表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第六章 黄金ノ温泉郷ト古龍トノ邂逅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/40

『垂涎物の素材とドワーフ職人にゃ』

「あ? なんだこの猫は。……良質な魔力を持ってやがるな」


 さすがは腐っても天才。俺の魔力の質を一目で見抜いたか。

 俺はクラウスに向かって、クイッと顎をしゃくった。


「にゃ(あれを出すにゃ)」

「……え、ここで? 騒ぎにならないかな……」

「にゃッ!(いいから出すにゃ!)」


 クラウスは渋々といった様子で、背負っていたリュックの口を開いた。

 そして、中から「あるもの」を両手で抱えるようにして取り出し、ゴトン、とテーブルの上に置いた。

 それは、直径30センチはある、紅蓮に輝く巨大な円盤状の物体。

 さっき裏庭でイグニスが背中をかいた時に剥がれ落ちた、古龍の鱗だ。


「……なんだ、これは? 盾か? ずいぶん軽そうだが……」


 ガンツは不審げにそれを手に取った。

 だが、次の瞬間。


「ッ!?!?」


 彼の手が止まった。

 酔いが一瞬で吹き飛んだように、顔色が蒼白になる。

 彼は懐からルーペを取り出し、震える手でその表面を凝視し始めた。


「な、なんだこの……硬度は!? いや、それよりもこの異常なまでの魔力耐性……! 熱を通さないのに、魔力だけを純粋に透過させている……!?」


 ブツブツと呟く声が、次第に熱を帯びていく。


「ありえねぇ……アダマンタイト? いや、あれよりも有機的だ……。まさか、伝説の……龍種ドラゴンの素材なのか……!?」


 正解だ。

 しかも、ただのドラゴンではない。神話級の古龍エンシェント・ドラゴンの素材だ。

 今の市場価値に換算すれば、この一枚で城が建つレベルだろう。


「お、おい小僧! こいつをどこで手に入れた!? どこに行けばこれが採れるんだ!?」


 ガンツがクラウスの胸ぐらを掴まんばかりの勢いで迫る。

 俺はもう一度、クラウスに目配せをした。

 クラウスは無言でリュックを逆さにし、中身をテーブルにぶちまけた。


 硬質な音が店内に響き渡る。

 積み上がったのは、さらに五枚の巨大な紅蓮の鱗と、鋭利な爪の欠片だ。


「ひぃッ!?」


 ガンツの目が飛び出さんばかりに見開かれる。

 呼吸困難になりかけた彼は、脂汗を流しながらその山に手を伸ばし――そして、絶望したように頭を抱えた。


「う、売ってくれ……! いや、無理だ……! こんな国宝級の素材、俺の全財産を叩いたって、欠片ひとつ買えやしねぇ……!」


 彼はガックリと項垂れた。

 素材の価値が分かるからこそ、自分には手が出せないと悟ったのだ。


 そこで、俺の出番だ。

 俺は積まれた鱗の山の上に飛び乗り、ドヤ顔でガンツを見下ろした。


「にゃーん(安心しろ。金はいらん)」


 俺は前足で自分を指し、次にガンツを指し、最後に「握手」をするようなジェスチャーをした。


「……あぁ? なんだ猫。腹が減ってるのか? つまみならやるぞ?」

「にゃっ!(違うわ!)」


 俺はイラッとして、テーブルをバンと叩いた。


「うーん……分からん! 小僧、この猫は何が言いたいんだ!」


 ガンツが匙を投げたので、俺はクラウスの方を向き、「通訳しろ」と尻尾で合図した。

 クラウスは苦笑しながら、通訳に入った。


「えっと……ノワール――この猫が言うには、『金はいらない』そうです」

「はぁ!? タダでくれるってのか!? 正気か!?」

「いえ、条件があります。……『ウチに来て、働け』と」


 クラウスは、俺の意図を正確に言葉にした。


「僕たちは今、大規模な温泉街の建設を計画しています。その設計と建築、それに……魔導具による設備の充実をお願いしたいんです」

「温泉街だぁ……?」


 ガンツは拍子抜けしたような顔をした。彼にしてみれば、そんな土木工事は退屈な仕事なのだろう。

 だが、クラウスは言葉を続けた。


「その代わり――この素材は『無償で提供』します。仕事の合間に、あなたの好きな研究に使ってくれて構いません。設備も場所も用意します」

「……な、んだと……?」


 ガンツの表情が凍りついた。

 それは、彼にとってあまりにも都合が良すぎる、夢のような提案だったからだ。


「ほ、本当にいいのか? 俺の研究は金がかかるぞ? 爆発もするぞ? それに、こんな国宝級の素材を、好き勝手に加工していいってのか……?」

「にゃう(ああ。あんなの、掃いて捨てるほどある)」


 俺が短く鳴くと、クラウスが頷いた。


「はい。ノワールが良いと言っています。それに……素材なら、これからも定期的に『補給』されますから」

「補給……?」


 ガンツはゴクリと唾を飲み込んだ。

 理屈は分からない。だが、目の前には、喉から手が出るほど欲しかった「可能性」の山がある。


「……やる」


 ガンツは、震える声で言った。


「やらせてくれ! 土木工事だろうがドブさらいだろうが何でもやってやる! だから頼む、その素材を……俺に加工させてくれぇぇぇッ!!」


 ガバッ!

 ガンツは酒場の床に額をこすりつけ、見事な土下座を披露した。


 周囲の客がドン引きしているが、関係ない。

 交渉成立だ。


(ククク……チョロいもんだにゃ)


 俺は満足げに髭を揺らした。これで、ガンツ・シリーズはクラウス家のブランドとなった。


「じゃあ、早速現場を見に行こうか。……腰を抜かさないでね?」


 クラウスの同情混じりの言葉を、歓喜に震えるガンツはまだ理解していなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