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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第五章 隠匿サレシ黄金ト裏社会ノ猫ト陰謀

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『ボスの矜持と、下っ端の叫びにゃ』

 ――記憶が、フラッシュバックする。


 これは、14年後の未来。


 薄暗い地下室で繰り広げられた、ある「断罪」の光景だ。

 豪奢な椅子にふんぞり返るガーラントの前で、数人の男たちが土下座をして震えていた。


 裏帳簿の情報を外部に漏らした裏切り者を探す、魔女裁判のような場だった。


「お前らのうち、誰かがやったはずだ。……白状しろ」


 ガーラントが冷酷に告げる。

 男たちが悲鳴のような声を上げた。


「ち、違います! 私じゃありません!」

「私でもありません! 誤解です、信じてください!」


 誰もが必死に無実を訴える。

 だが、ガーラントは退屈そうに欠伸を噛み殺し、椅子の足元に侍る影に声をかけた。


「……ロビン」


 その名が呼ばれた瞬間、部屋の空気が凍りついた。


 影から音もなく歩み出たのは、隻眼の巨猫。

 ロビンは悠然とした足取りで、震える男たちの周りを一周した。


 ヒタ、ヒタ、ヒタ……。


 やがて、ロビンはある一人の男の前でピタッと足を止めた。


 そして、残った右目でその男をじっと見上げ、短く鳴いた。


「にゃーん」


 可愛らしい声。

 だがそれは、死刑判決の木槌(ガベル)の音だった。


 男の顔から、一瞬で血の気が引く。


「ち、違う……俺じゃねえ! なんでだよ! なんで俺の前で止まるんだよぉ!」

「……はっ。それはお前の家を調べれば分かることだ」


 ガーラントが冷たく笑い、衛兵に顎をしゃくった。


「連れていけ」

「ひぃぃぃっ! す、すまねえ、出来心だったんだ! 借金がかさんでて、つい!」


 男が引きずられていく。

 その絶叫が、地下室にこだまする。


「くそー! なんでバレたんだ! 猫の分際でぇぇ! くそぉぉぉぉッ!!」


 ロビンは、男の最期の罵倒を聞いても、耳一つ動かさなかった。

 ただ無機質に、次の獲物を探すように目を細めるだけだった。


 ◇


 ――ハッ。


 俺は、冷たい夜風に吹かれて我に返った。


 背中が冷や汗でぐっしょりと濡れている。

 目の前には、あの時と全く同じ姿の隻眼の巨猫が、静かに俺を見下ろしている。


 間違いない。

 こいつは、あの『ロビン』だ。


(……なんで、未来の処刑人がここにいる?)


 いや、それだけじゃない。おかしい。

 14年後の未来で、こいつは既にヨボヨボの「老猫」だったはずだ。

 なのに、なぜ14年前の今も、同じ「老成した姿」でここにいる?


 計算が合わない。


 もし今が老猫なら、未来では寿命を迎えているはずだ。

 逆に未来で生きていたなら、今はまだ子猫か、若いはずだ。


 なのに、姿が変わっていない。

 まるで時が止まっているかのように。


(……まさか、不老なのか? それとも呪いか?)


 底知れぬ不気味さに、恐怖で足がすくむ。

 だが、引くわけにはいかない。


 俺は震える喉を抑え込み、精一杯の虚勢を張って問いかけた。


「……ヴァイスハイト家の飼い猫が、こんな場所で何をしている?」


 俺の言葉に、周囲の猫たちがざわついた。

 だが、ロビンは眉一つ動かさない。


「……ほう。何者だ?」


 ロビンがゆっくりと俺に近づく。

 その巨体から放たれる威圧感は、とても「ただの猫」のものではない。


「知っているなら話は早い。ここは伯爵の管理地だ。……怪我をする前に消えろ」


 冷徹な拒絶。

 だが、その言葉を聞いて、俺の中で恐怖よりも怒りが勝った。

 コイツは、あんな男の手先として、野良猫たちを支配しているのか?


