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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第三章 再会シタ災厄ト炸裂スル鉄拳

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『高速剣の才能解析と、次なる一手にゃ』

 ふかふかの枕の上。


 俺は今、至上の安息の中にいた。

 俺の体を抱きしめ、熱心にモフっているのは、つい先日ダンジョンで覚醒したばかりのエレナ・ファルクだ。


「あぁん、ノワ様ぁ……! 今日も毛並みが尊いですぅ……!」


 彼女は俺の喉元に顔を埋め、深呼吸を繰り返している。


 ……ノワ様。


 言葉も通じていないはずの猫相手に、なぜか敬称付きだ。

 どうやら彼女の中で、前回のダンジョンでの一件(俺が飛び込んで勇気を与えたこと)が、過剰に神格化されて解釈されているらしい。

 「私を導いてくれた守り神の使い」だとか何だとか。


(まあ、いい。その情熱が俺の力になるなら)


 彼女の頭上に目をやると、視界に浮かぶ真っ赤なバーが、グイグイと伸びていくのが見えた。


(魅了ゲージ:65%)


 その数値は、そのまま両親からの愛情(母100%、父80%)と同じく、エレナからの愛情の深さを示している。極限の戦闘を共にしたことで、一気に数値が跳ね上がったのだ。


(……それにしても、あの時はイチかバチかの賭けだったな)


 俺は、迫ってくるエレナを前足でぷにぷにと押し返しながら、前回の鋼スライム戦を振り返った。


 ――あの時、俺たちには打つ手がなかった。


 だから俺は、一縷の望みをかけてエレナの懐に飛び込んだのだ。

 目的は、彼女を癒して「魅了経験値」を稼ぎ、スキルレベルを上げること。

 結果、賭けは勝った。

 極限状態での癒しによりレベルが上がり、新たなアビリティ【能力閲覧】が使用可能になったのだ。

 そして、そこで見たものに俺は戦慄した。

 俺は、エレナの髪に埋もれた状態で、そっと彼女に【能力閲覧】スキルを発動させた。


《対象[エレナ・ファルク(14歳)]のステータスを閲覧します》


 脳裏にエレナの深層情報が流れ込む。


《対象[エレナ・ファルク(14歳)]のステータス》

 Lv. 18

 HP: 240 / 240

 MP: 120 / 120

【パラメーター】

 STR: 210(C)

 VIT: 80(E)

 AGI: 650(A)

 MAG: 120(D)

 LUK: 40(E)

【現在職業】

 薬師見習い  〈適性:E〉(不適格)

【転職候補一覧】

 剣聖     〈適性:A(MAX)〉※ユニーク

【保有スキル】

 ・【音速剣】Lv.2 (UP!)


(薬師がEランクで、剣聖がAのMAXかよ……。極端すぎるだろ。そりゃポーションも爆発するわけだ)


 覚醒したばかりの【高速剣】Lv.1であの威力だ。やはり彼女は、俺の復讐計画における最強のアタッカーになり得る。

 だが、問題はエレナ本人の意識だ。

 彼女はまだ、自分が剣士だと自覚していない。ポーション作りを諦めきれていないのだ。


「ノワ様のために、私、絶対一流の薬師になるんだからね! まずはもっと撫でて、神聖なエネルギーを補充しなきゃ!」


 今もこうして、俺を抱きしめながら見当違いな夢を語っている。

(ダメだこりゃ。この才能を腐らせるわけにはいかない)


「むふふ……いい匂い……」


 エレナがさらに強く抱きしめてくる。

 苦しい。物理的に苦しい。

 いや、ただ力が強いだけではない。俺の顔面が、彼女の服の上からでも分かる圧倒的な「質量」に押しつぶされ、呼吸困難に陥っているのだ。

 十四歳にして、この発育。将来が末恐ろしい。

 男なら天国かもしれないが、今の俺は猫だ。このままでは圧倒的物量に圧し潰され、窒息死を迎えてしまう。


(おいクラウス! 見てないで助けろ! 埋まってる! 俺が埋没してる!)


