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UFO 沖ノ鳥島に着陸

掲載日:2026/02/22

「艦長、陸地に建造物を発見しました」


 宇宙船の隊員が艦長に呼びかける。

 艦長はややうんざりした様子で報告してきた隊員に水を向ける。


「建造物の規模は?」


「直径50m前後の円形の建造物が二つです。どれも石材を主としているようです」


 艦長はその報告に意外そうな顔をする。


「それだけか?」


「はい。残骸らしきものすら見当たりません」


 自分たちの任務はその星にかつて生息していた知的生命体の生態に関する調査。しかし、たかが50m前後の建造物二つで何が分かると言うのか。着陸するのだって一苦労なのだ。


「調査は不要だ。このまま通過する」


 早々に調査を諦めて次へ行こうとする。しかし、そうはいかなかった。


「何を言うのかね艦長。この星にかつて生息していた知的生命体の残した建造物だぞ。一つ残らず調査するのだ」


 同乗していた博士が待ったをかける。

 我々は今回の調査において、この考古学者をサポートするよう命じられている。いわばこの隊の隊長なわけだが正直乗り気にはなれない。


「お言葉ですが博士、第二次調査で発見された建造物群が先です。予定通りこのまま北上します」


「我々は調査隊に所属しているわけではない。あくまで今回の調査に同行させてもらっただけだ。連中に協力する義務はない。あの遺跡に行かないことを連絡だけしておけばよかろう」


 そうだ。この男は今回の第四次調査に参加していない。何なら学会においても爪弾きにされている。

 そんな彼がこの今回の調査に同行している理由は親のコネだろう。このボンボンめ

 それ自体はいい。だが、調査そのものを邪魔をされるのはたまったものではない。


「調査するにしてもあの建造物は規模が小さすぎます。大した発見も期待できません。そもそも我々は計画外の調査を想定していません。長居は無用です」


「遺跡についたら私は自由に動けなくなる。名目上は見学者だからな」


 当たり前だ。いくら親のコネがあるとは言え、お前のようなボンクラを調査に参加させるわけがない。

 遺跡に着いたら隅の方で大人しくしていてもらう。お前のような三流、ここに来れただけでもありがたく思え。

 サポートとは言ったが、要するに我々の仕事はコイツのお目付け役だ。


「だが、ここであれば私が何をしようとも調査に支障をきたすことはない。つまりここであれば私は私の好きなように調査することができる」


 なるほど、そういうことか。なんとも小賢しい。

 確かに調査隊と物理的に距離を置くことで調査の邪魔をさせないというのも一つの手だろう。

 だがこの三流に好きなように調査させてせっかくの歴史的建造物の価値を損なわせるようなことは避けたい。

 さっきは調査の必要はないと言ったが、それはあくまで優先順位に基づいた話。この建造物が考古学的に無価値なわけではない。


「先程も言いましたが、我々は計画外の調査を想定していません。そしてこの隊の任務はあなたのサポート。つまり、この船に大した調査器具はありませんよ」


「かまわんとも。どうせむこうに行ったところで何もできん。ならばここを調査していた方が時間を有効的に使える」


 艦長と博士の応酬は30分に渡って続いた。最終的に折れたのは艦長の方であった。


「……やれやれ。降下準備だ」


 艦長は深いため息をつき、操縦士に指示を出した。博士の身勝手な主張に屈した形にはなるが、下手に遺跡の本調査に合流して引っ掻き回されるよりは、この「何もない」場所で暇を潰させる方が被害は少ないと判断したのだ。


「本体への連絡は私がやっておく。君たちは調査準備にかかれ」


 仏頂面で指示を飛ばす艦長はその実、高揚していた。

 ボンボン博士に乗せられてというのは多少癪ではあるが、彼も考古学隊の一員である。遺跡の調査に楽しみを覚えないはずがない。


(すでに滅びた知的生命体たちは、我々に一体何を見せてくれるだろうか)


 宇宙船はゆっくりと高度を下げ、乾いた大地へと着陸した。

 ハッチが開くと、そこには見渡す限りの荒野が広がっていた。かつてここが豊かな水を湛えた「海」であったことなど、今の乾燥した大気からは想像もつかない。


 一行が船の外へ足を踏み出すと、目の前にその「奇妙」な建造物が姿を現した。

 それは、直径五十メートルほどの円形のコンクリート壁が、広大な平原の中にぽつんと二つ、等間隔で並んでいる姿だった。周囲には居住跡も、道路も、通信塔の残骸すら存在しない。ただ、剥き出しの地表に不自然な円を描いているだけだ。


