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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第四章 廃棄薬ト商才ト屋敷ノ崩壊劇

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19/22

『爆散した成金計画だにゃ』

 半壊したリビング。

 吹き飛んだ窓から吹き込む風が、焦げ臭い空気を揺らしている。

 その部屋の中央で、異様な光景が繰り広げられていた。


「うっ……うぅ……ごめんなさいぃぃ……」


 エレナが顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくりながら、正座で縮こまっている。

 そしてその隣には――。


「…………」


 額を床に擦り付け、両手を前方に伸ばし、微動だにしない少女が一人。

 ミアだ。

 完璧な姿勢の五体投地。その震える背中からは、言葉以上の謝罪の念と、自分の計算ミスに対する深い絶望が漂っている。

 そして、彼女たちの目の前には、一匹の黒猫が仁王立ち(四つ足だが)していた。


「…………」


 俺だ。

 尻尾をバンバンと床に叩きつけ、金色の瞳で彼女たちをねめつける。


(……やってくれたな、お前ら)


 屋敷の「離れ」が消滅した。

 在庫のポーションも全損。

 奇跡的に怪我人はゼロだが、バウマン家の敷地は戦場跡のようになっている。


「も、申し訳……ありません……」


 寝そべったまま、ミアが蚊の鳴くような声を出した。


「損害額を算出しました……。今回のポーション販売で得た利益、その全額が、屋敷の修繕費と近隣への謝罪金で相殺されます……。プラスマイナス、ゼロです……。いえ、在庫の材料費を考えれば、わずかに赤字……」

「ガハハハハ!!」


 豪快な笑い声が、焦げた部屋に響き渡った。

 父、ヴィルヘルムだ。


「よいよい! 命があっただけ儲けものだ! 屋敷なぞまた建てればよいわ! ……うぐっ」


 父は豪快に笑い飛ばしたが、直後に胃を押さえて小さく呻いた。

 言葉とは裏腹に、ダメージは深刻らしい。


「まあまあ、あなた」


 母マリアが、ふんわりと微笑んで父の背中をさすった。


「皆様が無事でよかったですわ。……ね? 怪我がないなら、それだけで黒字ですもの」


 まあ、あれだけの大事故で、誰も怪我が無かったのは不幸中の幸いだな。……そんなことより。

 俺の脳裏には、別の計算が働いていた。


(……この火力。この耐久力。そして何より、このイカれたポテンシャル)


 俺は、無傷で生還した二人をじっと見つめた。

 エレナの音速剣(ソニック)

 ミアの魔力撃(マナ・インパクト)


 どちらも、今の段階(Lv.5~18)ではあり得ない出力だ。


 ――あと、一年。


 俺の記憶が正しければ、あと一年で世界は激変する。


 『大共鳴(グランド・レゾナンス)』。


 世界中のダンジョンが一斉に活性化し、魔物の強度が跳ね上がる厄災の日。

 それまでの「剣と弓」の常識は通用しなくなる。

 魔道具を使えない者は淘汰され、食糧事情は悪化し、文明は100年後退すると言われる「冬の時代」が到来するのだ。

 かつての俺(30歳)は、その荒波に揉まれ、搾取される側として泥水を啜った。


 だが、今なら変えられる。

 この規格外の二人を育て上げ、味方につければ――俺たちは「搾取する側(勝ち組)」に回れる。


(……こいつらは、必要だ)


 俺は決断した。

 「剣聖」と「女王」を、今ここで囲い込む。

 俺の「最強クラン計画」の最初のピースとして。

 俺は、彼女たちの横で呆然としているクラウスの方を向いた。


『くらうす……きけ』


 【思考伝達】を送る。クラウスがビクッとして俺を見る。


『こいつら、ゆるすにゃ』

「許すって……さすがにお咎めなしは甘いんじゃないか?」

『そんがいは、ぷらまいぜろにゃ。……そのかわり』


 俺は、未来の予兆をイメージとして彼に送った。

 荒廃する大地。強大化する魔物。

 今のままのバウマン家では、誰も守り切れないという危機感。


『あと1ねん。……せかい、こわれる』

「え……?」

『まえの、みらい……。バウマンけ、ほろんだ』


 クラウスが息を呑む。

 俺は続ける。大共鳴は、クラウス家が滅んだ要因の一つだ。


『ちから、なかった。……かね、うばわれ……まもの、おそわれ……みんな、しんだ』


 大共鳴の混乱に乗じて、資産を乗っ取られ、裸一貫で放り出された先で、魔物の群れに蹂躙される未来。

 今のままの「良い人」なバウマン家では、絶対に生き残れない。


『まもるには……ちから、いる。……このふたり、さいきょうに、なる』


 俺の真剣な眼差しに、クラウスが唇を噛む。

 クラウスは一つ大きく息を吐くと、居住まいを正し、二人の少女に向き直った。


「……エレナ、ミア。顔を上げてくれ」


 二人がおずおずと顔を上げる。

 クラウスは、努めて真剣な声で告げた。


「弁償なんてしなくていい。……その代わり、改めて契約させてほしい」

「え?」

「ミア。君には今まで通り家計を見てもらうけど、それだけじゃダメだ。……これからは『クランメンバー(戦う仲間)』として、俺の背中を守ってほしい」


 クラウスはエレナにも視線を向けた。


「エレナもだ。行く当てがないなら、ウチで雇う。……これから先、もっと大変な時代が来る気がするんだ。この家を守るために、そして生き残るために……俺に力を貸してほしい」


 それは、実質的な勧誘プロポーズだった。

 だが、ミアが少しだけ眉を寄せた。


「……大変な時代、ですか? 今は平和そのものに見えますが」

「うん、私もそう思う。クラウス、何か心配事でもあるの?」


 もっともな疑問だ。

 今の王都は繁栄の絶頂期にある。誰も一見して破滅が近づいているなどとは気づかない。

 いきなり「世界がヤバい」と言い出した幼馴染を、心配こそすれ、すぐには信じられないだろう。

 クラウスが言葉に詰まり、「ぐっ」と喉を鳴らして助けを求めるように俺を見る。


「……だが、ノワールがそう言っていて――」


 その一言で、場の空気が劇的に変わった。


「ノワ様が!? だったら本当だね!」


 エレナが食い気味に身を乗り出した。


「ノワール様が警鐘を鳴らしておられるのであれば、それは確定した未来も同然。私の浅はかな現状認識をお詫びいたします」

「お前ら……」


 クラウスががっくりと肩を落とした。……まあ、これからだ。頑張れ、俺。


 こうして、契約は成立した。

 未来の剣聖と、裏社会の女王。

 最強の二枚看板が、正式にバウマン家の戦力として加わった瞬間だった。


 ◇


「さて。……チームはできた。ですが、問題は山積みです」


 ミアが即座に切り替えた。

 彼女は煤けたテーブルの上に、バウマン家の資産状況(プラマイゼロ=つまり極貧のまま)を展開する。


「この人数を養い、さらに一年後の『激変』に備えて装備を整えるには、安定した収入源が不可欠です。ポーションのような一発芸では持ちません」

「うぐっ……」


 クラウスが呻く。

 だが、俺にはアテがあった。

 俺は窓の外――裏庭の奥にある、森の方角を見た。


『……あるにゃ』

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