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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第三章 再会シタ災厄ト炸裂スル鉄拳

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『屈辱の証明と、悪堕ちの阻止にゃ』

 数分後。


 地下室には、静寂が流れていた。


 部屋の隅には、冒険者結びでガチガチに拘束された豚貴族バロン・ボルクと、武装解除された私兵たちが転がっている。


 子供たちは縄を解かれ、互いに身を寄せ合って震えているが、怪我はないようだ。

 ボルクは猿轡をされ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら命乞いをしている。

 あまりに情けない姿だ。これが貴族のすることか。


 問題は、ここからだ。

 ただ弱みを握るだけでは足りない。未来において、バウマン家を破滅に追いやった「決定的な一手」を潰さなければならないのだ。


 未来の歴史では、この後、豚貴族は王宮へ『嘆願書』を提出する。

 内容は「バウマン家の嫡男による一方的な暴行と、それによる精神的苦痛への賠償請求」。

 本来なら、下級貴族同士の小競り合いなど揉み消されるはずだ。だが、なぜかその嘆願書は受理され、法外な賠償命令が下った。

 それが、我が家の没落の引き金となったのだ。


(奴は、既にその書類を用意しているはずだ。それを回収し、破棄させる!)


 俺は【思考伝達 Lv.1】で、懸命に意思を送る。


『かみ……さがす……。ばしょ……きく』


 だが、Lv.1の伝達能力では、細かいニュアンスが伝わりきらない。クラウスが「ん? 紙? なんの?」と首をかしげている。


(ええい、もどかしい! もっとスムーズに、もっと流暢に言葉を!)


 俺が焦りを感じた、その時だった。

 脳内で、軽やかなファンファーレが鳴り響いた。

《【思考伝達】の熟練度が一定値に達しました》

《【思考伝達】が Lv.2 にレベルアップしました!》

《効果上昇:単語の羅列から、片言の文章レベルへの会話が可能になります》

《種族特性付与:言語野の変換機能に、種族特性を付与します》


(よし! レベルアップだ! ……ん? 副作用?)


 俺は気にせず、すぐさまクラウスの脳内に話しかけた。


『くらうす。あいつ、こわがらせるにゃ。わるいかみ、かくしてるにゃ』


 ……あれ? なんだこの口調は?


「……えっ? ノワール、なんか話し方が可愛くなったな?」

『うるさいにゃ! はやくやるにゃ!』


(……なんだこれ!? 語尾が勝手に変換されるぞ!? いらんだろこの機能!)


 俺は心の中でシステムにツッコミを入れたが、今は恥を忍ぶしかない。

 クラウスは「ぷっ」と笑いながらも、真剣な表情に戻り、縛られた豚貴族の前に立った。


「おい、バロン。お前が王宮に出そうとしていた書類があるだろう。場所を言え」

「ひぃっ! な、なぜそれを……!?」

「言わなければ、この写真を街中にバラ撒くぞ」


 クラウスの手には、先ほどメイドから拝借した魔道具のカメラが握られている。そこには、泣き叫んで命乞いをする無様な豚貴族の姿がバッチリ写っていた。


「や、やめてくれ!! そんな写真をバラ撒かれたら社交界で生きていけない!」

「なら、吐け」

「あ、あそこの、壁の絵画の裏だ! 金庫の中に入っている!」


 あっさりと落ちた。


 クラウスは俺に頷くと、金庫へ向かった。

 その間、俺は部屋に残されたもう一人の人物――リンゴ売りの少女に目を向けた。

 彼女は俺に飛びつかれた体勢のまま座り込み、まだ呆然と俺の事見つめている。

 先ほど、俺が飛びついて視界を塞いだおかげで、彼女は暴力の瞬間を直視せずに済んでいた。

 その時表示された名前に、どうしても確認しなければならない理由があった。


 俺は少女に近づき、【能力閲覧】を発動した。


《対象[ミア・ヴァレンタイン(16歳)]のステータス》


 Lv. 5

 HP: 180 / 180

 MP: 650 / 650


【パラメーター】


 STR: 240(D)

 VIT: 40(F)

 AGI: 110(E)

 MAG: 300(C)

 LUK: 10(F)


【現在職業】


 行商人見習い  〈適性:D〉


【転職候補一覧】

 女王 〈適性:S〉(NEW!)※非活性中


【保有スキル】

 ・【商才】Lv.1

 ・【魔力撃】Lv.1(NEW!)

  説明:自身の魔力を身体能力(筋力)へと変換し、打撃に乗せる戦闘スキル。

 ・【女王の鞭】Lv.0(NEW!)※非活性中

  説明:自身より下だと認識している対象へ攻撃する場合、以下が適応される。

  ・自身のSTRが50%上昇

  ・攻撃対象へ【畏怖】を与える




(……やはり、あのミア(・・)だ!)


