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45.決戦の夜

日没を迎え、水辺の公園は深く濃い闇に包まれた。水面は鏡のように静まり返り、澄んだ水に星空が映り込んでいる。空気は湿気を帯び、ステルスが透明化能力を最大限に発揮できる、最高の環境となっていた。

アスクとアズインは、ステルスが最も頻繁に姿を現す池の一角で身を潜めていた。

「アズイン、準備はいいか。お前の索敵が、すべてを決める」アスクは静かに言った。

「はい、アスク様。ステルスは、この一週間、毎日この時間帯に現れています。必ず捕捉します」アズインは緊張しながらも、固く決意した顔で応じた。

アズインの肩には、キューちゃんが待機している。キューちゃんの異質な目が、透明化されたフクロウの『霊気の残光』を捉えるための最後の切り札だ。


沈黙が続く中、アズインが静かに囁いた。

「来ました、アスク様。池の中央やや左、水が不自然に揺れ始めました。カモたちの言っていた通りです」

アスクは魔力を集中し、その特定の水域のわずかな水流の変化に意識を合わせた。彼の水魔法のレベルは、今や中級の終盤。一週間前とは集中力と精度が全く違う。

その時、キューちゃんが「キュゥ!」と短く鳴いた。

「キューちゃんが、何かを捉えました!」アズインが続く。

アスクは、キューちゃんの指示と、水面の動きが一致する一点に照準を定めた。目には見えない。だが、そこには空気の微細な歪みがあり、水がわずかに持ち上げられている。ステルスが水面に近づき、獲物を狙う姿勢に入ったのだ。

(これが、透明なフクロウの姿か……!)


アスクは、手のひらに集中させた魔力の塊を、狙った一点に押し潰すように放出した。

「今だ!」

ステルスは、澄んだ水の中にいる魚を狙って、その鉤爪のある足を水面下に伸ばした。

そのコンマ数秒の瞬間—

ズバッ!!

アスクの魔法は、フクロウの精霊獣の足が水に触れたわずかな部分だけを、周囲の水を一切乱すことなく、透明な氷へと変えた。

フクロウは驚愕と苦痛の鳴き声を上げようとしたが、口を開く前に、その鉤爪の足が、水面に垂直に伸びた氷の杭によって、水面下で完璧に固定されていた。

それは、まるで工芸品のように美しい、一点集中の氷の鎖だった。


ステルスは透明化を維持したまま、必死に羽ばたこうとする。しかし、片足が氷で固定され、バランスを崩した。

「アズイン! 捕まえろ!」

アズインはすぐに大きな網を持って氷の杭に駆け寄り、透明なフクロウがもがく空気の歪みを追って、正確に網を被せた。

バサッ!

網が被せられた瞬間、フクロウの透明化が解けた。現れたのは、淡い水色の羽根を持つ、美しいフクロウ型の精霊獣だった。

「やりました、アスク様! 生け捕り成功です!」アズインは網の口を固く縛りながら、歓喜の声を上げた。

アスクは魔力を解除し、フクロウの足首を固定していた氷が、チリチリと音を立てて水に戻っていくのを見届けた。

「ああ……これで、大銀貨50枚と名声150だ」

アスクは、自らの努力と理論が、この異世界で通用することを証明した瞬間に、深い満足感を覚えた。


アスクは、網に包まれたステルスと、誇らしげなアズインとキューちゃんを見た。

(これで、Fランク冒険者の壁を一つ越えた。この名声150は、5,000名声への道のりの最初の一歩にすぎない。ここからが本番だ)

アスクは、確かな手応えを感じながら、ギルドへ向かう道すがら、次の戦略を立て始めていた。



■■■ギルドへの帰還■■■

一週間のキャンプ生活と激闘を経て、アスクとアズインは水辺の公園から乗り合い馬車で町に戻った。アスクのアイテムボックスの中には、生け捕りに成功したフクロウ精霊獣「ステルス」が収められている。

町のギルド本部に戻ると、アスクは受付のカウンターへと向かった。

「依頼番号C-096、フクロウ精霊獣『ステルス』の捕獲。完了報告に来ました」アスクは冷静に依頼書を提示した。

受付嬢は、アスクがFランクであることを確認し、少し驚いた表情を浮かべた。

「えっ、あ、はい。精霊獣の捕獲ですね。依頼主のザント様にお繋ぎしますので、少々お待ちください」


しばらくすると、奥から老魔法使いザントが現れた。ザントは、前回同様、まずアスクを無視してアズインに目を向けた。その視線には、前回よりも増した期待と興奮が滲み出ている。

「おお、アズインちゃん! 無事だったか! 心配で夜も眠れなかったぞ! 怪我はないかね? どこか痛いところはないか、全身くまなくチェックさせておくれ」

ザントは相変わらずスケベな言動を繰り広げ、アズインは警戒してアスクの影に隠れた。

アスクは苛立ちを抑え、冷たく言った。「ステルスは捕獲しました。確認をお願いします」

アスクがアイテムボックスから静かにステルスを解放すると、水色の羽根を持つフクロウ精霊獣は、大人しく網に包まれたままザントの前に現れた。

ザントは満足げに頷き、依頼書にサインをした。

「うむ、確かにわしのステルスじゃ。君たち、よくやった。特にアズインちゃん! 君がいなければ、このクエストは失敗だった!」

アスクは眉をひそめた。「どういう意味ですか?」

ザントはニヤリと笑い、アスクにだけ聞こえるよう小さな声で囁いた。

「実はな、この『ステルス』、わしが一人で捕まえようとしても、決して罠にかからんことがわかったんじゃ」

「……なぜですか」

「フクロウは『孤独の精霊』だ。だが、このステルスは特別でな。『若い女性』の持つ魔力や気配に極端に引き寄せられ、同時に警戒心を緩めるという特性がある。『若い女性』が近くにいないと、どんな高度な罠も感知して逃げてしまう」

