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41.スカラーズ・レスト

みかんを食べ終え、再び歩き始めたアスクは、関所兵から教えられた情報に従い、最初の町スカラーズ・レストへ向けて南へと進路を取った。

アスクは、立ち止まらずに周囲の景色を観察しながら、ポート・マーリスまでの道のりをアズインに説明した。彼の手には地図はないが、その目は、膨大なデータから必要な情報を引き出すプレイヤーのように鋭い。


「ポート・マーリスは、ここから約50キロ先の港湾都市だ。関所兵の話と、道標どうひょうから読み取った情報によると、街道沿いにはほぼ10キロ間隔で町がある」

アスクは街道沿いを歩きながら、頭の中で空間的な情報を処理している。

「今日中に最初の町、スカラーズ・レストへ行き、そこで宿を取る。追跡を警戒しつつ、安定して移動するのが最優先だが、オレたちの資金も尽きてきている」

アスクは表情を引き締めた。

「ポート・マーリスまでの道のりを利用して、各地の町の様子を楽しみながら、冒険者として旅費を稼ぎ、Sランクへの足がかりを作る。これが当面の戦略だ」

「わかりました、アスク様。」アズインは、アスクが具体的な地図もないのに、正確な距離と戦略を語ることに、改めてその非凡な能力を感じていた。


そこから約二時間、二人は最初の目的地である小さな町、スカラーズ・レストへと辿り着いた。町は活気に満ちている。アスクはまず宿屋を見つけ、少々高いが安全そうな二階の部屋を借りた。

荷物を置き、一息ついた後、アスクはアズインに言った。


「アズイン、オレは情報収集に行く。お前は少し休んでいろ。キューちゃんの世話も頼む」

「私も一緒に行きます、アスク様。疲れはもう大丈夫です」

アスクは一瞬考え、頷いた。

「わかった。ただし、目立つなよ。この領地の文化、政治、そして裏の情報を得るには、聖堂図書館が一番早い」

(『オレ』の知識では、聖堂は情報の中心地だ。まず、世界の法則を知る必要がある)


二人は町を歩き、厳かな石造りの聖堂図書館へと入った。司書への挨拶を終えると、アスクは、迷わずウェストゲート領の歴史と文化に関する文献が並ぶ棚へと向かった。分厚い書物を手にとり、ページをめくり始めた瞬間、彼は違和感を覚えた。

(速い...)

文字を追う視線の速度も、それを理解し記憶に定着させる頭の働きも、元の世界でゲームの攻略本を読み込んでいた時の何倍も優れている感覚があった。

「九尾の狐に力を与えられた時、頭脳系の能力も強化されたのか...」

アスクは無言で、その驚くべき能力を最大限に活用し、数冊の分厚い書物を短時間で読み進めていく。

「…やはりな」

数十分後、アスクは一冊の古文書を指差した。そこには、この領地の街道沿いの町々に、水の精霊と信仰を繋ぐ『神碑』が祀られていることが記されていた。

「水神の加護を求める旅人は、町の中心にある神碑に魔力を捧げ、神の寵愛を得るべし」

古文書にはそう記されている。

「見つけたぞ、アズイン。この領地が水神の信仰が篤いことは分かっていたが、こういう『隠し要素』があったとはな」アスクは目を輝かせた。これは単なる信仰ではなく、アスクにとっての経験値ボーナスだ。

「この町にも、当然その神碑がある。聖堂図書館の西側の川沿いにあるはずだ」


「アズイン、散策に行くぞ。この町の『水神碑』を探す」

「水神碑、ですか?」

「ああ。このウェストゲート領は水と精霊の信仰が篤い。街道沿いの主要な町には、必ず水の精霊を祀る『神碑』があるはずだ。九尾の狐に力を与えられた『オレ』の魔力は、この世界の信仰と深く結びついているようだ。試してみる価値はある」

二人は町を出て、東側の川沿いまで歩いて行く。清らかな水が流れる大きな川沿いの傍に、苔むした石碑を見つけた。石碑には、水滴を象った紋様が刻まれている。これこそが、彼が探していた水神碑だった。


アスクは神碑の前に進み出た。彼は、心の中で、「オレ」が元いた世界での知識を呼び起こした。

(これは、神話や信仰のオブジェクトを通じて、初期能力の経験値を稼ぐタイプの安定した成長ルートだ)

彼は恭しく一礼すると、石碑の前に両手をかざし、静かに魔力を流し始めた。

水神碑は、アスクの異質な魔力に即座に反応した。石碑の表面に刻まれた紋様が青白く発光し、その光がアスクの身体を包み込む。

アスクの脳裏に、かつて夢の中で九尾の狐から与えられた膨大なデータの一部がフラッシュバックした。

『水魔法:経験値 +100』

アスクは静かに手を下ろした。全身を包んでいた疲労が消え、体内の魔力循環がわずかに強化された確かな感覚があった。

「成功だ、アズイン。この神碑は、オレの力を確実に高めてくれる。ポート・マーリスまでの道中、全ての神碑を巡るぞ」

アスクの顔には、難攻不落のクエストを攻略するゲームの達人のような、冷徹で確信に満ちた笑みが浮かんでいた。彼は、Sランク冒険者となるための最初の「経験値稼ぎ」のサイクルに入ったのだ。


「さて、レベル上げは済んだ。次は、資金と名声、そしてこの町の情報を得るための、ギルドでの仕事だ」

二人は神碑を背にし、町一番の賑わいを見せる冒険者ギルドへと向かった。

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