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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第六章 黄金ノ温泉郷ト古龍トノ邂逅

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30/40

『迫りくる脅威と、絶望の咆哮にゃ』

 現れたのは、全身が岩石で覆われた巨大な蜥蜴だった。


 ロックリザード。


 その体表は鎧のように硬く、生半可な剣撃など通さない中級モンスターだ。

 それも一匹ではない。闇の奥から、三匹が這い出てきた。


「グルゥッ!」


 先頭の一匹が、一番弱そうな獲物――クラウスを目掛けて突進してくる。

 地面を揺らす重量感。


 ステータスオールFのクラウスがまともに食らえば、即死は免れない。


「くっ、速い……!」


 クラウスが剣を構え、迎撃しようとする。

 だが、今の彼の筋力と動体視力では、反応が遅れる。


 衝突までコンマ数秒。


「クラウス、横に飛んで!」


 鋭い声が響いた。

 クラウスは思考するより早く、反射的に地面を蹴って横へ転がる。


 ヒュンッ!


 直後、クラウスがいた空間を、銀色の斬撃が走り抜けた。

 突進していたリザードの動きがピタリと止まる。


 一拍置いて、その巨体が上下にズレて崩れ落ちた。

 綺麗に「両断」されていた。


「助かったよ、エレナ」

「間一髪だったね。……硬いけれど、(はがね)スライムほどじゃない」


 その背後には、剣を振り抜いた姿勢のエレナが立っていた。

 彼女は剣聖(ソード・マスター)の卵だ。


 Fランクダンジョンの中級モンスター程度、彼女の敵ではない。

 前世でエレナは早世していたが、もし生きていれば、Sランクの冒険者として名を馳せていたはずだ。


 一方、もう一匹のリザードがミアに襲い掛かっていた。

 ミアは武器を持っていない。


 だが、彼女は逃げなかった。冷静にリザードの動きを見切り、ふわりとスカートを翻してその懐へ潜り込む。


魔力撃(マナ・インパクト)


 ドンッ!


 華奢な掌底が、リザードの腹部に叩き込まれた。

 接触点から衝撃波が浸透し、硬い外殻を無視して内臓と骨を粉砕する。

 リザードは血を吐き、人形のように吹き飛んで壁に激突した。


「……ふぅ。皮を傷つけずに処理できました。これなら満額で売れます」


 ミアが乱れたメイド服のエプロンを直し、金勘定を呟く。


 強い。


 この二人は、既にこの階層を圧倒出来る実力を持っている。

 問題は――。


「う、うおおおおっ!」


 ガキンッ!


 硬質な音が響く。

 最後の一匹と対峙していたクラウスが、剣を弾かれてよろめいていた。


「くそっ、なんて硬さだ……! 刃が通らない!」


 魔力を纏わせているとはいえ、クラウスの基礎ステータスは一般人以下だ。

 技術があっても、物理的な「出力」が足りていない。


 リザードがクラウスの隙を見逃さず、太い尻尾を振り回す。


「しまっ――」

「クラウス!」

「クラウス様!」


 エレナとミアが動こうとするが、距離がある。間に合わない。

 俺はリュックから身を乗り出した。


 丸太のような尻尾が迫る。

 まともに食らえば内臓破裂、即死だ。

 俺は【思考誘導】で強制的にクラウスを操作する。


『剣の腹だにゃ! 斜めに構えて受け流す!』


 俺の声が脳内に響いた瞬間、クラウスの体が反射的に動いた。

 恐怖で硬直しそうになる体を無理やりねじり、剣を斜めに構える。


 ガギィィィンッ!


 凄まじい衝撃音。


 クラウスの体が砲弾のように吹き飛ばされる。

 だが、剣の腹を滑らせることで、直撃コースだけは逸らした。


『着地と同時に地面を蹴って接近! 首の付け根を狙うにゃ!』


 彼は迷いない動作で空中で体勢を立て直し、着地と同時に地面を蹴った。


「そこだぁぁっ!」


 クラウスの剣が、ロックリザードの首の付け根へと正確に突き刺さった。


「ギ……ガァ……」


 リザードが痙攣し、どうにか沈黙した。


「はぁ、はぁ、はぁ……。助かったよ、ノワール」


 クラウスがその場に膝をつく。

 全身泥だらけで、手は痺れて震えている。


 エレナとミアが瞬殺した相手に、彼だけが死闘を演じていた。


「大丈夫!? クラウス」

「ああ……なんとかな。二人は凄いな、あんな化け物を一撃なんて」


 クラウスが自嘲気味に笑う。

 俺はリュックの中で、小さく息を吐いた。


(危なっかしいにゃ。だが、なんとか食らいついている)


