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1.夢の図書館で出会ったもの

二つの島国——セレスティアとヴァルガード。


 かつては大洋を隔て、互いに干渉することのない遠い存在だった。

 しかし数十年にわたる大陸移動と地殻変動により、その距離は年々縮まっている。今では、海峡の幅はわずか百数十キロ。肉眼では見えないが、双眼鏡を覗けば相手国の海岸線がかすかに映るほどだ。


 両国の関係は、表面上は「友好」で塗り固められている。貿易協定、文化交流、外交儀礼——どれも笑顔と握手で飾られる。だが、その水面下では、互いの経済圏の衝突、資源の奪い合い、歴史認識をめぐる軋轢が、静かに燻り続けていた。


 そして今、新たな変化が訪れている。最新の観測データによれば、両国間の海峡はこの一年でさらに数キロ狭まった。もしこのペースが続けば——二つの国は、いずれ衝突する。

 そのとき何が起こるのか。地理的な衝撃だけではない。経済も、政治も、人々の日常も、すべてが形を変えるだろう。


 だが、この事実を日々の暮らしの中で意識する人は少ない。ほんの一握りの人間だけが、近づきつつあるその未来に備えようとしていた——。

学校? 友達? そんなの、もう何年も縁がない。

私——蒼井澪あおい みお、十七歳。通信制の学校に名前だけ置いてあるけど、行く理由も行く気もゼロ。

外の世界って、面倒だし怖いし、何より疲れる。

だから、この部屋から出なくてもいい生活が、私にとっての平和。


壁際にモニターと小さな机。ベッド。簡易な食料棚。全部が手を伸ばせば届く距離にある。

これ以上の環境なんてない。……まあ、家族や近所の目は痛いけど。


モニターには作りかけのプログラムとゲーム画面。

そんなとき、ニュースの通知がピコンと鳴った。


> 「大陸移動により、セレスティア王国とヴァルガード島帝国の距離はここ半年で四百キロ縮まりました――」


セレスティアは私が住む国。海洋貿易で栄えてるけど、資源は少なめ。

ヴァルガードは北方の大きな島国。軍事力も資源もバッチリあって、昔からセレスティアとは仲が悪い。

その二つの国が、どんどん近づいてるらしい。

確かにここ半年くらいは地震が頻発に起きている。


……ふーん。

「戦争? やりたきゃ勝手にやれば?」

小声でつぶやいて、マグカップを置く。どうせ私には関係ない。


母は仕事でほとんど家にいない。兄は海軍で、遠くの基地にいる。

家族も近所も、私のことを「引きこもって何もしない子」だって思ってる。

私だって、そう思ってる。


そうして、ベッドに潜り込んだ夜——。


……気づいたら、知らない場所に立っていた。


天井はなく、空のずっと上に丸い光が浮かんでいる。

足元は白くてツルツルの床。両側には信じられないくらい高い本棚が並び、本棚ごとふわふわ漂ってる。

キラキラした光の粒がふわっと舞って、肌に触れた。冷たくも暖かくもない、不思議な感触。


「……やっと来たか」


声にびくっとして振り向く。


そこにいたのは——。


「うわぁ……」思わず声が出た。

綺麗な男の人。いや、綺麗なんてもんじゃない。白い髪に、銀色の瞳。なんか光ってる気がする。

漫画とかゲームの中でしか見たことないような人が、こっちを見て微笑んでた。


「君はまた来たな」

「え? 私、あなたと会うのは初めてだと思うんですけど……」

変な声が出た。自分でも恥ずかしい。


「そう思うのは君だけだ」

意味不明。でも、その声、落ち着いた仕草、ぜんぶが胸にズンと響く。


もっと話したい——そう思った瞬間、胸がじわっと熱くなった。

でも、彼は一歩近づいて、真剣な目で言った。


「近いうちに、君の国は選択を迫られる。その時——」


そこで視界が白くかすんで、体が落ちていく感覚に包まれた。


……目を開けると、自分の部屋。

夢? でも、モニターの片隅に見慣れないアイコンがあった。

《Air on G_ver0.01》


マウスに手を伸ばしかけて、やめた。

胸の奥が、まだドキドキしてる。なんで?

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