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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第三章 再会シタ災厄ト炸裂スル鉄拳

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『市場の少女と、再会した災厄にゃ』

 向かったのは王都で最も賑わう市場だ。

 クラウスの肩に揺られながら、俺は久しぶりに市場の活気を感じていた。

 八百屋の親父の怒鳴り声。肉屋の香ばしい匂い。


 その一つ一つが、錆びついていた記憶の扉を叩く。平和だ。だが、この平和が仮初めのものであることを、俺だけが知っている。


 その時、俺の視線が、市場の片隅に座る一人の少女に釘付けになった。

 地面にゴザを敷き、わずかなリンゴを並べている。

 薄汚れてボロボロの服を着ているせいで目立たないが、その容姿は異質だった。

 月明かりのような金色の髪。

 そして、湖の底を思わせる深緑がかった青い瞳。


 年齢は十六歳くらいだろうか。今は満足に食事も摂れていないのか、痛々しいほどに痩せ細っている。

 だが、その骨格やパーツの配置は整っており、栄養をつけて磨けば、国が傾くほどの美女になるであろう「原石」の輝きを秘めていた。


(……あの子は)


 何か、記憶に引っかかる。

 ただの貧民街の娘じゃない。その瞳の奥にある、鋭利な光。どこかで見覚えがある。


(……だめだ、思い出せない)


 俺は、クラウスの耳元で小さく鳴き、【思考誘導 Lv.2】を送った。


(あの子が気になる。話しかけてみろ)


 Lv.2の精度は抜群だった。

 クラウスはふと足を止め、少女の方を見た。


「……あの子、一人でリンゴを売ってるのか?」


 彼は憐れみを感じたのか、少女の前に立つ。


「リンゴを一つ、ください」


 少女は警戒心に満ちた目でクラウスを見上げると、細い腕でリンゴを一つ掴み、おずおずと差し出した。


「……銅貨、一枚」


 かすれた声。だが、芯のある声だった。

 クラウスが代金を支払うと、少女はリンゴの籠を抱きしめ、すぐにその場から駆け出した。

 その瞬間、事件は起きた。


 ドォォン!!


 少女が駆け出した路地に、一台の豪華な馬車が猛スピードで飛び込んできたのだ。

 ここは馬車進入禁止のエリアのはずだ。

 馬車は急ブレーキをかけ、少女の目の前で砂埃を上げて急停止した。


「キャッ!」


 少女は驚いて尻餅をつき、持っていたリンゴを地面にばら撒いてしまった。

 馬車の扉が乱暴に開き、中から一人の男が降りてきた。

 丸々と太った体型に、脂ぎった顔。高価だが趣味の悪い服。

 その男の顔を見た瞬間、俺の頭の中に警報が鳴り響いた。


(バロン・ボルク! あの豚貴族だ!)


 男は怒りに顔を真っ赤に染め、地面に座り込む少女を、汚いものでも見るように見下ろした。

 

「貴様、俺の道を遮るとは何事だ! この馬車は急いでいるのだぞ! 貴様ごとき野良犬(のらいぬ)が道を汚すな!」


 貴族は怒鳴りつけると、少女を汚いものでも見るように見下ろした。

 少女は恐怖のあまり後ずさった。その拍子に、持っていたリンゴの籠に足を取られ、そのまま露天の屋台に無様に突っ込んだ。


「ひっ……!」


 少女は顔を歪ませ、突っ込んだ屋台の中で、リンゴがさらに散乱し、踏みにじられる。

 それを見たクラウスが、怒りに震え始めた。


「な、なんてことを……! あいつ!」


 クラウスが飛び出そうとする。

 だが、俺は反射的に彼の首筋を前足で強く押さえつけた。


(だめだ! クラウス!)

 俺は全力で思考誘導を発動した。

 

 俺の脳裏に、鮮明な記憶がフラッシュバックする。

 そうだ、思い出した。

 

 ――過去の歴史では、ここで正義感に駆られたクラウスがこの豚貴族をぶん殴った。

 そのせいで逆恨みされ、下級貴族だったバウマン家は少ない所領を取り上げられてしまう。病弱だった母さんはその心労で死に、父さんは多額の借金を背負う。

 それが、バウマン家没落の決定的な要因となったのだ!


(ここで手を出してはいけない! ここで我慢すれば、母さんも父さんを死なずにすむ!)


 俺は全身の毛を逆立てて、必死にクラウスにしがみついた。

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