 俺は、奮闘するクラウスの姿を見ながら、ふと気になって【能力閲覧】を発動した。


 こいつの努力が、どれほど数字に表れているのか確認するためだ。


《対象[クラウス・バウマン(14歳)]のステータス》


 Lv. 7

 HP: 145 / 145

 MP: 32 / 32


【パラメーター】

 STR(筋力): 21(E)

 VIT(耐久): 24(E)

 AGI(敏捷): 17(E)

 MAG(魔導): 12(E)※ランクUP

 LUK(幸運): 10(E)

【現在職業】

 見習い剣士  〈適性:D〉

【保有スキル】

 魔力操作

【ユニークスキル/才能】

 なし


(……ほぉ)


 俺は思わず感心した。

 相変わらず才能(適性)は底辺のままだ。だが、以前は『F』どころか『G』だった魔導(MAG)が、『E』に上がっている。

 他のパラメーターも、才能の限界値ギリギリまで伸びている気がする。

 特に魔力の『12』という数値は、才能なしの凡人にしては異常な高さだ。

 あの地味で過酷な魔力循環の特訓が、確実に実を結んでいる証拠だ。


(才能がないなら、努力で埋めるか。……口で言うのは簡単だがな)


 やはり、昔の俺は根性がある。

 俺はニヤリと笑い、再び戦況に目を戻した。


 クラウスの実力不足は否めない。

 だが、エレナとミアという規格外の二人がいれば、この「宝の山」を攻略することは可能だ。


 前衛を彼女たちに任せ、クラウスはサポートや止めに回ればいい。

 このダンジョンを制圧し、魔鉱石を掘り出せば、バウマン家の未来は輝かしいものになる。


 もちろん、リスクはある。


 俺が前世で命を落とした原因――「古龍」。


 名前すら知らないあの怪物が、このダンジョンの深層で眠っているはずだ。

 だが、俺には未来の記憶がある。

 歴史通りなら、あの古龍が目覚めて地上に現れるのは「14年後」だ。

 それまでは、奴は深い眠りについているはずだ。

 14年。それだけの時間があれば、稼げるだけ稼ぎ、奴に対抗できる戦力を整えることも可能だ。

 危険なのは承知の上だ。だが、奴が寝ている「今のうち」なら、この宝の山を食い荒らせる。


(勝ったな。これからの生活は薔薇色――)


 俺が勝利の余韻に浸りかけた、その時だった。


 ゾクリ。


 全身の毛が、一斉に逆立った。

 背筋を氷柱で貫かれたような、強烈な悪寒。

 殺気ではない。

 もっと根源的な、生物としての「格」の違いが生む、絶対的な捕食者の気配。


《固有スキル【危機察知】が発動しました》

《警告:回避不能の脅威が接近中》


(……なんだ、この感覚は?)


 記憶にある。

 この、魂が震えるような恐怖。


 かつて俺たちが、あの森で遭遇した「理不尽な死」の気配と同じだ。

 だが、ありえない。


 まだ14年もあるはずだ。奴が目覚めるまでには、まだ猶予があるはずだろ!?


 ――まさか、歴史が変わったのか?


「……ッ! クラウス! 二人を連れて逃げるにゃッ!」


 俺は【思考伝達】で絶叫した。

 だが、遅かった。


 三人が反応するより早く、広場の中央、地面が爆発した。


 ズドォォォォォォォォォォン!!


 俺たちの目の前、広場の床が突き破られ、奈落の底から「それ」が這い上がってきた。

 舞い上がる土煙。

 撒き散らされる暴風。


 そして、その中から現れたのは、二つの巨大な「灯り」――いや、眼光だった。

 ギラギラと輝く、黄金色の瞳。


 現れたのは、紅蓮の鱗に覆われた、山のように巨大な龍だった。


「――グルルルゥ……」


 喉の奥から響く唸り声だけで、大気がビリビリと震える。

 全身から凄まじい熱気と、鼻を突く硫黄の臭いが立ち上っている。


 俺たちは、誰一人動くことが出来なかった。1ミリでも動いた瞬間に、消し炭となって死ぬ。それを全員が一瞬で理解した。


 逃げられない。

 隠れられない。

 戦えない。


 生物としての「格」が違いすぎる。

 

 龍の口から、どろりとした粘着質な唾液が滴り落ちる。

 ジュッ、と地面が溶ける音が、死刑宣告のように響いた。

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