴方のお名前は…」
「僕?僕はアカツキ。君は……いや、そうだね」
「ここで話すのもなんだ、着いてきてくれるかな?」
「あ…はい、ありがとうございます!」
───人は不理解に真の恐怖を感じる
確かにそうだ、そうだとも。不理解ほど恐ろしいものはないのだろう。
……だが、それ以上に不理解を見逃してしまうことほど恐ろしいものもない。取り返しがつかない過ちを、どうしてか此処でその手を取ってしまったのは
───人は、不理解に希望を感じる
他ならぬ私が、その手に希望を求めてしまったからだ。