ザントは再びアズインをエッチな目でちらりと見やった。

「だからわしは、若い女性をパーティに持つ冒険者が来るまで待っていたんじゃよ。君の冷静な作戦と、アズインちゃんの魅力的な魔力がなければ、わしの愛しいステルスは戻らなかった。ハッハッハ!」

アスクは、ザントのスケベな思惑が、そのままクエスト成功の裏条件になっていたことを理解し、思わず深い溜息をついた。

(くそっ、この爺め……。まさか、『若い女性の同行』がこのクエストの真の必須条件だったとは。完全にザントの趣味が、攻略のセオリーに組み込まれていた!)


アスクは、ザントの思惑を無視して、報酬を受け取ることに集中した。

「裏条件の開示は不要です。報酬を」

「まあまあ、そう邪険にするでない」ザントは笑い、ギルドの受付嬢に報酬を渡すよう指示した。

* 基本報酬: 大銀貨50枚

* 名声ポイント: 150ポイント

受付嬢がギルドカードを受け取り、ポイントを更新した。

「アスク様、名声ポイント150が加算されました。ご依頼完了おめでとうございます!」

アスクはギルドカードを静かに確認した。彼の名声ポイントは150。Dランク(5,000名声)へ向けた、確かな最初の一歩だ。

アズインはザントから離れるようにアスクの隣に立ち、笑顔で言った。「銀貨50枚です! これで少しは豊かな生活ができますね、アスク様!」

「ああ。これが、次のステップへの軍資金だ」


アスクが報酬の受け取りに集中しようとした時、ザントは急に真面目な表情に戻り、アスクの顔をじっと見据えた。その瞳には、老獪な魔法使いの深みが宿っていた。

「待て、若いの。君に一つ、提案がある」

アスクは警戒した。「提案? 報酬以外に何を要求するつもりですか」

「ふむ。君、水魔法の使い手じゃろう? 腕はなかなかじゃが、まだ上級の域を出ておらん。しかし、あの一点氷結を一週間で完成させたのは、ワシの若かりし頃を思い出すわい」

ザントは静かに語り始めた。

「わしはな、昔はA級冒険者として名を馳せていたんじゃよ。そして、専門は君と同じ水魔法じゃ」

アスクとアズインは驚き、目を見張った。このスケベでコミカルな老人が、あのA級だというのか。

「君の今の水魔法は、水と氷を操る段階じゃな。基礎は完璧じゃ。しかし、本物の上級魔法使いは、水の『相変化』を自在に操れる」

ザントは手をかざし、目の前の空間に一瞬で熱い湯気を発生させ、すぐにそれを透明な水滴へと戻した。

「どうじゃ? 水から『お湯』や『蒸気』を作り出す制御。これができれば、君の魔法は一気に上級に躍り出る。防御、攻撃、索敵、全てにおいて応用が効く」

ザントはニヤリと笑い、再びアズインに目を向けた。

「報酬の代わりに、ワシがその修行をつけてやろう。但し……修行中はアズインちゃんに、ワシの実験助手として側にいてもらうのが必須条件じゃがな。湯気で冷えた体を、温かいアズインちゃんの魔力で癒やすのじゃ!」

アズインはギョッとして身を引いた。アスクは拳を握りしめたが、すぐに頭を冷やした。

(元A級の水魔法使いの指導……!お湯や蒸気の制御は、攻略本にも載っていた水魔法の発展系だ。これはスキルレベルの急上昇に繋がる。スケベ爺の要求は腹立たしいが、これは逃す手はない、最高のチャンスだ!)


アスクは、葛藤の末、修行を受けることを決断した。

「修行を受けましょう。ただし、アズインに不必要な接触があれば、その場で凍らせます」アスクは冷たい視線でザントを威嚇した。

「ハッハッハ! 怖い怖い! ワシは真面目な老学者じゃよ」ザントは笑い飛ばしたが、アスクの真剣さに少しだけ怯んだようだった。

受付嬢から大銀貨50枚と名声150ポイントを受け取ったアスクは、次の行動を決定した。

「アズイン、悪いが少し我慢してくれ。この修行は、Sランクへ向かう上で最も効率的な強化になる」

「アスク様がそうおっしゃるなら、頑張ります」アズインは、少し不満そうながらも、アスクの判断に従った。

アスクは元A級魔法使いザントの指導のもと、水魔法の新たな段階へと進むことになる。


ep.38→ep.45

【ステータスウィンドウ】

アスク

LV:45(ステータスポイント残+12)

AP:0/200(次のLVまで残り1700)

HP:240/320

MP:100/240

SP:90/90

スキル:

- 短剣・中級、

- 水魔法・中級、

- 探知・中級、

- 潜伏・中級、

- 鑑定・中級、

-アイテムボックス・中級

-エンチャント・中級

-インキュベーター・上級

AV:筋力110、体力110、敏捷110、器用70、知力120、精神120

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