表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第六章 黄金ノ温泉郷ト古龍トノ邂逅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/40

『規格外の遭遇と、起死回生の肉球だにゃ』

 死。


 あまりにも濃密なその気配に、空間そのものが凍り付いていた。

 目の前に鎮座するのは、巨大な龍。

 全長は優に三十メートルを超えるだろうか。

 紅蓮の鱗はマグマのような熱を放ち、吐き出される呼気だけで、周囲の岩がドロドロに融解していく。


「あ……あ、あ……」


 クラウスの口から、酸素不足の魚のような音が漏れる。

 無理もない。俺の目から見ても、今の彼は立っているのがやっとだ。膝がガクガクと震え、剣を持つ手から力が抜け落ちそうになっている。

 あの勇敢なクラウスが、完全に萎縮している。

 それは、天才二人も同様だった。


「う、そ……こんな、生き物が……」


 エレナの顔からは血の気が完全に失われている。

 腰の剣に手を伸ばそうとしているが、指が凍りついたように動いていない。生物としての格の違いを、鋭敏な感覚が理解してしまったのだろう。


 そして、ミア。


 彼女はブツブツと何かを呟いていた。

 その表情は、いつもの冷静な無表情ではない。瞳孔が揺れ、冷や汗が頬を伝っている。

 おそらく、生存確率を計算し、その結果が「万に一つもない」という絶望的な答えに行き着いた顔だ。


(……くそっ、なんでだ!)


 俺はリュックの中で歯を食いしばる。


 歴史が変わった。14年後に目覚めるはずの古龍が、なぜ今ここにいる?

 俺が過去に戻ったことで、何かの歯車が狂ってしまったのか?

 だが、原因を考察している時間はない。


 全員、死ぬ。


 このままでは確実に消し炭だ。


『……ほう?』


 脳内に直接、重厚な響きが流れ込んできた。念話(テレパス)だ。

 念話を自在に操る存在。俺の知る限り、そんな存在は1つしかない。

 神話の時代から生きる伝説の怪物、古龍エンシェント・ドラゴンだ。


 翠玉(エメラルド)の瞳が、ギョロリと俺たちを――いや、俺を捉える。


『ここ数日、我が寝床に漂ってきた芳醇な魔力の香り……その正体は、貴様か』


 巨大な鼻先が、リュックのすぐ目の前まで迫る。

 スゥーッ……と、俺の匂いを深く吸い込む音。


『貴様、ただの獣ではないな? この溢れ出る魔力……下等な人間どもとは質が違う。実に美味そうだ』


 龍が舌なめずりをした。

 その巨大な舌だけで、俺など一飲みにできるサイズだ。


『我は腹が減っているのだ。目覚めの食事には丁度いい』


 俺を食う気か!

 俺は必死にリュックから飛び出し、クラウスの前に立った。

 せめて、クラウスから離れて注意を引かなければ。


「にゃあぁぁぁっ!(逃げるにゃクラウス!)」


 俺は叫んだ。

 だが、クラウスは動かなかった。


「……だす、な……」


 震える手で、クラウスは再び剣を握り直していた。

 ガチガチと歯を鳴らし、涙目になりながら、それでも彼は、俺と龍の間に剣を突き出したのだ。


「僕の……ノワールに……手を、出すな……ッ!」


 蚊の鳴くような声。へっぴり腰。

 それでも、この臆病で優しい少年は、最強の捕食者を前にして、俺を守ろうとした。


(……馬鹿野郎)


 勝てるわけがない。瞬殺されるに決まっている。


『……邪魔だ、羽虫』


 龍にとっては、クラウスの決死の行動など、視界の端のゴミ程度にしか映らなかったらしい。

 龍が鬱陶しそうに鼻息を吐く。それだけで暴風が巻き起こり、クラウスの体が吹き飛ばされそうになる。

 龍が、巨大な顔を近づけ、パックリと顎を開いた。


 クラウスごと俺たちを丸呑みにする気だ。


 どうする? どうすれば助かる?


 ひとつだけ分かったことがある。こいつは肉を食べて腹を満たしたいわけではない。

 こいつの目的は魔力だ。俺の魔力で腹を満たしたいようだ。


 なら、くれてやる!


 俺の持てる全てを、こいつの鼻先に突っ込んでやる!


 俺はクラウスの肩に飛び乗り、さらに跳躍した。

 迫りくる巨大な顔面へ向かって。


「ノワール!?」


 クラウスの悲鳴を背に、俺は空中でくるりと体をひねった。

 目の前には、巨大な龍の鼻先。

 俺は右前足を振り上げ、渾身の魔力を込めて――!


《スキル【魔力譲渡】を発動します》


「にゃあああああああっ!!(食らええええええっ!!)」



 ――ぺし。



 静寂な広場に、間の抜けた音が響いた。

 俺の肉球が、硬い龍の鼻先に吸い付くようにヒットしている。


『……?』


 龍の動きが止まった、その瞬間。


 ズォォオオオオ!


 俺の肉球から、黄金の奔流が噴き出した。

 超高密度の魔力の塊。

 俺の体内に蓄積されていた膨大な魔力が、ダムが決壊したように龍の鼻先へと流れ込む。


『――ッ!?!?』


 龍の目が、限界まで見開かれた。

 拒絶ではない。歓喜だ。

 干上がっていた大地に水が染み込むように、龍の体は俺の魔力を貪欲に飲み干していく。


『ぬおおおぉぉぉぉぉッ!? なんだ、これは!?』


 龍の咆哮が洞窟を揺らす。


『濃い! 甘い! 深い! かつて味わったことのない、極上の魔力だ! 力が……力が溢れてくるぅぅぅぅッ!』


 龍の全身が紅蓮に発光し始めた。

 俺の魔力が強すぎたのだ。枯渇していた龍の魔力回路が一気に満たされ、オーバーヒートを起こしかけている。

 龍は快感に打ち震え、制御できない力の昂ぶりを持て余していた。


『う、美味いぃぃッ! う、美味いが……!? ああん! た、耐えられぬ!! 魔力が! 溢れるぅぅぅッ!!!!』


 まずい。

 龍が大きく息を吸い込んだ。


 口の奥で、圧縮された炎が白く輝き始める。

 ブレスだ。力の奔流を吐き出そうとしている!

 この距離で撃たれれば、俺たちは骨も残らない。


 だが、龍の視線が俺と合った瞬間、その理性がギリギリでブレーキをかけた。


『いや、待て! こやつを殺せば、この極上の“餌”は二度と食えぬ!』


 龍の首が、ギギギッと無理やり横へ逸らされる。

 俺たちを避けた矛先。

 そこは――地面だった。


『ぬおおおぉぉぉぉぉッ!!』


 ズドォォォォォォォォォォンッ!!


 龍の口から放たれた極太の熱線が、広場の床を貫いた。

 岩盤が飴細工のように溶解し、凄まじい熱量が地底深くまで突き刺さった。


(なんて威力だ。地面の底が見えないぞ。……ん? なんだ、この音は?)


 ……ゴゴゴゴゴ! ゴゴゴゴゴゴゴボッ! ゴボッ!!!


 足元の揺れが次第に大きくなり、不穏な何かが地面から近づいて来ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
危なかったー!間一髪。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