 ミア。未来で俺が所属していたブラックな派遣ギルドのギルドマスター、「女王ミア」の名だ。

 未来の彼女は、極度の男嫌いで、美女ばかりを侍らせ、気に入らないギルド員を鞭でしばき倒す最悪の上司だった。

 あの歪んだ性格と能力は、この事件が原因だったのか……!

 ステータスの【女王】の横にある「NEW!」の文字が、残酷な真実を物語っている。

 

(だが、なぜか分からないが、まだ非活性の状態だ。今なら、まっとうな人間に戻れるかもしれない)


 俺が複雑な心境で彼女を見つめていると、クラウスが戻ってきた。手には、一枚の羊皮紙と、開封された手紙が握られている。


「あったよ、ノワール。これだ……嘆願書と一緒に、こんな手紙が入ってた」


 クラウスの顔色が悪い。

 俺は彼の肩に飛び乗り、その手紙を覗き込んだ。


『親愛なるバロン・ボルク殿。

 例の計画、よろしく頼む。バウマン家の長男は、正義感の強い馬鹿だ。適当に貧民どもを痛めつけるような場面を見せれば、すぐに飛びついてくるだろう。

 お前の悪辣な趣味(性癖)を兼ねて、一芝居打ってくれ。

 そのあとは、この嘆願書を王宮に出せばよい。ヴァイスハイトが後押しをしよう。そうすれば、バウマン家は終わりだ』


 差出人の名は――『ヴァイスハイト伯爵』。

 俺の全身の毛が逆立った。


(……やはり、奴か!)


 ガーラントの父親。表向きは父さんの親友ヅラをしておきながら、裏ではこうしてバウマン家を陥れる準備を整えていたのだ。

 最初から仕組まれていたのだ。市場での騒ぎも、クラウスが殴るように仕向けたのも、全てはバウマン家を潰すための脚本通りだったのだ。


「なんてやつらだ……」


 クラウスの手が震える。


「そうか。このことをきっかけにバウマン家は金銭的に余裕がなくなり、最終的にはヴァイスハイト家にすべての権利を奪われたんだ……」


 だが、俺には疑問があった。

 この「没落イベント」は、未来の記憶では少なくとも1年は先だったはずだ。

 なぜ今、急に計画が前倒しされたのか?


(なにか、未来がずれてきているようだ。俺が戻ってきた影響か?)


「ノワール! これを見てくれ!」

 俺が考え込んでいると、クラウスが嬉々として俺を呼んだ。

 

 クラウスは部屋の隅にあった金庫を開いていた。

 そこには、見たこともないような金の延べ棒と札束が山積みになっていた。


『きっと、せいこうほうしゅうにゃ』


 ヴァイスハイト伯爵から前払いされた、バウマン家を陥れるための報酬金だろう。

 莫大な金額だ。これがあれば、バウマン家の逼迫した家計事情が一気に改善される。


(ふふふ、泥棒から盗むのは犯罪じゃないよな?)


 俺がほくそ笑んだ、その時だった。


「お金……」


 部屋の隅で震えていたミアが、札束を見て小さく呟いた。


「あの子たちに……パンを、買ってあげられる……」

「え?」


 クラウスが振り返る。


 ミアは涙ながらに語り始めた。彼女はボルクが管轄する孤児院の出身だが、そこは劣悪な環境で、子供たちは十分に食べ物を与えられていないのだという。

 彼女が市場でリンゴを売っていたのも、お腹を空かせた年下の子たちのためだったのだ。


「この豚野郎……! 金を持ってるくせに、子供たちには餌もやってないのか!」


 クラウスの怒りが再燃する。

 彼はボルクの前に詰め寄った。


「とりあえず、ボコっとくか」

『おう、やるにゃ』


「ひぃぃ! ごめんなさい! もうしませんんん!」


 ひとしきり制裁を与えた後、クラウスは俺を見た。


「なあ、ノワール」

『……わかってるにゃ』


 俺たちの意見は一致していた。


「この金で、孤児院の運営権をバウマン家で買い取る。施設の改修、食料の手配……すべてのお金を、子供たちのために使うぞ」


 クラウスが宣言すると、ミアが顔を上げ、信じられないものを見るような目で俺たちを見つめた。


「ほ、本当に……?」

「ああ。もちろん、君も一緒に来るんだ。……ウチには猫の手も借りたいくらい仕事があるからな」


 クラウスが手を差し出すと、ミアは恐る恐るその手を握り返した。

カクヨム版では、この先の第8話まで先行公開中です!


待ちきれない方は以下からどうぞ!


カクヨム版URL:[ https://kakuyomu.jp/my/works/822139840522698810 ]

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