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TS転生幼女のサバイバル配信生活 ~ギャルママ放置で詰みかけたので、前世知能でVTuber始めます~  作者: 瀬戸こうへい
第一章 生まれ変わった俺の居場所

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14/14

第14話 神絵師ママ(おかあさん)はサキュバス!?

28日17時更新の際に誤って途中抜けの更新してしまいました。22時修正済です。

 前回の親子コラボ配信から、二週間ほどが経過した。

 あれ以来、咲夜の様子が少しおかしい。


「……おい咲夜、生きてるか?」


 通話アプリで声をかけると、しばらくして『あ、ハイ……生きてますぅ……』と、地獄の底から響くような返事が返ってきた。

 最近の彼女は、商業誌のエロ漫画原稿作業の他に、何か「別の作業」に没頭しているらしく、睡眠時間を削りに削っているようだ。

 目の下にクマを作りながらも、時折「デュフフ……」と不気味な笑い声を上げているのが、余計に心配だ。


「無理はするなよ。AL1-SAのメンテなら急ぎじゃないんだから」


『違うの……これは、私の魂の叫びなの……』


 咲夜はうわごとのように呟いて、通話を切った。

 クリエイターのごうというやつだろうか。俺は首を傾げつつ、自分の配信準備に戻った。



 その日の夜8時過ぎ。

 俺が配信を終え、寝る準備(三歳児なので夜更かしは辛い)をしようとした時だった。


 ピロン♪

 PCに通知が届く。


『SAKUYAからビデオ通話のリクエスト』


「ん? なんだこんな時間に」


 俺は訝しみながらも、通話ボタンをクリックした。

 画面にウィンドウが開く。

 映し出されたのは、いつもの散らかった咲夜の部屋……ではなく。


『やっほー、師匠! 見て見てー!』


 画面の中央で、妖艶な笑みを浮かべて動いているのは――

 俺の知っている「咲夜」とは全然違うグラマラスな「サキュバス」のお姉さんだった。


 頭には黒い羊のような角。背中には小悪魔的な翼。

 服装はボンテージをモチーフにした際どい衣装で、豊満すぎる胸元が強調されている。

 顔立ちは咲夜本人に色気をマシマシした感じだが、チャームポイントの眼鏡と泣きぼくろは健在だった。


「……なんだ、それは」


『ふっふっふ。驚いた? これが私の新しい肉体! バーチャル受肉体、SA9-YAサクヤちゃんだよ!』


 画面の中のサキュバスが、滑らかにウィンクをする。

 髪の揺れ、布の質感、そして……胸部装甲の揺れ。

 変態的なまでのクオリティだ。


「お前、この二週間これを作ってたのか?」


『そう! もうね、前回師匠と喋ってて思ったの。「私も動きたい!」って! 声だけじゃ伝えきれないパッションがあるのよ!』


 SA9-YAが身振り手振りを交えて力説する。

 中の人(咲夜)の動きを完璧にトラッキングしており、表情も豊かだ。


『どうよこのモデリング! 特にこの胸の揺れパラメータ! 物理演算だけで三日調整した自信作!』


「……技術の無駄遣いにも程がある」


 俺は呆れたが、口元は自然と緩んでいた。

 この行動力と熱量。やはりこいつは、最高の相棒だ。


「で? 作ったからには、出すんだろ?」


『もちろんですとも! 今からゲリラでテスト配信しようと思うんだけど……師匠、付き合ってくれない?』


 上目遣いでお願いしてくるサキュバスお姉さん。

 中身が徹夜明けのオタク女だと知っていても、なかなかの破壊力だ。


「……仕方ないな。少しだけだぞ」



 夜9時。

 AL1-SAのチャンネルで、突発的なコラボ枠が取られた。

 タイトルは『【ゲリラ】新しい家族ママが増えました』。


「――というわけで紹介する。俺のママの咲夜改め、今日からVTuberになったSA9-YAだ」


『こんさく~! 有明からやってきた、新米サキュバスのSA9-YAでーす! みんなの性癖、歪ませに来たわよ~』


 画面上に並ぶ、銀髪幼女とサキュバスお姉さん。

 見た目の統一感は皆無だが、「闇の住人」っぽい雰囲気だけはマッチしている。


 普段と違う時間帯にも関わらず、通知に気づいたリスナーたちが雪崩れ込んできた。


『ファッ!?』


『ママ受肉してるwww』


『デカっ(何がとは言わない)』


『クオリティ高すぎだろプロかよ(プロです)』


『幼女とサキュバス……新しい扉が開きそう』


