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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第六章 黄金ノ温泉郷ト古龍トノ邂逅

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『裏庭ダンジョンの攻略にゃ』

 深い、深い、地の底。

 そこは、光の一切届かない暗黒の世界だ。


(……憂鬱だ)


 巨大な闇の中で、赤き意識が不快げに身じろぎをする。

 我は、岩盤から染み出す僅かな魔力マナを啜って生きていた。

 だが、この地の脈はあまりに貧弱だ。

 泥水のように薄く、ただ命を繋ぐだけのもの。

 こんなものは、生きているとは言わない。ただ死んでいないだけだ。

 終わらない飢え。虚無。

 数百年もの間、我は微睡みの中で、ただゆっくりと朽ちていくのを待っていた。もって後数十年。奴らの傀儡となれば直ぐにでも力を取り戻せるが……それだけは出来ない。魂を売り渡してまで生きる意味などない。このまま、古木のように朽ちてゆく方がまだマシだ。


 ――そんなことを考えていた時、ふと鼻先をくすぐる香りがあった。


(……なんだ、これは?)


 それは遥か頭上。

 我の寝床(深層)よりも上から漂ってくる。

 この枯れ果てた土地には不釣り合いなほどの、甘く、濃密な香り。

 脳髄が痺れるような、純粋な魔力の波動。


(……美味そうだ)


 理屈はない。

 ただ、その「ご馳走」を口にしたいという強烈な衝動だけが、錆びついた巨体を突き動かす。

 ズズズ、と地響きを立てて、怪物が動き出す。

 獲物は、中層にいる。


◇◇◇


「――ハァッ!」


 クラウスの気合と共に、剣がゴブリンの首を跳ね飛ばした。

 ドサリ、と緑色の小鬼が沈む。

「ふぁ~……」

 俺は大あくびを一つ噛み殺した。

 定位置はここ、クラウスの背負うリュックの中だ。

 顔だけをひょっこりと出し、揺れる背中に身を任せている。

 周囲を見渡せば、まばらに冒険者の姿がある。

 だが、どいつもこいつも装備はボロボロで、死んだような目をしている。

 ここ『竜の箱庭』はその大袈裟な名称とは裏腹に、「枯れたFランクダンジョン」と呼ばれている。稼げない負け組か、駆け出しの新人しか寄り付かない場所だ。

 そんな中、クラウスたちの動きだけが洗練されている。

 当然だ。俺が鍛えているのだからな。


《ピロン》


 脳内で軽快なシステム音が鳴り響く。


《スキル【魂の税収エクスペリエンス・シェア】発動》

《取得経験値の10%を徴収しました》

《レベルが7にアップしました!》


 これだ。

 俺はニヤリと髭を震わせた。

 先日、魅了レベルが4に上がった際に習得したパッシブスキル、【魂の税収エクスペリエンス・シェア】。

 魅了した相手が敵を倒すと、その経験値の一部が自動的に俺にも流れ込んでくる。


(働かずして強くなる。これぞ猫の生き様、不労所得だ)


 俺がリュックの中でぬくぬくしている間に、勝手にレベルが上がっていく。

 この体でどうやってレベルを上げていくか悩んでいたが、このスキルはその悩みを解決してくれた。


「はぁ、はぁ……。よし、このエリアの掃討完了だ」


 クラウスが剣を納め、額の汗を拭う。

 その呼吸は荒い。


「クラウス、大丈夫? かなり消耗しているみたいだけど……」


 エレナが心配そうに駆け寄る。


「ああ、平気だよエレナ。でも……剣に魔力を込め続けるのは、やっぱりきついな。MPが空っぽだ」


 クラウスが苦笑する。

 彼は今、俺の指示で、攻撃のたびに剣に魔力を纏わせる訓練を行っている。


 この時代では、一般的な戦闘法ではない。わずかに上昇する攻撃呂のために魔力を消耗するのは「燃費が悪すぎる」と馬鹿にされる行為だ。


 だが、一年後に来る「大共鳴」の時代では、魔道具を使いこなすための必須の技術となり、見直される戦闘法だ。今のうちに体に覚え込ませておかなければならない。


(とはいえ、さすがに限界か)


 貧乏なバウマン家には、高価なマナポーションをガブ飲みする余裕はない。

 ふらつくクラウスを見て、俺はリュックから這い出すと、彼の足元にすり寄った。


「ん? どうしたノワール。心配してくれてるのか?」

「にゃーん(無理すんなよ)」


 俺は彼の足に体をこすりつけ、尻尾を巻き付ける。

 その瞬間だった。

《対象[クラウス・バウマン]への【癒し(献身)】を確認》

《魅了ゲージ上昇……条件達成》

《固有スキル【魅了】が Lv.5 にレベルアップしました》

 お、上がったか!

 と、思った直後。さらにシステム音が続く。


《新アビリティ【魔力譲渡(マナ・パス)】が解放されました》


(魔力譲渡?)


 説明文が脳裏に浮かぶ。

 ――自身のMPを、接触した対象に分け与えるスキル。


(なるほど……俺の膨大な魔力を、他人にパスできるってことか)


 俺は日向ぼっこをする(かたわ)ら、魔力の鍛錬を欠かしていない。そのおかげで、MPの総量は桁外れに増えている。使い道がなく持て余していたが、これをクラウスに流せば……。

(さらにクラウスの魔力の鍛錬が出来るってわけか。やってみる価値はある)

 俺は意識を集中する。

 体内の魔力タンクの蛇口を捻り、接触している足へと流し込むイメージ。

 ブワッ、と淡い光が俺とクラウスを包んだ。


「――っ!? な、なんだこれ……力が、湧いてくる!?」


 クラウスが驚愕の声を上げる。

 顔色が瞬く間に良くなり、枯渇していた魔力が満タン――いや、溢れるほどに回復していく。


「凄い……ノワール、お前が魔力を分けてくれたのか?」

「にゃう(便利だろ? もっと働くにゃ)」

 俺は得意げに喉を鳴らした。

 これでMP切れの心配はなくなった。今後のパーティー戦闘の戦略にも幅が出そうだな。

 そうこうしているうちに、俺たちは目的の場所にたどり着いた。


 第九層の最奥。


 そこには、分厚い埃と苔に覆われた、巨大な扉が鎮座していた。

 数百年もの間、誰も開こうとしなかった「開かずの扉」。

 学者たちが匙を投げ、他の冒険者たちが「ただの壁」と嘲笑って通り過ぎるその先こそが、俺たちの目標地点だ。

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