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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第五章 隠匿サレシ黄金ト裏社会ノ猫ト陰謀

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『勝利の美酒(またたび)とロビンの秘密にゃ』

「……ふん。悪くねえ味だ」


 ロビンがマグロにかぶりつき、そうつぶやいた。


 月明かりの下、バウマン家の裏庭は、さながら猫たちの舞踏会と化していた。


 冒険者ギルドから分捕った賠償金の一部は、約束通り、協力してくれた猫たちへの報酬――極上のマグロや高級マタタビ酒(猫用ノンアルコール)へと姿を変えたのだ。


「うにゃあ~ん(幸せにゃあ~)」


「ぐるる……(たまらん……)」


 そこかしこで、野良猫たちが腹を出し、恍惚の表情で転がっている。

 普段は険しい顔をした古傷だらけの喧嘩屋たちも、今夜ばかりは子猫のような顔で喉を鳴らしていた。

 俺こと、ノワールはその光景を眺めながら、専用の皿に注がれた「特選・山羊のミルク」をぺろりと舐めた。

 濃厚なコクと甘みが、舌の上でとろける。


(……んー、うまい!)


 思わず目が細まる。

 この瞬間、俺の脳裏には、ふとある男の顔が浮かんだ。

 宿敵、ガーラント・フォン・ヴァイスハイト。


 今頃、奴はどうしているだろうか。



 ◇



 同時刻。王都の一等地にあるヴァイスハイト伯爵家。

 その重厚な執務室で、ガシャーン! と高価なクリスタルグラスが床に叩きつけられ、粉々に砕け散った。


「……失敗した、だと?」


 ヴァイスハイト伯爵は、報告に来た部下を金色の瞳で睨みつけていた。額には青筋が浮かび、整った美貌が醜く歪んでいる。

 その横には、息子のガーラントも青ざめた顔で立ち尽くしていた。


「は、はい……。ギルド職員の話では、バウマン家が『裏帳簿』の写しを突きつけてきたとかで……。ギルド長も手が出せず、逆に賠償金を支払う羽目に……」


「馬鹿な! あのような没落貴族に、なぜそんな真似ができる!?」


 伯爵はダンッ、とマホガニーの机を拳で殴りつけた。

 完璧だったはずだ。

 借金で首を回らなくし、ギルドを使って追い込み、最後は屋敷ごと二束三文で買い叩く。そのシナリオに一分の隙もなかったはずだ。

 ヴィルヘルムのような無能な男に、裏帳簿を入手する伝手などあるはずがない。


「父上……もしかして、どこか別の貴族が入れ知恵を?」

「ありえん! バウマン家に味方するような酔狂な家など、この王都には一つもないはずだ!」


 ガーラントが爪を噛む。


「くそっ……! 何だ? 何が起きている……!」


 ガーラントは苛立ち紛れに、壁に飾られた絵画を睨みつけた。

 見えない敵の影に、背筋が薄ら寒くなる。


 まるで、自分たちの計画が、誰かの掌の上で遊ばれているような――そんな不気味な感覚。


「まだだ……まだ終わらんぞ。次の手だ! すぐに次の手を考えろ!」


 伯爵の怒号が響く。

 夜はまだ長い。彼らは血走った目で地図を広げ、新たな策を練り始めた。

 胃をキリキリと痛ませ、冷や汗を流しながら。




 ◇



「うにゃ(うめえ)」


 俺は悠々とミルクを舐めていた。


 ヴァイスハイト家が今頃、必死に次の策を考えている間、俺はこうして極上の夜食を楽しんでいる。

 物理的な距離はあれど、この圧倒的な「余裕の格差」こそが、何よりの勝利の証だ。


(精々、苦しむといい。ガーラント。今度はお前たちが落ちぶれる番だ)