 あんな、自分たちの利益のために平気で人を騙し、陥れるようなクズのために?


「……断る」


 俺は一歩前に出た。


「お前、あんなクズに従っていていいのか? 奴はお前らを利用しているだけだぞ!」


「…………」

「ヴァイスハイト家は、バウマン家を騙してダンジョンを奪った。自分以外の人間なんて、道具としか思っていない。……それは猫だって同じだ! お前も、いつか用済みになれば捨てられるぞ!」


 俺は熱くなって叫んだ。

 未来の記憶があるからこそ、奴の非道さは骨身に染みている。

 だが、ロビンは冷ややかな目のままだった。


「……それがどうした」

「なっ……」

「我輩がどうなろうと、お前には関係のないことだ。……帰れ。これ以上騒ぐなら、力ずくで排除する」


 ロビンが低い唸り声を上げ、爪をシャキンと伸ばした。


(……なんて奴だ。そこまでして、あんな男に……)


 俺が歯噛みし、戦闘態勢を取ろうとした、その時だった。


「てめえ……さっきから聞いてれば、好き勝手言いやがって……ッ!」


 怒号と共に、一匹の若い猫が俺とロビンの間に割って入った。


 先ほどの茶トラだ。

 彼は涙目で毛を逆立て、俺を睨みつけていた。


「黙れ、チャド」


 ロビンが静かに制止する。だが、チャドと呼ばれた茶トラは引かなかった。


「いいえ、言わせてください親分! 俺は許せねえ! 何も知らねえ余所者が、親分のことを悪く言うなんて我慢ならねえよ!」


 チャドは震える声で叫び、俺に向き直った。


「おい、てめえ! 親分がなんで人間なんかの言いなりになってるか、知ってて言ってんのか!?」

「……なんだと?」

「この路地裏一帯はな、ヴァイスハイト伯爵の管轄なんだよ! 本来なら、俺たち野良猫なんてとっくに駆除されてるはずなんだ!」

「……え?」

「でも、親分が……親分が伯爵に頭を下げて、情報を流す『仕事』を引き受けてくれたから! その対価として、俺たちの居場所と餌が保証されてるんだよ!」


 チャドの目に涙がにじむ。


「親分は、俺たちを守るために……たった一匹で、汚れ役を買って出てるんだ! 俺たち『家族』のために、プライドを捨てて戦ってくれてるんだよぉッ!」

「…………」


 俺は言葉を失った。

 ロビンを見る。

 彼はバツが悪そうに顔を背け、隻眼を閉じていた。


「……余計なことを言うな」


 その言葉には、隠しきれない優しさと、重い責任が滲んでいた。


(……そうだったのか)


 未来の処刑人。冷酷なフィクサー。


 そう思っていた彼の正体は――不器用なまでに仲間想いな、心優しきボスだったのだ。

 自分の誇りを売り渡してでも、守りたいもののために泥を啜る。

 その姿は、かつて才能がないと罵られながらも、家族のために剣を振り続けていた俺と重なって見えた。


(……こいつは、敵じゃない)


 俺の中で、認識が切り替わった。

 こいつは、手に入れるべき「最強の仲間」だ。


 俺はふぅっと息を吐き、威嚇を解いた。


 そして、真っ直ぐにロビンの目を見つめた。


「……悪かった。事情も知らずに、好き勝手言って」

「……どうでもいい。さっさと帰れ」

「ああ、帰るよ。……でも、明日また来る」


 俺はニヤリと笑った。


「お前らのその『契約』、もっと良い条件で書き換えてやるよ。……俺の飼いクラウスなら、泥水じゃなくて、温かいミルクを出せるからな」


 俺は呆気に取られる猫たちを背に、屋根を飛び移って去っていった。

 勝算はある。


 この「仁義に厚いボス」を落とすための、最強の交渉カード(癒しビジネス)が、俺にはあるのだから。

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