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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第五章 隠匿サレシ黄金ト裏社会ノ猫ト陰謀

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『猫の情報網と反撃の狼煙にゃ』

 翌朝。


 閑散としていたバウマン家の領地に、信じられない光景が広がっていた。


「いらっしゃいませー! 本日オープン、癒しの空間『猫喫茶(ネコカフェ)・バウマン』へようこそ!」


 ピンク色のフリフリなメイド服に身を包んだエレナが、屋敷の前で元気よく呼び込みをしている。

 その隣では、同じくピンクのメイド服を着たミアが、無表情でビラを配りつつ、鋭い眼光で客の財布の中身を計算していた。


「……入場料は前払いです。オプションの『肉球ぷにぷにコース』は別料金となります」


 普段は静かなこの場所に、街中から噂を聞きつけた冒険者や町人たちが押し寄せ、長蛇の列を作っている。

 彼らの視線の先にあるのは――屋敷の庭に設けられた特設サロンだ。

 そこには、昨晩の「お風呂タイム」を経て、ピカピカに磨き上げられた猫たちが鎮座していた。

 中でも一番の注目を集めていたのは、中央のソファにドカリと座る一匹の巨猫だ。


「…………にゃあ(なぜ、俺がこんな目に)」


 裏社会のボス・ロビン。


 だが、その威厳ある姿は、今や見る影もない。

 体毛はブラッシングされてフワフワのキラキラ。首元には大きなピンクのリボン。 さらに、フワフワで真っ白なドレスに身を包まれている。

 しかし、その凶悪な隻眼と、ファンシーな衣装のミスマッチが、客たちの心を鷲掴みにしていた。


「きゃー! 見てあの猫ちゃん! 顔は怖いのにドレス着てる!」

「なにこのギャップ萌え!」

「このムスッとした顔でフリフリとか、分かってるなぁ店主!」


 黄色い歓声が飛び交う。

 そして、その最前列で誰よりも興奮している男がいた。


「おおぉぉ……! 素晴らしい……! このふてぶてしさと愛らしさの融合……芸術だ!」


 以前、夜のスパイ活動中に出会った、あの「鋼鉄武器店」の強面店主だ。

 彼は鼻息を荒くして、ロビンの前に山のような貢物を積み上げていた。


「おい店員さん! この猫ちゃんにプレゼント追加だ! 最高級の猫缶を1ダース!」

「ありがとうございます、お客様(カモ)


 ミアが満面の笑みで注文を受ける。


 ロビンは死んだ魚のような目で遠くを見ていたが、その横で部下のチャドたちが「すげえよ親分! 高級缶詰の山だ!」と腹いっぱい食べているのを見て、ギリギリのところで理性を保っているようだった。


(……くくっ。大盛況だな)


 俺は屋根の上から、その様子を見下ろしてニヤリと笑った。

 作戦は大成功だ。

 猫たちの生活費を稼ぎつつ、街の人間をここに集めることで、ギルド側の監視の目を逸らす。


 そんな賑わいの中。

 列の最後尾に、ひときわ異彩を放つ一人の女性が並んでいた。


 年齢は30代半ば。髪をきっちりとシニヨンにまとめ、銀縁の三角眼鏡をかけた、いかにも神経質そうな痩身の女性だ。

 着ている服も、質素だが仕立ての良い公務員風のスーツ。胸元には、王都の紋章が入ったバッジが光っている。


 彼女は眉間に深い皺を寄せ、猫喫茶の様子を睨みつけていた。


「……嘆かわしい。神聖な冒険者の街で、このような軟弱な商売が横行するとは。……風紀の乱れも甚だしいわ」


 彼女はブツブツと文句を言いながら、懐から手帳を取り出し、何かを書き込もうとした。

 その雰囲気からして、ただの客ではない。役所の監査員か何かだろうか?

 胸のバッジをよく見る必要がある。


(……ちょっくら確認してくるか)


 俺は音もなく屋根から飛び降り、彼女の背後へと回り込んだ。

 そして、トテトテと無防備な足取りで近づき、彼女のスカートに爪を立てた。


「みー(ねえねえ、だっこして?)」


 俺は見上げて鳴いた。

 その瞬間、脳内に無機質なシステム音が響いた。

 《熟練度が一定値に達しました》

 《固有スキル【魅了】がLv.2からLv.3に上昇しました》


 お、上がったか。


 俺は心の中でガッツポーズをした。毎日の猫営業の成果だ。

 そして、続けて表示されたログを見て、俺はニヤリとした。


 《Lv.3解放アビリティ:【安らぎの香箱(サンクチュアリ)】》

 《効果:香箱座りをしている間、周囲に精神安定と微量回復のフィールドを展開する》


(……おお! 回復スキル!)


