44. 水辺の公園
えええ!
土曜日にまさかの緊急出動!?(゜Д゜;)
でも、ピンチをチャンスに変えるとはこのこと!
休日出勤の憂鬱を吹き飛ばすかのように、
筆がノリノリで3日連続投稿達成とは、
まさに「怪我の功名」ですね!⭐︎
翌朝。アスクとアズインは、宿をチェックアウトし、町の馬車乗り場へと向かった。アスクの持つアイテムボックスにキャンプ用具や食料は全て収納されているため、二人の手元にあるのは身軽なバックパックだけだった。
「水辺の公園までは、この町の『シャトル馬車』が便利だそうだ。町の外れにある場所だが、釣り客やハイカーのために運行しているらしい」
「馬車ですか。町の外まで歩くより、随分と楽ができますね」アズインは、文明の利便性に感謝するように言った。
彼らが乗り込んだのは、数人がけの簡素な乗り合い馬車だった。御者台に座る逞しい御者が「公園行き、出るぞ!」と声を上げると、馬車はガタゴトと音を立てて町を出発した。
馬車が郊外へ出るにつれて、景色は急速に変化した。まず見えてきたのは、この地域を潤すシェル川の雄大な流れだった。川沿いには、町の食を支える広大な水田が広がり、稲刈りは終わり、休閑期になっているようだ。
その水田に混じって、前夜に食べた里芋の畑が点在している。
「この豊かな土地だから、あんなに美味しい里芋が育つんですね」アズインは窓の外の景色に見入った。
アスクは周囲の環境を観察した。(大砂漠の噂は昨夜聞いたが、ここからは見えない。領地の中心部から遥か南西にあるのだろう。代わりに、これほど豊かな水資源がある。水魔法の修行には最適だ)
馬車が里芋畑の脇を通る際、そこで働く農民たちが馬車に気づき、朗らかに手を振ってくるのが見えた。アズインも笑顔で手を振り返した。
「この町の人たちは温かいですね」アズインは言った。
「ああ。平和な暮らしがある。その平和を守るのも、冒険者の仕事の一つだ」アスクは静かに頷いた。
約一時間、馬車に揺られた後、「水辺の公園」の入口を示す簡素な看板の前で馬車は停まった。
馬車を降りると、町中の喧騒とは打って変わって、冷たい水と土、そして草木の匂いが鼻をくすぐった。
公園というよりは、小さな森と池が一体化した自然保護区の様相を呈している。
公園の中心には、大きな池が三つあり、周囲は水気を好む植物が茂り、微かな霧が立ち込めていた。
「すごい水です」アズインは池の水面を覗き込んだ。池の水は驚くほど澄んでおり、底には小石や水草、そして豊富な魚影が見える。
「水が澄んでいるので、この公園は釣りを楽しむ人々で賑わうらしい。だが、今はステルスが暴れて釣り客もいないようだ」アスクは言った。
ザントの言った通り、透明化能力を使う精霊獣にとっては最高の隠れ場所だ。そして、食料となる魚が豊富にあることも、ステルスがここに留まる大きな理由だろう。
「ここが、ステルスが隠れている場所ですね。確かに、湿気が多くて、どこにいてもおかしくない雰囲気です」アズインは周囲の気配を探りながら言った。
「ああ。人間の目には、ただの森と水辺だ。だが、その『ただの』中に、大銀貨50枚と名声150が隠れている」
アスクは周囲の空間を観察した。彼は水魔法の使い手として、周囲の水の流れや湿度の変化を敏感に感じ取ろうとするが、広大な公園の中で微細な空気の歪みを見つけるのは困難だった。
アスクは、手のひらに乗せたキューちゃんを、アズインの肩に移動させた。
「始めるぞ、アズイン。まずは、この公園にいる情報源を探せ。普通のフクロウや小動物でいい。そして、キューちゃんは、空からの監視役だ」
アズインは深く頷くと、そっと目を閉じ、耳を澄ませた。
「キュゥ」と鳴いたキューちゃんは、肩から飛び立つと、公園の木々の上空へと舞い上がった。その精霊獣特有の異質な視覚が、透明化という『霊気の残光』を捉えることを期待しての行動だ。
アズインは獣人族の能力を発動させた。意識を集中させると、周囲の動物たちの微かなささやきが、頭の中に流れ込んでくる。
(どこか……何か奇妙なものを見た動物はいないか……?)