『あ、初めましての人もいるかな? 中身は先日お邪魔した絵描きのサクヤです。これからはこの姿で、師匠のお世話をしていきまーす』


 SA9-YAが妖艶に微笑む。

 ……が、すぐにボロが出た。


『あ、待って師匠。ちょっと設定ミスったかも……あ、あー。マイクのゲインが……』


 ガサゴソ、とノイズが入る。

 画面上のサキュバスが、白目を剥いたり口をパクパクさせたりと挙動不審になる。


「おい、半目になってるぞ。ホラーだ」


『いやぁん! スクショしないで! まだキャリブレーションが甘かったぁ!』


 慌てふためくサキュバスお姉さん。

 そのポンコツっぷりに、リスナーは大喜びだ。


『ガワは強いのに中身がポンコツww』


『ポンコツぶり推せる!』


『これからのコラボ楽しみ』


 結局、三十分ほどのテスト配信は、終始ドタバタしたまま終わった。

 AL1-SAの「生意気な幼女(中身おっさん)」と、SA9-YAの「セクシーお姉さん(中身オタク)」。

 この凸凹コンビの相性は抜群だった。



「……ふぅ。面白かった」


 配信終了後。

 俺はヘッドフォンを外し、心地よい疲労感と共に息を吐いた。


「どうだ咲夜。満足したか?」


『んー、最高! やっぱりアバターがあると没入感が違うね!』


 スピーカーから、咲夜の弾んだ声が聞こえる。


『これからも、余裕がある時はコラボさせてね師匠! 私、もっと面白い企画考えちゃうから!』


「ああ。頼りにしてるよ、相棒」


 俺は素直に頷いた。

 咲夜がVTuberとして動き出したことで、俺たちの活動の幅は大きく広がるだろう。

 ビジネス的にも、精神的にも、俺の「第二の人生」は順風満帆だ。


 ……そう思っていた。


 ――バンッ!


 突然、玄関のドアが勢いよく開いた。

 時計を見ると、夜9時を回ったところだ。


「たっだいまぁー!! アリスちゃーん! 起きてるー!?」


 廊下から、やけにハイテンションな美結の声が響いてきた。

 いつもなら「ただいまぁ~」と間延びした声なのに、今日はまるでスイッチが入ったように明るい。明るすぎる。


「……美結? どうした、今日はやけに早いけど」


 俺がリビングへ顔を出すと、美結は満面の笑みで立っていた。

 買い物袋も持っていない。手ぶらだ。

 彼女は俺を見るなり駆け寄ってきて、ガバッと俺を抱き上げた。


「えへへ! アリスちゃん、あのね! すごいの! ビッグニュースだよっ!」


「お、おい苦しい……なんだよ、宝くじでも当たったのか?」


「ううん、もっとすごいこと!」


 美結は俺をくるりと回してから床に下ろし、両肩を掴んで覗き込んだ。


 その目は笑っている。口角も上がっている。

 けれど――瞳の奥は、笑っていなかった。


「よかったねぇ、アリスちゃん! 本当によかったねぇ!」


「だから、何が……」


「パパに会えるよ!」


 美結の声が、一オクターブ高く裏返った。


「さっきね、連絡があったの! アリスちゃんの、本当のパパから!」


 ドクン、と心臓が跳ねた。

 パパ?  俺の生物学上の父親。美結を妊娠させて、逃げたという?


「やり直したいんだって! 今まで迎えに来れなくてごめんねって! これからは三人で暮らそうって!」

 美結は早口でまくし立てる。

 まるで、沈黙が訪れるのを恐れているかのように。


「アリスちゃんも、普通の家庭がやってくるの! パパがいるの! 日曜日に会おうって! 楽しみだねぇ、嬉しいねぇ!」


「……美結」


 俺は美結の手を握った。

 その手は、小刻みに震えていた。

 そして、氷のように冷たかった。


「……本当にお前、嬉しいのか?」


「えっ? う、嬉しいに決まってるじゃない! だって、パパだよ?」


 美結は引きつった笑顔を貼り付けたまま、首を傾げる。

 自分に言い聞かせている。

 これは良いことなんだ。幸せなことなんだ。そう信じ込まなければ、壊れてしまいそうなほど、彼女は張り詰めていた。


(……これはマズイな)


 俺の脳内で、最大級の警報が鳴り響いた。

 順風満帆だった俺たちの城に。

 一番厄介な形をした「爆弾」が、投げ込まれたのだ。


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配信生活と母娘の寿命、終了へのカウントダウン。
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