『裏庭のダンジョンと経営計画だにゃ』
俺はクラウスの足元に擦り寄った。
『うらにわ……だんじょん。……あそこが、かぎにゃ』
「裏庭のダンジョン? バウマン家が管理している、あれか?」
クラウスが首をかしげる。
バウマン家が代々管理している、Fランクダンジョン『竜の箱庭』。
たいそうな名前はついているが、実際にはゴブリン数匹が出る程度の、枯れた初心者用ダンジョンだ。
――そう思われている。
だが、違う。
あそこは、まだ誰も最深部に到達していない「未踏破ダンジョン」なのだ。
そしてその奥底には、世界を変えるほどの資源(高純度魔鉱石)と、最深部には古竜が眠っている、SSランク以上の魔境だ。
『あそこを……しげんのあふれる、だんじょんに、かえるにゃ。……やりかた、しってる』
俺の言葉に、クラウスが目を丸くした。
「えっ? あの枯れたダンジョンを……資源の溢れるダンジョンに変えられるだって!?」
クラウスは俺の言葉を復唱し、そしてパッと顔を輝かせた。
「そ、それはすごいなノワール! 何だかよく分からないけど、すごいことになるんじゃないか!?」
……うん、こいつは分かっていない。
だが、俺の言葉に反応した人物がもう一人いた。
「……資源溢れるダンジョンに、変える?」
ミアだ。
彼女は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、前のめりになった。
「クラウス様。もしノワール様の仰ることが事実なら……バウマン家の再興は、約束されたも同然です」
「え? そ、そうなのか?」
「はい。ダンジョンとは、すなわち『人を呼ぶ装置』ですから」
ミアは立ち上がり、まるで軍師のように熱弁を振るい始めた。
「本来、この国の貴族における『ダンジョン管理』とは、魔物を抑え込むだけの防衛任務ではありません。……『経営』なのです」
「けいえい……?」
「ええ。魅力的なダンジョンには、多くの冒険者が集まります。人が集まれば、彼らが泊まる宿屋が潤い、武器屋が儲かり、酒場で金が落ちる。その経済活動から得られる莫大な税収こそが、貴族の力の源泉であり、家を支える柱なのです!」
ミアは一息に言い切ると、眼鏡をくいと押し上げた。
「つまり、裏庭のダンジョンを『稼げる場所』にリニューアルできれば、バウマン家は領主として莫大な富と権力を取り戻せます。……借金など、一瞬で消し飛びますよ」
その完璧な解説に、クラウスはポカンと口を開けた。
「す、すごいなミア……。そんなこと、俺も父様も考えたことなかったよ。……君、本当に孤児院で暮らしていたのか? どこかの商会の娘とかじゃなくて?」
もっともな疑問だ。
教養のないはずの孤児が、領地経営の本質を語っているのだから。
だが、ミアは涼しい顔で答えた。
「市場の近くにある古本屋のお婆ちゃんとは、懇意にしてまして。……売れ残っていた経営や経済に関する本は、店番の合間にすべて読破(立ち読み)しました」
「ど、読破って……」
「淑女のたしなみです」
しれっと言い放つミア。
俺は心底呆れ、そして感心した。
(……こいつ、やっぱ化け物だわ)
環境が悪かっただけで、中身は完全に「経営者」だ。
さすが、未来で巨大クランを支配していた女王だけのことはある。
「よし! 方針は決まったな!」
クラウスが拳を握りしめる。
最強の剣士、最強の参謀、そして未来を知る猫(俺)。
役者は揃った。
「父様! 裏のダンジョンに潜る許可をください! 俺たちで再調査して、キッチリ利益を出してみせます!」
クラウスが意気揚々と、父ヴィルヘルムに振り返った。
だが。
父の反応は、予想外のものだった。
「……あー、その。……無理だ」
「え?」
父は視線を泳がせ、脂汗を流しながら、衝撃の事実を口にした。
「ダンジョンの権利書な……実は今、手元にないんだ」
これにて、第四章完結となります!
少し息抜きの章としましたが、いかがでしたでしょうか?
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