まず、池の畔で休憩していたカモたちに話しかけた。
『カモよ。昨日からこの水辺で、何か変わったものを見たか? 透明な何か、気配のない何かだ』
カモたちは水面を眺めながら、答えを返した。
『変わった? 見えないが、水が震えるのを感じる。夜になると、水が不自然に揺れて、魚が騒ぐ』
次に、樹上を飛び交うスズメたちに尋ねる。
『見えない鳥? そんなもの、気味悪いだけだ! でも、時々、空気がモヤッとしている場所がある。そこには、羽音のようなものが……』
アズインは目を開け、アスクに情報を伝えた。「アスク様。やはり人間には見えなくても、動物たちは異変を感じています」
「何が分かった?」
「カモは『水が不自然に揺れる』と。スズメは『空気がモヤッとして、羽音のようなものがする』と証言しています。つまり、透明化が破綻する瞬間、あるいは水との接触が、ステルスの居場所を知らせる鍵です」
アスクは顎に手を当て、即座に思考を組み立てた。
(ザントの情報と一致する。水に執着し、水辺で透明化が強力になるが、接触時に水面に波紋が走る。これは物理法則だ。そして、空気の歪みはキューちゃんが探すべき霊気の残光に他ならない)
アスクはキューちゃんが飛び去った方向を見上げた。
「よし、作戦を修正する。アズインは、キューちゃんに『空気がモヤッとした場所』を探すよう指示し続けろ。オレは……」
アスクは池のほとりに立ち、手のひらを水面にかざした。
「……透明化は水辺で強力になるが、水自体が動けば、その接触面で必ず波紋が生まれる。ステルスは水に執着している。水辺から離れることはない」
アスクの計画は、「ステルスを追い詰めるだけではダメだ。生け捕りが条件だ。透明なフクロウを網で捕らえるのは、ほぼ不可能だろう。最も確実なのは、ステルスが獲物を捕らえる瞬間を狙うことだ」
アスクは池の澄んだ水面を見つめた。
「フクロウは池の魚を狙っている。奴が水面に近づき、魚を掴むために足を出した、その瞬間を狙う」
アスクは魔力を集中させたが、頭の中で演算が追いつかない。
(透明な獲物の居場所を正確に特定し、魔力を水面下の一点に集中させ、対象の足だけを瞬間的に氷漬けにする……。しかも、フクロウの精霊獣の素早さを考えると、この魔法はコンマ数秒以内に完了させる必要がある)
アスクは、ザントから情報を得たその日の夜から、さっそく捕獲作戦を決行した。
アズインが事前に仕入れた情報に基づき、ステルスが現れる池の特定の一角で待ち伏せをした。キューちゃんは上空で待機している。
そして、夜半。キューちゃんの指示とアズインの集中した索敵により、空気の微細な歪みが水面近くに現れた。ステルスだ。
アスクは魔力を集中し、軽い詠唱をした。
「今だ!」
ステルスが水面に足を伸ばした瞬間、アスクは魔法を放った。
しかし、結果は失敗に終わった。
パシャ!
アスクの魔力は、フクロウの足を捉える前に広範囲の水面を凍らせてしまい、大きな音を立ててステルスを驚かせた。透明なフクロウはすぐに飛び立ち、夜の闇に消えた。
(駄目だ! 魔力の発動速度と、一点への集中度が致命的に低い。水魔法がもっと洗練されていれば、目標の足だけを正確に凍らせることはできたはずだ!)
アスクは、自身の水魔法の能力と、自分が思い描いている能力との間の大きなギャップに直面した。
その日から、アスクとアズインは公園でのキャンプ生活へと移行した。宿に戻らず、ここで修行を兼ねて粘るのが最も効率的だとアスクは判断した。
アスクの毎日は、水魔法の精度を高める修行に費やされた。
• 訓練目標: 水面のわずか数センチ四方だけを、周囲に影響を与えずに瞬時に凍らせる。
• アスクの思考: (これは単なる魔力操作ではない。ゲームの『無詠唱』の概念に近い。発動までの時間をゼロにするために、魔力回路を最適化する必要がある)
アスクは来る日も来る日も、池の水を使い続けた。失敗するたびに水面が揺れ、遠くでカモたちがうるさそうに鳴いた。その間、アズインとキューちゃんは、ステルスの警戒心が薄れるまで、周囲の偵察と食料調達、そしてアスクの体術訓練パートナーを務めた。
日が沈み、アスクが魔法の修練を終える頃、アズインは獲れたての魚を焚き火の周りで焼き上げていた。火の粉が夜空に舞い上がり、静かな水辺の公園に、香ばしい匂いが広がる。
アスクとアズインは、向かい合って火を囲んだ。
「お魚、焼けましたよ、アスク様。今日は大漁でした」アズインは串を差し出した。
「ああ、ありがとう。お前のおかげで、修行に集中できる」アスクは礼を言った。魚は外はカリッと、中はふっくらとして、最高の味だった。
アズインは、夜空を見上げながら、ポツリと言った。「ここには、本当にたくさんの星が見えますね。エコロアでは、こんな風には見えませんでした」
アスクも空を見上げた。異世界に来て以来、初めてゆったりと夜空を眺める時間だった。焚き火の暖かい光が、アズインの横顔を赤く照らしていた。
「この世界は、本当に美しいな」アスクは静かに言った。
「はい。アスク様とこうして火を囲んでいると、何だか……旅をしているんだな、と感じます」アズインは微笑んだ。
アスクは、ゲームの世界とは違う、現実の温かさのようなものを感じていた。それは、隣にいるアズインの存在と、静かに流れる時間のおかげだろう。
「この旅は、Sランクに到達するまで終わらない。その間に、お前の故郷への道があるはずだ。だから、安心してくれ。オレが必ず、お前を故郷に連れていく」
「はい。信じています、アスク様」
静かに燃える焚き火、澄んだ水音、そして無数の星々。過酷な修練の中でも、二人の間には確かな信頼と絆が育まれていった。
そして、一週間後。
アスクは池のほとりに立ち、再び水面にかざした手で魔法を行使した。
ズバッ
水面のたった一箇所、アスクが狙った場所の僅か10cm四方が、周囲の水を一切乱すことなく、完全に透明な氷へと変化した。
「よし。成功だ」
アスクの魔力制御は中級の中盤レベルを超え、一週間の苦労は、彼を着実に冒険者のランクアップへと近づけた。
「おめでとうございます、アスク様!これで捕まえられますね」アズインは安堵と喜びを露わにした。
「ああ。そして、お前が集めた情報によると、ステルスは今夜、この時間帯が最も活動的になる」アスクは夜の闇が迫る池を見た。
「一週間の努力を無駄にするな。今夜が、決行の時だ」