「……これは、不可解ですね」

 先ほどまで冷ややかだった副官が、思わず呟いた。

「防壁にしては守るべき対象が内側にありません。観測施設にしては構造が単純すぎる。合理性を追求する知的生命体の設計としては、あまりに孤立しすぎています」


 博士は興奮した様子で、地面に這いつくばって土壌をスキャンし始めた。

「合理性、か。それは君たちの狭い物差しだよ。合理を超えたところにこそ、文明の真髄はある。見ろ、この足元の地質を!」


 博士が持っていた小型端末を艦長に突きつける。表示された解析データには、地層の大部分が「ある種の生物の死骸」の集積であることが示されていた。


「これほど広大な範囲が、同一種の小型生物の骨格で形成されている。地球型炭素生物……いわゆる『サンゴ』と呼ばれる群体の死骸だ。つまり、この建造物は巨大な生物の墓標の上に建っているということになる」


「生物の墓場に、二つの円形の石造物……」

 艦長は眉をひそめた。その光景を脳内で補完すると、一つの仮説が浮かび上がる。


「宗教的意味合い、ですか」


「その通りだ、艦長。この巨大な死骸の山を彼らが『神』あるいは『精霊』と見なしていたとしたら? しかし、データによればこの建造物が造られた時、すでにこの生物たちは死に絶え、化石化が始まっていた。つまり、彼らはこの死せる巨神を崇めるために、わざわざこの不便な地に足を運んだのだ」


 博士の推論は止まらない。

「おそらく、かつての知的生命体にとって、この地は恐るべき聖域だったのだろう。彼らがこの巨大生物を打ち倒した勇者たちの末裔だった可能性もある。戦い、殺した相手の御霊を鎮めるための、巨大な慰霊碑……レクイエムの場だ」


 その時、慎重派として知られる分析官が、古い地質データを掘り起こしながら口を挟んだ。

「博士、少しお待ちを。このエリアの高度記録を遡ると、建造当時はここが海面ギリギリの高さであったことが分かります。潮の満ち引きによって、陸地になったり水没したりを繰り返す、不安定な場所だったようです」


「潮の満ち引き……塩分が濃縮される場所か」

 隊員の一人が呟いた。

「となると、この円形の壁は、海水を閉じ込めて塩を抽出するための施設――塩田を模した儀式場だったのではないか? ここに祀られているのは、生命の源である『塩の神』だ」


「飛躍しすぎだぞ」

 艦長は窘めたが、調査隊の空気は一変していた。何もないと思われた場所に、かつての生命の熱狂や祈りの気配が漂い始めたからだ。


「艦長、ドローンが採取したサンプルの復元映像が届きました。この死骸――サンゴの生前の姿です」


 ホログラムが空間に展開された。

 そこに映し出されたのは、原色の赤、青、黄色が混じり合い、触手が花のように揺らめく、目が眩むほど鮮やかで複雑な造形美を持つ生物の姿だった。


「……美しい」

 誰かが息を呑んだ。

 無機質な宇宙を旅する彼らにとって、その過剰なまでの色彩は、それだけで「神性」を感じさせるに十分なものだった。


「これほどまでに美しい生物が大地を埋め尽くしていたのなら、当時の生命体がそこに神秘を見出し、宗教施設を建てるのも無理はない。この二つの円は、天と地、あるいは生と死を繋ぐ門だったのかもしれないな」


 博士は満足げに鼻を鳴らし、再び端末を握りしめた。

「どうだ、艦長。この星の連中は、ただ食べて寝るだけの存在ではなかったようだ。彼らには『祈り』があった。これこそが、我々が探求すべき文明の残り香だよ」


 艦長は、荒野に佇む二つの護岸跡を見つめた。

 ただの浸食防止のためのコンクリート塊は、今や宇宙人たちの目には、失われた文明の深い哀しみと祈りが込められた聖なる神殿として映っていた。


「……予定を変更する。このエリアの徹底調査を開始せよ。宗教を持つ生命体の文化か。これは、存外に面白い報告書が書けそうだ」


 艦長の言葉に、調査員たちは活気づいた。

 人類が消え去り、その本来の目的が忘れ去られた「沖ノ鳥島」の跡地で、異星の考古学者たちは新たな「神話」の断片を拾い集めるべく、熱心に土を掘り起こし始めるのだった。

沖ノ鳥島のような政治色の強い建物って側から見たら滑稽なんだろうなと思って書いた作品です。

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