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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第五章 隠匿サレシ黄金ト裏社会ノ猫ト陰謀

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『Side:クラウス 傲慢な支部長と猫中毒の監察官にゃ』

 冒険者ギルド、支部長室。


 重厚な扉を開け、俺たちは足を踏み入れた。


「また来たのか、小僧。何度来ても結果は同じだと言ったはずだが?」


 支部長は執務机で葉巻を燻らせながら、不快そうに顔をしかめた。

 俺は一歩前に出ると、静かに告げた。


「契約の破棄を求めに来ました。……証拠なら、あります」

「ほう? 証拠だと? どこにあるんだね、そんなものが」


 支部長が鼻で笑った、その時だった。


 トンッ。


 開いていた窓から、何かが軽やかに飛び込んできた。

 フワフワの毛並みに、ピンクのリボン。そして隻眼。

 ロビンだ。昨晩のボス猫としての威厳はどこへやら、今は完全に「愛らしいマスコット」の姿をしている。


 彼は口に「黒い手帳」をくわえていた。


「……猫? なんだその薄汚い……いや、ファンシーな猫は」


 支部長が眉をひそめる。

 ロビンは音もなく執務机の上に飛び乗ると、くわえていた手帳をポトリと落とした。

 そして、器用に前足を使ってページをめくり――あるページの上で、ドンと肉球を押し付けた。


「にゃあ(ここを見ろ)」


 と言わんばかりの仕草だ。


「なっ……!?」


 支部長が目を丸くする。

 猫に促されるまま、そのページに目を落とした瞬間。

 彼の手から葉巻が滑り落ちた。


「こ、これは……裏帳簿!? ヴァイスハイト伯爵からの入金記録……まさか、金庫から盗み出したのか!?」


 支部長が戦慄する。

 動揺するのも無理はない。ただの猫ではない。この猫は、明確な知性を持ってこの証拠を突きつけてきているのだから。


「……小僧。この猫は、お前の使い魔か?」

「さあ、どうでしょうね。でも、それは紛れもない真実の記録だ」


 俺が追及する。

 だが、次の瞬間。

 支部長の顔から焦りが消え、醜悪な笑みが浮かんだ。


「……ふん」


 ビリッ!!