 俺は必死に身をよじり、短い手足をバタつかせて抵抗した。

 その拍子に、ふと、俺の脳裏に暗い記憶が蘇った。

 


 ―――雨の降る、墓地の光景だ。


 回帰前の世界。十四歳の夏。

 黒い喪服を着た人々の中で、俺は泥にまみれて膝をついていた。

 目の前には、小さな墓標。刻まれているのは『エレナ・ファルク』の名。

 手には、彼女が好きだった白い花の花束が握られていた。

 だが、俺はそれを手向けることができなかった。

 花を置いてしまえば、認めることになる。彼女がもう二度と、あの屈託のない笑顔を見せてくれないことを。俺の名前を呼んでくれないことを。

 冷たい雨が頬を叩く中、俺は花束を握りしめたまま、声もなく泣き崩れていた。

 


(……あんな思いは、二度とごめんだ)


 俺は目の前の「生きて動いている」エレナを見上げた。

 彼女は、俺の抵抗を「暴れる姿も可愛い!」と解釈して、さらに頬ずりをしてくる。

 温かい。柔らかい。そして、生きている。

 この温もりを守れたこと。それだけで、俺が回帰した意味はあったと思える。


(だが、これで終わりじゃない。彼女には才能がある。それを開花させ、ガーラントへの復讐を達成するんだ)


 俺たちを裏切り、殺した張本人――ガーラント。

 奴に復讐し、破滅の未来を回避するためには、綿密な計画が必要だ。だが、俺の記憶は30年の時を経て摩耗している。

 14年前の今、王都で何が起きていたか、ガーラントがどのような動きをしていたか、細かい部分が曖昧なのだ。

 奴を追い詰めるためには、綿密な計画が必要だ。だが、俺の記憶は30年の時を経て摩耗している。

 14年前の今、王都で何が起きていたか、細かい部分が曖昧なのだ。


(過去を知れば、未来を制することができる。……記憶を呼び覚ます「きっかけ」が必要だ)


 部屋に閉じこもっていては何も思い出せない。

 街へ出て、当時の空気、人々の噂、街の喧騒を肌で感じる必要がある。


(クラウス、街だ。街へ行くぞ!)


 俺は庭で素振りをしている少年クラウスに視線を向け、強く念じた。

 【思考誘導 Lv.1】を行使し、「外出への衝動」を送る。

 すると、庭で木剣を振っていたクラウスの手が、一瞬止まった。


「んー……? なんか、どこかに出かけたい気がするけど……」


 彼は首をかしげたが、すぐに「うーん、気のせいか」と呟いて、再び木剣を構え直してしまった。


「いかんいかん。今は特訓に集中しないとな」


(くそっ、ダメか! Lv.1の思考誘導じゃ、「なんとなくの気分」程度しか伝えきれない!)


 俺は焦った。このままでは拉致があかない。もっと強く、具体的なイメージを叩き込まなければ!

 俺は歯噛みしながら、さらに強く念じた。


(行け! 行くんだ! 市場だ! 買い物だ!!)


 その時、脳内に軽やかな通知音が鳴り響いた。

《【思考誘導】の熟練度が一定値に達しました》

《【思考誘導】が Lv.2にレベルアップしました!》

《効果上昇:イメージの伝達精度が向上し、より具体的な行動指示が可能になりました》


(おおっ! レベルアップした!)


 これなら、いける。

 俺は即座に、少年クラウスに向けて【思考誘導 Lv.2】を行使した。

 送るイメージは、「市場の賑わい」と「今すぐ買い物に行かねばならないという強い衝動」。

 すると、クラウスがハッとしたように顔を上げた。


「……そうだ! 市場だ! なんだか無性に、市場に行かなきゃいけない気がしてきた!」


 彼は額の汗を拭うと、窓の方へと歩み寄ってきた。

 

「エレナ、悪いけどノワールを借りていいか? ちょっと街へ買い物に行こうと思ってさ」


「ええー? もう? ちぇっ、仕方ないなぁ」


 エレナは名残惜しそうに、ようやく俺を解放してくれた。

 ぷはっ、と新鮮な空気を吸い込む。柔らかい地獄からの生還だ。


(ナイスだ、Lv.2! そしてナイスだ、ガキの俺!)


 俺はエレナの腕から脱出すると、素早くクラウスの肩へと飛び乗った。

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