表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/20

5.初めての成功

二つの島国——セレスティアとヴァルガード。

 かつては大洋を隔て、互いに干渉することのない遠い存在だった。

 しかし数十年にわたる大陸移動と地殻変動により、その距離は年々縮まっている。今では、海峡の幅はわずか百数十キロ。肉眼では見えないが、双眼鏡を覗けば相手国の海岸線がかすかに映るほどだ。


 両国の関係は、表面上は「友好」で塗り固められている。貿易協定、文化交流、外交儀礼——どれも笑顔と握手で飾られる。だが、その水面下では、互いの経済圏の衝突、資源の奪い合い、歴史認識をめぐる軋轢が、静かに燻り続けていた。


 そして今、新たな変化が訪れている。最新の観測データによれば、両国間の海峡はこの一年でさらに数キロ狭まった。もしこのペースが続けば——二つの国は、いずれ衝突する。

 そのとき何が起こるのか。地理的な衝撃だけではない。経済も、政治も、人々の日常も、すべてが形を変えるだろう。


 だが、この事実を日々の暮らしの中で意識する人は少ない。ほんの一握りの人間だけが、近づきつつあるその未来に備えようとしていた——。

次の日、澪は夢の図書館にいた。

あの不思議な青年が、長机の向こうからこちらを見ている。


「昨日はよくやったな、澪」

その一言に、心臓がドクンと跳ねた。

褒められたなんて、いつ以来だろう。

「え、あ、あの……えへへ……」

顔が勝手に熱くなる。視線を逸らそうとするけど、なんだかもったいなくて、ちらっとまた見てしまう。


「今日は実践だ」

青年は少し身を乗り出した。机越しでもわかる、すっとした横顔。

うわ、近い……。いやいや、落ち着け私。


「じ、実践って……な、何を?」

「このAIで、二つの島国の航路をシミュレーションしてもらう」

青年は机の上に映されたスクリーンを指さして言った。

「し、シミュレーション……って、そんなの私に――」

 “できるわけない”と言いかけて、昨日のことを思い出す。無理だと思ったのに、できたじゃん……。


「スクリーンを見ろ」

青年が指を動かすと、机の上に地図が浮かび上がった。

青い海に囲まれた二つの島国。距離が、目に見えて縮まっていく。


「このままだと、航路は重なり、衝突は避けられない」

「……回避ルートを作るってこと?」

「そうだ。AIを使えば可能だ。君が正しく指示できれば、な」

「どうやって…」

「スクリーンを2回タップするとコマンド入力用のキーボードが表示される。AIは自然言語が理解できる。後は如何に君が正しく指示できるかだ」


澪は唾を飲み込む。指先が落ち着かない。

「お、落ち着け……落ち着け……」と、自分に言い聞かせながらキーボードを叩く。


航路を一本、試しに引く。でも途中で島にぶつかり、シミュレーションは失敗。

「やっぱり無理だってば!」

「……じゃあ、やめるか?」

あまりにもあっさりした声。


なんか悔しい。

「やめない!」

「なら、君が思う最短距離を示せ。計算はAIに任せろ」


言われるまま、別の角度から線を引く。

AIが自動で計算し、海の上に新たな航路が走った。

島を避け、二国を安全に繋ぐ道。


「……で、できた……!」

自分の声が震えているのがわかる。


青年がふっと笑った。

その笑顔があまりにもまぶしくて、また顔が熱くなる。

「悪くない。その感覚を忘れるな。君は、一人じゃない」


「……うん」

胸の奥が、ぽっとあたたかくなった。

――もっとやってみたい。そんな気持ちが、知らないうちに芽生えていた。


「よくやったが、これはあくまでも君の適正を確認する為の実践相当のテストだ。実際には違う方法でこの問題を解決する」

そう言うと青年は消えてしまった。


「何よ、AIのくせにエラソーに!」

「それに…Air on G って何なのよ〜!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