 乾いた音が響く。

 彼はロビンの足元から裏帳簿をひったくると、真っ二つに引き裂き、さらに細かく千切って背後の暖炉へと投げ込んだ。


「あ……っ!」


 紙片は瞬く間に炎に包まれ、灰へと変わっていった。

 なんてことをしやがるんだ。


「証拠? ……どこにあるんだね、そんなものが」


 支部長は両手を広げた。


「いいか、小僧。社会というのはな、『何が真実か』なんてどうでもいいんだ。『誰が真実を決めるか』が大事なんだよ。私が『ない』と言えば、どんな証拠も存在しない!」


 そして、支部長の目が、机の上のロビンを捉えた。


「そして、この目障りな猫もだ……ッ!」


 支部長の手が伸びる。


 ロビンなら避けられたはずだ。だが、彼はなぜか逃げなかった。


「おい! ロビンを放せ!」


 俺が叫び、飛びかかろうとするが、支部長はロビンの首根っこを掴み、暖炉の炎に向けた。


「近寄るな! お前たちがどう騒ごうと、私が『事故で暖炉に落ちた』と報告すれば、それは不幸な事故として処理される。……そうだろ?」


 熱気がロビンの顔を炙る。


 俺は息を呑んだ。

 絶体絶命のピンチだ。

 だが、ロビンは暴れなかった。

 彼はその隻眼で入口のドアの方角を見つめると、可愛らしい声で鳴いた。


「……みゃーお」


 ガチャリ。


 タイミングを合わせたかのように、ドアノブが回った。


 扉が開く。


 まず入ってきたのは、一匹の黒い子猫――ノワールだ。彼は尻尾をピンと立て、誘導するように部屋に入ってくる。


「あらあら~、黒猫ちゃん? 勝手にドアを開けちゃだめよぉ~……ん?」


 続いて入ってきたのは、銀縁の三角眼鏡をかけた女性――王都の特別監察官だ。

 彼女は、とろけきった顔でノワールを追いかけ、部屋に入り――そして、見た。


 ピンクのリボンをつけた愛らしい隻眼のロビンが、薄汚い男(支部長)に首を掴まれ、業火の中に投げ込まれそうになっている光景を。


「…………」

「…………」


 時が止まった。


 支部長が、ぽかんと口を開ける。

 監察官の女性が、ゆっくりと視線をロビンへ、そして支部長の顔へと移す。


「……その猫ちゃんを、どうしようというのかしら?」


 地獄の底から響くような、絶対零度の声だった。


「ひぃっ!? ヒルダ監察官殿!? な、なぜここに!?」


 支部長が慌ててロビンを床に下ろす。

 ロビンはスタッと着地すると、怯えたフリをして俺の後ろに隠れた。

 それを見た瞬間、ヒルダ監察官の中で何かが切れた。


 彼女は般若のような形相で支部長に詰め寄っていく。


「か、か、か弱き命になんてことを……!!」

「ご、誤解です! これは、その、野良猫が迷い込んできたので、丁重に追い出そうと……!」

「黙りなさい! 動物虐待は重罪よ! 情状酌量の余地なし! 即刻更迭(こうてつ)してやるわ!」


 ヒルダが絶叫する。

 さらに、彼女の視線が床に散らばった紙片――燃え残った裏帳簿の一部に止まった。


「……ん? これは……帳簿の切れ端かしら?」


 彼女は支部長をゴミのように投げ捨て、その紙片を拾い上げた。

 三角眼鏡の奥の瞳が、スッと冷静な「仕事モード」に戻る。


「なるほど。……動物虐待に加えて、証拠隠滅、公文書偽造、そして貴族との癒着……フルコースね」


 彼女は冷徹に告げた。


「言い逃れできると思わないことよ」


 その後の展開は、一方的な「処理」だった。

 支部長は駆けつけた衛兵に引き渡され、泣き叫びながら連行されていった。


「おのれぇぇ! 猫めぇぇぇ! 覚えてろぉぉぉ!」


 その捨て台詞を聞きながら、ロビンは「フン」と鼻を鳴らし、前足の毛並みを整えていた。


 ◇


「……というわけで。今回の件は、ギルド側の完全なる不祥事です」


 ヒルダはうっとりした表情のまま、事務的な口調で告げた。


「不当な契約は即時破棄します。当然、ダンジョンの管理権もバウマン家に返還しますわ。……ああ、この肉球の弾力、たまらないわね」


「ありがとうございます!」


 クラウスは深く頭を下げる。

 これで、奪われたものは戻ってきた。父さんも安心するだろう。

 だが、そこでミアが一歩前に出た。


「……謝罪と返還、感謝いたします。ですが、今回の件で我が家が受けた精神的苦痛、および営業妨害による損失は甚大です」


 ミアの眼鏡が、キラリと冷たく光る。


「権利の返還だけでは、割に合いませんね」


「……それで? 何をお望みかしら?」


 ヒルダが顔を上げる。


「二つあります。一つは、今回の件に対する、相場を遥かに超える『懲罰的賠償金』の即時支払い。……屋敷の借金を完済し、当面の運転資金が賄える額です」


「……ぐぬ。足元を見るわね。……いいわ、ギルドの予備費から捻出しましょう」

「そして、もう一つ」


 ここからが本番だと言わんばかりに、ミアの声が低くなる。


「我が家の裏庭にあるFランクダンジョンについて、ギルドは今後一切の『管理権』および『徴税権』を放棄すること」


 ヒルダの手が止まった。

 彼女は怪訝そうに眉をひそめる。


「……あの枯れたダンジョン? 別に問題無いけど……あそこは管理費の方が高くつくわよ?」

「ええ、かまいません」


 ミアは動じない。


「今後、あそこから何が出ようとも、ギルドは『バウマン家の完全な私有地』として扱い、素材の納入義務も課さない。その確約を文書でいただきたいのです」


 ヒルダは首を傾げた。彼女には理解できないだろう。

 今はただのゴミダンジョンだ。だが、俺たちは知っている。

 あのダンジョンは、中層の解放で「高純度魔鉱石」の湧き出る『黄金郷』に化けることを。

 その時になってギルドが「ダンジョン法」を盾に介入してくるのを防ぐための、事前の楔だ。


「……変な人たちね。いいわよ、好きになさい」


 ヒルダは溜息交じりに、羊皮紙にサインをした。

 その瞬間、ノワールが「にゃあ!」と短く鳴き、ヒルダの顎の下に頭を擦り付けた。


「きゃあっ! うれしいっ、契約成立ね! もっと撫でさせて!」


 理性を失いかけた監察官に揉みくちゃにされながら、ノワールがニヤリと笑った気がした。


 勝った。


 これで、莫大な富を生む「財布」は完全に俺たちのものだ。

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