 最後のひと舐めを終え、俺は満足げにヒゲを拭った。

 さて、勝利の余韻に浸るのもいいが、次の一手を打っておかねばな。


 俺は視線を上げ、塀の上で夜風に吹かれている一匹の猫を見つけた。


 ロビンだ。


 彼は群れには混ざらず、少し離れた場所から満足げに仲間たちを見守っていた。

 俺は音もなく彼の隣に着地する。


「約束は果たしたぞ、ロビン」

「ああ。……まさか本当に、俺たち野良にここまで振る舞うとはな。お前、変わった家猫だ」


 ロビンは俺の方を見ずに、夜風に吹かれながら言った。


「人間なんぞ信用しねえ。……だが、お前と、お前の飼いクラウスだけは、別にしてやってもいい」


 ぶっきらぼうな言葉だが、その尻尾は雄弁に「上機嫌」を示すように、ゆらりと揺れている。

 俺は、ここぞとばかりに本題を切り出した。


「ロビン。折り入って頼みがある」

「あん? まだ何かあんのかよ」

「ああ。これから俺たちは、屋敷の裏にあるダンジョンの調査に入る」


 ロビンが片耳をピクリと動かした。


「ダンジョン……? あそこはただのほら穴だろ。たまに小型のはぐれゴブリンが迷い出てくるだけだ」

「表向きはな。だが、あそこは地下深くに続く『巨大ダンジョン』への入り口だ」

「巨大ダンジョンだと?」


 ロビンの瞳がスッと細められる。

 野良猫にとって、大規模なダンジョンの周辺は魔物が巣食う危険地帯だ。普通なら近づかない。


「俺たちはそこを拠点にするつもりだ。だが、中の様子がわからん。……お前たちの『目』と『耳』を貸してほしい。人間には気付けない魔物の気配や、隠された抜け道を、お前なら見つけられるはずだ」


 俺は真っ直ぐにロビンを見つめた。

 これは飼い主とペットの関係じゃない。対等なパートナーとしての交渉だ。


「もちろん、タダとは言わん。ダンジョンで手に入った獲物の一部と、安全な寝床を約束する」

「……ふんっ」


 ロビンは鼻を鳴らし、ニヤリと笑った。


「いいだろう。何匹か筋のいいやつを見繕ってやる」


 言質は取った。

 これで、これからのダンジョン攻略に、最強の「斥候」が加わったことになる。


 その時、俺の脳内で軽やかな通知音が鳴った。


《対象[ロビン]への【信頼・感謝】を確認》


《魅了ゲージ上昇……+15%》


《現在値:20%》


《レベル不足の為、対象の【能力】の一部が秘匿されます》


(ん? 秘匿? 見れないってことか?)


 俺は何気なく、【能力閲覧】をロビンに向けた。


《対象[ロビン]のステータス閲覧》

 種族:猫(???の混血)

 状態:健康

【保有スキル】

・統率 Lv.5

・隠密 Lv.4

・???(封印中:Lv.MAX)


(……は? なんだ今の)


 一瞬、文字化けのようなノイズが見えた。


 「???の混血」? それに、封印されているスキル?


「……どうした、人の顔をジロジロ見て」

「いや……なんでもない」


 俺は慌てて視線を外した。


 こいつ、もしかしてただの猫じゃないのか? そういえば、ロビンは未来でもこの姿のままだった。猫の寿命がそんなに長いわけがない。

 俺が回帰(かいき)者であるように、彼にも何か秘密があるのかもしれない。


「ま、これからもよろしく頼むぜ、兄弟ブラザー


 ロビンは身軽に立ち上がると、ひらりと塀を飛び降り、闇の中へと消えていった。

 その背中を見送りながら、俺は確信した。

 この出会いは、きっと運命だったのだと。


 こうして。


 冒険者ギルドを巻き込んだ騒動は、猫たちの完全勝利と、満腹の寝息で幕を閉じた。

 手元には、正式な権利書と、最強の仲間たち。


 そして、まだ見ぬ黄金郷への鍵。


(待っていろ、ガーラント。お前が気付いた時には、もう手遅れだ)


 隠された黄金郷――『古龍の封印地』の攻略が、いよいよ始まる。



これにて、第五章完結となります!

いかがでしたでしょうか? 猫が好きになるきっかけになっていると嬉しいです^^


こちらの作品は、カクヨム版で先行公開中です!


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