 これは使える。

 この女性、眉間の皺といい、ピリピリした雰囲気といい、激務で相当ストレスが溜まっていると見た。

 ならば、このスキルは劇薬になるはずだ。

 俺は彼女が呆気に取られている隙に、ヒョイと膝の上に乗った。

 そして、前足を綺麗に折りたたみ、しっかりと鎮座した。


 ――『香箱座り(キャットローフ)』。

 《スキル【安らぎの香箱】発動》


 俺の体から、目に見えない温かな波動が広がっていく。

 その瞬間。

 三角眼鏡が、カッと光り輝いた。


「……っ!!」


 彼女は手帳を取り落とし、口元を押さえて膝をついた。


「な、なんてこと……。頭の中のノイズが……消えていく……? 重かった肩が……心が……洗われていくようだわ……ッ! これが、猫喫茶……!」


 効果てきめんだ。

 長年の激務で荒んだ彼女の精神に、俺の癒し波動が直撃している。

 彼女の表情が、氷が解けるように崩壊した。

 さっきまでの厳格な態度はどこへやら、彼女は頬を紅潮させ、震える手で俺を抱きしめた。


「……お姉さんを慰めてくれるの? いつも書類の整理に追われるだけの人生を送っている私を? ……優しい子なのね!! もう、一生離さないんだから!!」


 完全にキャラが崩壊している。

 彼女は周囲の目も気にせず、俺の背中に顔を埋めて深呼吸(猫吸い)を始めた。


「スーーッ……ハァ……ッ! 極上のマイナスイオンだわ……! ああ、こんな天国がこの世にあったなんて……!」


(……うわ、こいつ相当な『猫狂い』だぞ)


 俺は若干引きつつも、抱かれながら胸元のバッジを確認した。

 そこに刻まれていたのは、『王都・特別監察官』の文字。


 ……ビンゴだ。


 こいつは、地方の役人やギルドの不正を取り締まるために派遣された、泣く子も黙るエリート官僚だ。


(……へへっ。とんでもない『爆弾』が転がり込んできやがった)


 この爆弾、上手く使えば支部長を吹き飛ばせる。

 俺は彼女の腕の中で、喉をゴロゴロと鳴らしながら、癒しの波動を強めた。

 これで彼女は、もう俺(という名の精神安定剤)の虜だ。


 その時。


 サロンの喧騒の中、食事を終えたチャドが、ロビンの元へ駆け寄った。

 彼はロビンの耳元で小さく囁いた。


「……親分。街の連中から連絡がありました。ブツの確保、完了です」


 その瞬間。


 ファンシーなリボンを揺らすロビンの隻眼に、カッと鋭い光が宿った。


 彼はスッと立ち上がり、こちらを見上げた。


『……おい、ノワール。情報が揃ったぞ』


 ロビンの視線を受け、俺は監察官の腕からスルリと抜け出した。


「あっ、待って猫ちゃん! お姉さんまだ吸い足りないわ! 精神が! 私の精神が禁断症状を……ッ!」


 名残惜しそうに手を伸ばす監察官(爆弾)を放置し、俺はロビンの元へ走った。

 ただの客寄せパンダ(猫)はここまでだ。

 ここからは、裏社会の流儀を見せてやる。


「にゃあ!(作戦開始だ!)」


 俺が号令をかけると同時に、街の至る所から影が動いた。


 ◇


 バサササッ!


 屋敷の裏庭に、次々と猫たちが帰還してくる。

 口に咥えているのは、紙束や手帳、封筒などだ。

 それは、ロビンの号令で動いた街中の猫たちが、ギルドの支部長室の天井裏、床下、あるいはヴァイスハイト伯爵の密使の鞄から抜き取った「動かぬ証拠」だった。


「こ、これは……」


 集まった書類の山を見て、クラウスが息を呑む。

 ミアが素早く書類を検分し、口元に冷ややかな笑みを浮かべた。


「……ビンゴです。裏帳簿、賄賂の受領書、そしてダンジョンに関する『真の鑑定結果』のメモ……全て揃っています」


 ミアは一冊の黒い手帳を掲げた。


「これがあれば、あの詐欺契約を無効にするどころか、ギルド支部長の首を飛ばせます」


「よし……!」


 クラウスが力強く頷き、剣を佩いた。

 彼はキッと顔を上げ、仲間たちを見渡した。


「行くぞみんな! 反撃の時間だ!」

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