『鍵と暗号と、地下室への道にゃ』
俺は鍵束を口に咥え、光の速度で廊下を駆け抜けた。
『くらうす! かぎ! もった! ちか……いく!!』
裏口で待機していた少年クラウスは、俺からの断片的な指令を理解したようだ。物陰から飛び出し、俺を抱き上げる。
「ノワール! よくやった! 地下室はどこだ!」
俺は鍵束をクラウスの手に落とし、【思考誘導 Lv.4】でナビゲートする。「下へ」「左へ」「もっと陰湿な方へ」――イメージを連続送信!
同時に【危機察知 Lv.2】を全開にする。遠くから聞こえる微かな音と振動……間違いない、最悪の危険源(地下室)はそこだ!
(くそっ、急げ!!)
「今助けるぞ!」
クラウスの手が震える。鍵穴に鍵をねじ込み、乱暴に回すと、カチャリと解錠の音が響いた。
「うおおおぉぉぉッ!」
クラウスは渾身の力を込め、扉の蝶番ごと吹き飛ばす勢いで飛び蹴りを叩き込んだ。
バァァン!!
轟音と共に鉄扉が内側へ弾け飛び、俺たちは勇ましく現場へ踏み込んだ。
「覚悟しろ悪党ぉぉ……ッ!?」
クラウスが部屋の中を見て、息を呑んだ。
俺もまた、着地の体勢のまま周囲を見渡す。
そこは、地獄だった。
部屋の隅には、怯える数人の子供たちが固まって座らされている。
その周囲を、武装した4人の私兵が囲んでいた。
そして部屋の中央。
豚貴族バロン・ボルクが、豪華な椅子に座り、ニヤニヤと笑っている。
その目の前に、リンゴ売りの少女ミアが立たされていた。彼女の手には、家畜用の鞭が握らされ、全身が小刻みに震えている。
(……一目瞭然だ。最悪の状況だ!)
会話を聞く必要すらない。子供たちを人質に取り、彼女に何かを強制していたのは明白だ。
「ああん? 何だ貴様らは!」
ボルクが俺たちに気づき、叫んだ。
私兵たちが即座に反応し、剣と槍を構える。
「侵入者だ! 殺せ!」
「やれ!」
4人の大男が一斉に殺気を放つ。
真正面からやり合えば、クラウスといえど無傷では済まない。子供たちに被害が及ぶ可能性もある。
(ここは、俺の出番だ!)
俺はクラウスの肩から飛び降り、兵士たちの前にスタッと着地した。
そして、首をかしげ、クリクリの瞳で彼らを見上げ、最大級の可愛さを込めて鳴いた。
「……みゃ~ん♪」
瞬間、【魅了 Lv.2】が発動する。
兵士たちの動きがピタリと止まった。
殺伐とした空気が、強制的にピンク色のオーラに塗り替えられる。
「……えっ、かわいっ」
「ねこ……?」
「うわ、めっちゃ見てる……」
彼らの戦意が、一瞬だけ上書きされ、空白が生まれた。
その隙を、クラウスは見逃さない。
「どけぇぇぇッ!!」
クラウスは兵士たちの間を疾風のごとくすり抜け、一直線に玉座の豚へ肉薄した。
「ひぃっ!?」
「この外道がぁぁあああ!!!!!!」
ドゴォッ!!
拳がめり込む鈍い音と共に、地下室に響き渡ったのは「ひぎぃぃっ!?」という情けない悲鳴だった。
豚貴族は椅子ごとひっくり返り、無様に床を転がる。
クラウスは即座に近くの兵士から剣を奪い取り、切っ先をひっくり返ったボルクの喉元に突きつけた。
「武器を捨てろ!! さもなくば、こいつの首が飛ぶぞ!」
兵士たちは我に返ったが、主人が人質に取られては動けない。
「こ、降参だ……」
「猫ちゃん……じゃなくて、降参します……」
カラン、カラン。
武器が床に落ちる音が響いた。
俺は即座に少女の顔に飛びつき、その視界を塞いだ。
これ以上、大人の汚い部分を見せてはいけない。
《対象[ミア・アイゼン]からの【被・魅了(好意)】を検知しました》




