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長編版:撫でられるのが仕事です。~裏切られ死んだ俺、猫に回帰して仲間を最強にプロデュースする~  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第三章 再会シタ災厄ト炸裂スル鉄拳

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『潜入! メイドと裏地下室の秘密にゃ』

 豚貴族バロン・ボルクの館は、王都の貴族街の一角にあった。

 夕闇に包まれた巨大な屋敷は、その悪趣味な主を反映してか、どこか陰鬱な空気を漂わせている。

 俺は、クラウスの肩から音もなく飛び降り、石垣を伝って館の敷地へと侵入した。


『くらうす……ここ……まつ。うらぐち……かくれる。あいず……まつ』


 俺は【思考伝達 Lv.1】で、拙くクラウスに指示を送った。

 

「わ、分かった。でもノワール、危ないぞ! 見つかるなよ!」


 その心配はごもっともだが、無鉄砲なクラウスを動かすには、俺の知性と猫の機動力が不可欠だ。

(鍵開けや隠密行動は、猫の得意分野だ)

 俺は身体を低くし、夜目と【危機察知】スキルを頼りに、館の裏口から侵入を試みる。


《【危機察知】の熟練度が一定値に達しました》

《【危機察知】が Lv.2 にレベルアップしました!》

《効果上昇:周囲の警戒密度を視覚化し、巡回ルートの予測が可能になります》


(おお、視界にマップが! これは助かる!)


 視界に、兵士の巡回ルートが点線で表示される。完璧だ。

 無人のはずの裏口の廊下を進むと、正面からカツカツと硬質なヒールの音が聞こえてきた。


(まずい。誰か来る)


 俺は素早く物陰に隠れた。

 現れたのは、一人のメイドだった。二十歳前後の美しい女性だが、その表情は冷徹で、感情が一切読み取れない。制服もピシッと着こなしており、いかにも隙がない。


(最悪の相手だ。だが、この無表情を崩すことができれば……)


 俺は意を決した。

 目的のため、プライドを捨てて任務を遂行する!


 俺は物陰から、わざとらしくヨロヨロと、弱々しく姿を現した。

 そして、顔を上げる。上目遣いで、金色の瞳を潤ませる。

 おそるおそる、前足を一歩踏み出した。


「みゃあ……」


 喉から絞り出したのは、か細く、か細い鳴き声。

 全身の毛並みを最高にフワフワに見せる角度で、その場にぺたりと座り込む。

 メイドは無表情なまま、俺を一瞥した。


(くっ! ダメか!?)


 だが、次の瞬間。


 彼女の冷徹だった表情が、フッと溶けた。

 目の奥に宿っていた氷のような光が消え、代わりに熱狂的な輝きが灯る。


「……ふぁあああああああ!!」


 メイドは息を呑んだような、抑えきれない興奮を示す声を漏らした。


 その声は、一瞬で「冷徹なメイド」から「猫狂いのオタク」へと変わっていた。


「あーら、かわちい猫ちゃんでちゅねぇ! こんなところで、ふらふらしてて大丈夫でちゅか、お腹すいたんでちゅか?」


 メイドは両手で俺をすくい上げると、胸に強く抱きしめた。


(チョロすぎるぞ、この世界は!)


 彼女は俺を抱きかかえたまま、廊下の隅にあるソファへと向かった。座るやいなや、彼女の冷徹な仮面は完全に剥がれ落ちた。


「あらあら、ごめんなさいね。びっくりさせちゃって。もう、子猫ちゃん! なんて可愛らしいのかしら!」


 メイドは俺のフカフカの毛並みに顔を埋め、深呼吸をした。


「うぅ~ん、いい匂い。こんな子がいるなんて知らなかったわ。ご主人様に見つかる前に、家に持ち帰っちゃおうかしら」


(うう、我慢だ。 鍵を手に入れるチャンスを待つんだ、俺)


 俺の喉元を熱心に撫でながら、メイドは顔を綻ばせる。


「こんな可愛い子が、こんなところにいるなんて、お腹が空いているに決まっていますわよね? すぐに温かいミルクを準備してあげますからね」


 彼女は俺をソファにそっと降ろしたが、別れがたい様子で、鍵束の掛かったフックのある方向へ目をやった。


「鍵は危ないから、あそこに掛けておくわ」


 そして、小声で、まるで独り言のように愚痴をこぼし始めた。


「それにしても、ご主人様の趣味が悪すぎて嫌になるわ。この仕事は実入りがいいから辞めたくはないんだけど……。今日の昼間も、市場で少女にひどいことをしてね。あの少女、今は地下室にいるそうよ。一度お預けを食らったから、今夜は相当激しくなるだろうね」


 俺の胸は警鐘を鳴らした。


(市場の!? まさか、あの少女の事か!?)


 なんという執念深さ。

 公衆の面前でクラウスにぶん殴られたというのに、再び連れ去りを決行したのか。

 状況が変わった。彼女が傷つけられてしまう前に、手を打たなければならない。


「さあ、可愛い猫ちゃん。ミルクを用意するから、ここに座っててね」


 メイドはキーハンガーにかかった鍵束を指さし、急いでキッチンへ向かおうとする。


(時間が、ない!)


 その時、遠くから「ピシッ!」という鞭のような音が響いた。


 一瞬、メイドの顔が強張り、恐れに変わる。


「あ、始まったわ。あの豚、今日はいつもより張り切ってるわね……。早く回復ポーションを持っていかないと」


 メイドは慌てて薬品棚の方へ引き返す。


「回復させながら叩き続けるつもりか? ……なんて外道だ!!」


 もう悠長(ゆうちょう)に様子をうかがっている時間は無い。

 俺はメイドの腕から器用にすり抜けると、近くにあったミルクの皿(メイドがさっき用意したものだろう)を、派手にひっくり返した。


「きゃあっ! ミルクが!」


 メイドがパニックになっている隙に、俺は鍵束を加えて部屋を出た。


『くらうす! きて!!』

カクヨム版では、この先の第8話まで先行公開中です!


待ちきれない方は以下からどうぞ!


カクヨム版URL:[ https://kakuyomu.jp/my/works/822139840522698810 ]

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