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魔王「娘さんを俺にくれ、お義父さん」神「お義父さんと呼ばれる筋合いは無い!」  作者: 黒川 遼


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3/12

第3話 牢屋なのに楽園です

本話もお時間のあるときにゆっくり読んでいただければ幸いです。

 魔王城の地下深く。

 重厚な鉄扉がずらりと並ぶ、薄暗い牢獄。


 本来なら、魔族でも震え上がるような凶悪犯が入れられる場所である。


 ……はず、なのだが。


「セラフィナちゃ〜ん、今日のおやつだよ」


「わあっ! ありがとうございます、ハグレさん!」


 渡されたのは、魔界産クッキー。

 色は紫だが味は意外と普通らしい。


「今日の調理当番の時に作ったんだ、よかったら感想聞かせてね」


「はいっ! ぜんぶ素敵においしいです!」


「“素敵においしい”ってなんだ……でもありがとな……!」


 犯罪歴三桁の凶悪犯が照れている。


 セラフィナは今日も牢の中でにこにこ。

 牢屋のはずなのに、雰囲気は完全に「地域交流会」である。


「セラフィナちゃん、刑務作業の時間だぞー」


「はーいっ!」


 別の牢の魔族がドバッと水桶を運んでくる。


「重かったら呼べよ」


「重いですっ!」


「わかった!任せろ!」


「ありがとうございます!」


「気にしなくて大丈夫だよ!」



 さらに──


「セラフィナちゃん! 今日の絵、できたぞ!」


「えっ、見たいです!」


 隣の牢の魔族が、壁に描いた落書きを見せてくる。


 天使と魔族が仲良く肩を並べている絵だった。


「わあ……! わたしですか?、羽きれいですね!!」


「そうだろ!この色を出すのに苦労したんだ!」


「はいっ!」


 どこに肯定してるのかは不明。


 そして、牢屋を見張る守衛たちも──


「セラフィナちゃん、給食で余ったやつですけど……」


「おやつですか!?」


「まあ、余ったから……」


 なぜかつい、渡してしまう。


 守衛が照れ、魔族たちが笑い、

 セラフィナがきゃっきゃと喜ぶ。


 その結果──


 牢屋にいる全員の雰囲気が良くなっていた。


 地下牢とは思えない心の平穏。


 魔族たちのやる気まで上がっている。


「明日の裁判、真面目に受けようと思います……」

「俺も……暴れんのやめる……セラフィナちゃんに嫌われたくねえし……」


「もっと悪いことしようと思ってる子は、めっ!ですよ!!」


「はいっ!!!」


 凶悪犯たちが一斉に姿勢を正す。


 守衛たちは背筋をのばし、


(……天使ってすげえ……)


 と、本気で感動していた。



---


◆ 魔王、異変を聞く


「陛下、地下牢に異常が出ています」


「またか」


 ルシアンは書類から顔を上げる。


「暴走か。鎮圧班を──」


「いえ……“雰囲気”が……良すぎて」


「…………は?」


 イオが説明する。


「牢の魔族全員が反省し始めています。

 守衛も士気が上がっています。

 “天使のセラフィナの影響だと思われます”」


「牢屋で更生が起きているのか」


「はい」


 ルシアンはこめかみを押さえた。


(……なんだその現象は。天使の奇跡か?)


「とにかく、牢から出すのが良いかと。

 魔族が感化されすぎて逆に不気味です」


「確かに……治安が改善するのは良いが、魔王城として問題だ」


 方向性の違う問題意識である。



---


◆ ◆ 移送


 地下牢に到着したルシアンは、固まった。


「魔王さまー!!」


 セラフィナは両手を振って歓迎してくる。


 凶悪犯たちが横一列に並び、声を揃えて叫ぶ。


「陛下ー!! セラフィナちゃんをよろしくお願いします!!」


「犯罪を続けないようにします!!」


「私、明日出所なんですが、魔王城のお掃除手伝わせてください!!」


「お前らは大丈夫か……?」


 ルシアンは思わず小声で漏らす。


 イオが横で呟く。


「……陛下、これ以上ここに置くのは危険です。

 いろんな意味で」


「分かった」


 ルシアンはセラフィナに近づき、短く命じた。


「出るぞ」


「はいっ!」


「牢屋なのに元気だな」


「はいっ!」


「……そうか」



---


◆ 尋問開始──のはずが


 セラフィナは牢から出され、

 なぜか普通の客室へ連れてこられた。


「わああ……きれいです……!

 牢屋よりちょっと広いですね!」


「“ちょっと”ではない」


 魔王城の客室は、広さが牢の五倍はある。


  

 ルシアンは椅子に座り、正面のセラフィナを見据えた。


「では尋問を始める」


「はいっ!」


「所属は?」


「天界第七階梯です!」


「職務は?」


「ありませんっ!」


「……は?」


「最下級なので。

 仕事がなかったので、掃除してました!」


「職務が掃除なのか」


「ちがいます!

 でも誰も掃除してなかったので、“これはわたしの役目だ!”って!」


「勝手に決めたのか」


「はいっ!」


 イオが小声で囁く。


「陛下、これは……最下級の中でもかなり……底辺かと」


「分かっている」


 ルシアンはさらに問う。


「では、ここへ来た“目的”は?」


「掃除ですっ!」


「違う。魔王城に来た目的だ」


「掃除です!」


「……」


 ルシアンは天を仰いだ。


「ボタンがいっぱいある部屋が汚かったので、拭こうと思ってカチャカチャ〜って……

 そしたら床が光って……

 気づいたら魔王さまがいました!」


「説明が雑だな」


「雑なんです! 現象の方が!」


「確かに」


 ルシアンも納得するしかなかった。



---


◆ 天使、突然の要求


「質問は以上だ。

 分かった範囲は整理する。しばらくここに滞在──」


「魔王さま」


「なんだ」


「お風呂入りたいです!!」


「…………」


 天界に帰りたいではなく“風呂”。


「牢屋、ちょっと……むしむししてたので……

 羽も汚れちゃいました……」


 セラフィナは羽をばさばさ振る。

 ホコリが舞った。


「掃除した後に、お風呂入ってないと……

 なんかこう……天使として……めです!!」


「めですとはなんだ」


「だめってことですっ!」


 イオが助け舟を出す。


「陛下、羽の衛生は天使にとって重要かと。

 あと汚れたままだと部屋が……」


「分かった」


 ルシアンは観念したように言った。


「風呂を用意させる」


「わあああっ!!」


 セラフィナの顔がぱぁっと輝く。


「魔王さま、優しいんですね!!」


「優しくない」


「はいっ!」


(肯定するな)


 ルシアンは内心で突っ込む。



---


◆ 最後にひと言


 セラフィナが風呂へ連れていかれた後、

 イオがそっとルシアンに近づいた。


「……陛下」


「なんだ」


「尋問でしたよね?」


「ああ」


「内容、全部“掃除”でしたね」


「ああ」


「どうします?」


「どうしようもない」


 魔王は深くため息をついた。


「どうやら……

 世界の防衛を揺るがした原因は……」


 ルシアンは遠くを見る。


「……天使の“掃除”らしい」


「言葉の説得力がゼロですね」


「俺もそう思う」



---


こうして、

魔王と天使の奇妙な日常は、

牢屋から風呂へと進化し、

さらにおかしな方向へと加速していくのであった。

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