剣で/魔法で、無双する。
1 とある魔法使いの視点。
「見ろよアイツ、なんも武装もせずに俺たちを相手取るつもりだぜ?」
下卑た笑みを浮かべて荒くれ共が各々携えた獲物を取り出した。
鉄の棒に、剣に、槍に、鎚に、ナイフに、展示会みたいに色んな武器が色んな輝きを放ちこちらと相対する。武器なんて古典美術館くらいでしか見たことなかったわ。
あの武器はどうやってつかうんだろう?
あんな長物、こんなに大人数でうまく扱えるんだろうか?
あんなに短い武器で果たして、きちんとした殺傷能力を期待できるんだろうか?
疑問は尽きない。
魔法のことは人並み以上わかっていると自負しているけれど、武器となるとてんでわからない。ぼくがいた魔法の国には武器そのものやそれに関する書物やはほぼほぼ無かった。あってもそれは美術品としての趣が強い。とても実戦に耐えきれるようなものではない。
武器を扱うためにはひたすらに体をいじめ抜いてようやく武器を扱える土台ができあがる。それすらまだスタートラインではなくて、そこまで来てようやく武器の扱いを体にたたき込む。その間にも肉体は衰えていくのだから、極めたころには肉体のほうが衰えているという残念なことになってしまう。
魔法の国的にはそれらは非効率とされてきた。
そんな事をしているならば、ひとつでも多く知識を詰め込め。とされてきた。
知識と肉体。どちらも生きていくには必須でそこに優劣なんてないと思うんだけれど。
魔法に体術。互いに認めようとはしない。自分のほうが優れていると信じている。
果たしてどちらがより必要となるかはわからない。優劣があるかはわからない。
だからぼくは知りたくなったのだ。
それがぼくが単身で、武人が支配する武器の国まできた理由。
武器のみで強国といわれるまで成り上がったこの国の武人は間違いなく世界の上澄みだ。
ぼくの探究心を試すにはもってこいだ。
もしかしたら圧倒的な力でぼくは殺されてしまうかもしれない。
でもそれでもいいかな、と思う。
魔法の国でぼくと手合わせしてくれるヒトはだれもいなくなってしまった。
ぼくは自分が産み出した魔法がどれだけ通用するか試したいのだ。同じ魔法使いはもちろん、武人にも通用するか試したいのだ。
「はぁ……」
かつて武器の国を治めていた武神と呼ばれていた王が鎮座していた玉座に座って思わずため息をついた。
つまらなくはなかった。
ちょっと苦戦もした。
でも命の危機を感じたかと言えばそんなことはなく。
正直言えば拍子抜けしてしまっていた。
研鑽を重ねた武道がぼくの喉元を食い破る妄想をしたものだが、現実はそんなことはなく。
「こんなもんかぁ」
あたりにはいくつもの死体が転がっている。
最初は侮られて、途中から個ではなく群で押し寄せて、途中から練度ある陣になり、最期には一騎当千の個が襲いかかってきたのだけど。
やっぱり足りなかった。ぼくにはとどかなかった。
魔法使いは接近戦に弱い。その認識は間違ってない。だからこの国の人達もひたすらに距離を詰めようといたけれど、ついぞその距離を潰せるものは現れなかった。
別に特別対策したとかは無い。近づかれる前にひたすら撃ち落とすだけ。
いつもの早撃ちで目に入ったすべてを打ち据えるだけ。
「はぁ。ぼくのこの愚かな戦法を打ち破る誰かは現れないものかなぁ?」
当然返答はない。
みんな死んでいる。
命を賭けた暇つぶしではあるが、今日も生き残ってしまった。
はぁ退屈だ。
2 とある武人の視点。
「止まれ。ここをどこだと心得ている? 世界の知の集約点であるぞ。
貴様のようなみすぼらしいものが踏み入れて良い場所ではない。去ね」
ここが魔法使いの最高峰。知識の坩堝であることは知っている。
皆知識を貪り、日々新しい魔法を産み出し、発展し続けていると知っている。
何でも根源とよばれるゼロに至るためだとか。俺の国で言うところの無我の境地という概念だろうか?
この国の魔法使いはいずれも戦場を蹂躙できる猛者だと知っている。
知っているとも、だからここまで来たのだ。
腰に差した剣を抜き放つ。
「なんだ貴様!!! それは我らに対する宣戦布告と捉えるぞ。武器などいう非効率で野蛮の極みが我らの知識に届くことは一切無いと絶望しながら死ぬがよい」
敵対した魔法使いは四人。王城の門番を任されるくらいなので腕利きであることは間違いないだろう。
魔法使いは接近戦に弱い。我らの共通認識だ。
だけどそんなわかりやすい弱点をいつまでもぶら下げているとはとても思えないからなにかしろの対策があることは容易に想像できた。
「真っ直ぐ、参る!!!」
だからこそ、俺はそれを真正面から打ち破りたい。
姿勢を低く。宣言の通り真っ直ぐ魔法使い共に突撃する。
さぁ賢人共よ、どうか俺の無教養を後悔させてくれ。
世界は広いと俺の命をもって証明してくれ。
「はぁ、想像の域を超えてくる傑物はついぞいなかったな」
1対複数。近距離からつるべ打ち、遠くから狙撃、果ては天空から巨大な隕石を落としてくるという範囲攻撃。
びっくり人間ショーとしては一流かもしれないが、剣しか持たず一直線をかけるだけの俺を殺せなかった時点で実用性に疑問符を付けざるをえない。
魔法というものになにが足りないのかはわからない、別にご高説たれる気も無い。
「ただ事実として、俺には届かなかった」
3
武人の国を壊滅状態にした魔法使い。
魔法の国を崩壊させた武人。
今日も互いは己の研鑽を打ち破られることなく自国へと戻り、驚愕することになる。
両祖国が滅亡していたのだから無理もない。
かつての栄華の残滓がまだ残る中いくつもの死体を眺めて、両者に到来する思いは復讐心ではなく、これをやったまだ見ぬ猛者への憧憬だった。
あと少し国に留まっていればこれほどの強者と相まみえられたというのに何というタイミングの悪さだ。
ついてないにも程がある。
そして強者二人は帰ってきて早々にまた旅に出る。
目的はもちろんこれをやった強者と戦うこと。
「さあ、俄然人生に彩りが出てきたぞ、ヤッホーイ!!!」
両者は帰ってきたときの失望の重い足取りなどもう忘れてルンルン気分で再び旅に出るのだった。