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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第六章 黄金ノ温泉郷ト古龍トノ邂逅

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『巨大な扉と夢の黄金郷にゃ』

 目の前に、巨大な扉がそびえ立っていた。

 分厚い石造りの表面には、びっしりと蔦や苔が張り付いている。

 だが、その中心にあるレリーフだけは、奇妙なほど風化していなかった。

 刻まれているのは、翼を広げた龍の姿と、古代語の一文。


『我、魔力を示す者にのみ道を開かん』


 数百年もの間、誰も開くことのできなかった「第十層への扉」だ。

 学者や高ランク冒険者たちが、幾多の魔法を撃ち込み、あるいは物理的にこじ開けようとして失敗し、去っていった場所。

 冒険者にとって大切なのは、今日稼げるかどうか。

 その意味深なフレーズは誰からも興味を持たれなくなり、今ではもう、ただの「行き止まりの壁」として扱われている。


(さて、今日のところはここまでかな)


 俺はリュックから顔を出し、そのレリーフを見上げた。

 未来の知識によれば、この扉を開く鍵は「上級回復魔法」だ。


 ある酔狂な魔導師が、「扉が開かないのは、扉自体が傷ついているからではないか?」という斜め上の仮説を立て、数日間不眠不休で回復魔法をかけ続けた結果、突如として開錠されたという記録がある。

 だから、回復魔法を使える人間を連れてくる必要があるのだ。


(……しかし、三日三晩も回復魔法をかけ続けるのが鍵なんて、非効率な扉だよな…………ん、待てよ?)


 俺はふと、前世で読んだ論文の一節を思い出した。


 ――『回復魔法は、対象の生体エネルギーを活性化させる過程で、極微量のMPを回復させる効果を持つ』


 微量のMP回復。

 あの酔狂な魔導師が扉を開けられたのは、「傷を治した」からではなく、数日間かけて「微量な魔力を注ぎ込み続けた」からではないか?


 レリーフにある『魔力を示す』という言葉。

 これは、魔法の威力や種類のことではなく、単純な「魔力の譲渡」を指している?


(……まあ、まさかな。そんな単純な話なら、誰かがとっくに気づいているはずだ)


 俺は苦笑する。


 だが、今の俺には偶然にも、MPを他者に分け与える【魔力譲渡(マナ・パス)】がある。

 試してみる価値くらいはあるだろう。ダメで元々だ。

 俺はリュックから這い出し、地面に降り立った。


「ノワール? 危ないよ、下がっていて」


 クラウスが心配そうに声をかけるが、俺は構わずに扉へと歩み寄る。

 そして、前足をちょんと冷たい石の表面に乗せた。


 意識するのは、体内で渦巻く魔力。

 その蛇口を少しだけ捻り、扉へと流し込む。


 ――ドクン。


 扉が脈打ったような気がした。


 石の表面を走る幾何学模様の溝に、青白い光が走る。


(……おい、マジか?)


 ゴゴゴゴゴゴ……!


 腹に響く地響きと共に、巨大な扉がゆっくりと左右に開き始めた。

 溢れ出すのは、黴臭くも、どこか神聖な冷気。


「え……?」

「うそ、開いた……?」


 クラウスとエレナが、ぽかんと口を開けて固まっている。

 俺もまた、固まっていた。


 いや、反応したぞ!?

 本当に開くのかよ!


 俺は慌てて平静を装い、呆気にとられる飼い主へ向かって【思考伝達】を送る。


『……道は(ひら)けたにゃ』

「あ、ああ……! すごいなノワール、まさかお前、この扉の開け方を知っていたのか?」

『にゃーん(当然だにゃ)』


 俺は震える尻尾を必死に抑えながら、暗闇の奥へと足を踏み入れた。


◇◇◇


 扉の向こうに広がっていたのは、俺が未来の知識で知っていた通りの光景だった。

 第九層。

 そこは迷宮というより、巨大な「採掘場」跡だった。

 天井は見えないほど高く、遥か遠くまで広大な空洞が続いている。

 地面には錆びついたレールや、朽ち果てたツルハシのようなものが散乱しており、かつてここで何者かが大規模な作業を行っていた痕跡がある。


「広い……。こんな場所が、地下にあったなんて」


 エレナが魔法の明かりを灯しながら、周囲を見渡す。

 そして、壁際に近づいた彼女が、息を呑んだ。


「クラウス、見て! この壁の光……!」


 俺たちも近づく。

 岩盤の至る所に、青白く脈動する結晶体が埋まっていた。

 暗闇の中で星空のように輝くその石。


「これって……まさか、全部魔鉱石(マナ・クリスタル)か?」


 クラウスの声が震えている。

 正解だ。

 これこそが、俺が目指していた「黄金郷」の正体だ。


 魔鉱石。


 魔力を蓄積し、増幅させる性質を持つ特殊な鉱石。


「……すごいです」


 ミアがつかつかと壁に歩み寄り、愛おしそうに魔鉱石に触れた。

 彼女の瞳孔が開き、どこから取り出したのか、手には既に羊皮紙とペンが握られている。


「純度Aランク以上。市場価格の倍……いいえ、加工賃を含めれば3倍の値がつきます」


 ミアが恐ろしい速度でペンを走らせ、ブツブツと呟き始める。


「これだけの埋蔵量があれば、屋敷の改修、装備の新調、クラン立ち上げへの投資を含めても、お釣りが来ます。……ふふ、ふふふ」


 その瞳が「¥」マークに変わっているように見えた。

 普段は大人しいミアだが、金勘定となると別人だ。

 だが、俺の予想はさらにその上を行く。


 あと一年もしないうちに、「大共鳴(グランド・レゾナンス)」が起きる。

 その時、この魔鉱石の価値は、ミアの計算すら鼻で笑うほどに跳ね上がるのだ。


(これだけの量があれば、国一つ買えるかもしれないな)


 俺はニヤリと笑った。

 ここを拠点とし、クランを立ち上げ、独占的に採掘を行う。


 完璧な計画だ。

 これなら、バウマン領の未来は安泰――。


 ガキンッ!


 硬質な音が、俺の思考を中断させた。

 闇の奥から、複数の赤い目が光る。


 この階層の守護者モンスターのお出ましだ。

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