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35.封鎖

アスクとアズインは、ウェスト・ゲート領へと続く山道に入る手前まで到達していた。アスクは、この世界の地理を知るアズインと共に、ウェスト・ゲート領へ向かう三つの主要なルートを確認していた。


「この三つの道筋のどれかを選ぶしかない。奴らは、ボクたちがどこへ向かうかまでは予測できても、この山中でどの道を選ぶかまでは読み切れていないはずだ」

アスクはそう断言し、最初のルートである整備された街道へと、慎重に近づいた。


アスクは街道から数十メートル離れた森の木陰に身を潜め、探知スキルを街道に向けて展開した。

彼の意識の内の空間に映し出されたのは、街道のカーブの先に、複数の「赤い粒状の光」が微かに点滅している光景だった。その光は、アスクたちに明確な害をなす者の存在を示していた。

「駄目だ。ここにはすでに奴らがいる」

アスクはすぐさまアズインを連れて引き返した。


次にアスクが向かったのは、アズインが「レンジャーでも迷う」と警告していた険しい獣道だった。ここなら追跡者も配置しないだろうという、かすかな希望があった。

アスクは獣道の入り口で、探知スキルを深く展開する。

彼の意識に飛び込んできたのは、予想に反して、獣道の深い森の中に三つの「赤い粒状の光」が潜んでいる様子だった。光は、道の最も細い隘路あいろに集中している。

「くそっ、ここもか!」アスクは床を強く踏みつけた。

「奴らは、ボクたちが街道を避けた場合の第二の選択肢まで読み切っていた…。追跡者リーダーの予測能力は、ボクの想像を遥かに超えている」


アスクに残された最後のルートは、山を大きく迂回する遠回りな古い道だった。これだけ手間のかかる道なら、まさか警戒していないだろう。

最後の望みを託して、アスクがその道の入り口で探知スキルを深く探った瞬間、彼の全身から血の気が引いた。

その道にも、等間隔に複数の「赤い粒状の光」が分散して配置されていた。その待ち伏せの光景は、アスクに絶望的な確信を与えるには十分だった。

「…袋小路だ」アスクは喉の奥で呟いた。

「奴らは、三つのルートすべてを、部下に封鎖させている。ボクたちは、このエコロア領の山中で、完全に包囲された」

ウェスト・ゲート領へ逃げ込むという初期の計画は、追跡組織の組織力と予測能力によって、完全に崩壊した。アスクはもはや、この世界の定石や常識の外側に、活路を見出すしかなかった。

アスクは立ち上がり、アズインの手を握った。

「南西へ進むのは、自ら死を選ぶに等しい。ルートを変える。北へ向かう」


「北に?でも、その先は…」


「町を避け、さらに奥の山中にある『ラビの森』へ向かう。奴らが予測しない、最大の不可侵領域に逃げ込むんだ」

アズインは驚愕に目を見開いた。「ラビの森…!そこは精霊セリスが住まうと伝えられる場所よ。迷い込んだ人間が二度と戻らないという…」

アスクは短く頷いた。

「ああ。セリスは、ボクに水魔法を教えてくれた恩師だ。そして奴らがチャンドラさんの屋敷を狙ったのは、チャンドラさんの金品のためではない。奴らの目的は、君だ」

アスクは、過冷却の氷弾を放ったときのことを思い出した。相手はアズインを抱き上げようとしていた。

「奴らは、ボクたちの行動を予測し、この山脈を封鎖した。だが、精霊セリスの森は、奴らの予測の範疇外にある」

アスクは決意の瞳でアズインを見つめた。

「奴らが『馬鹿げている』と高をくくり、警戒していない唯一の場所だ。セリスに接触できれば、一旦身を隠せる。そして、奴らが君を狙う理由と、この組織の正体について、何か情報を得られるかもしれない」

アスクは、逃走に許された時間を冷静に算出した。

「ここからラビの森まではおよそ数時間の道のりだ。奴らが包囲網を固め直す前に、急ぐぞ。精霊セリスの元を目指す!」

二人の逃走は、アズインの誘拐という目的を持った組織的な追跡から、アスクの恩師が待つ禁断の森へと、予測不能な展開を迎えた。




■■■ラビの森へ:逃走と告白■■■

アスクとアズインは、ウェスト・ゲート領への道がすべて閉ざされたことを確認した後、包囲網から逃れるように北の「ラビの森」を目指し、険しい山道を駆け上がっていた。

小さな清流で水を飲んで休憩をとっているとき、アスクは重い口を開いた。

「アズイン。ボクの勘だが、奴らがチャンドラさんではなく君を狙ったのは、君の能力が関係している。なぜ、奴隷に…そして、なぜ奴らは君を狙っているんだ?」

アズインは俯いた。

「父の病を治す薬は、とても高価だった。私は、父の治療費のために、多額の借金して、支払いのために、やむを得ず…奴隷商館に身を売ったんです」

彼女は、静かに、そしてゆっくりと話を続けた。

「あの商館にいたとき、私はただ、次の買い手が来るのを待つだけでした。でも、ある日、一人の男が私を見て、不的な笑みを浮かべたんです。彼は、私の動物と話す能力に気づいたようでした。彼は足早に商館から出ていきました」

アスクの表情が険しくなる。諜報活動。それは、アズインの「動物との対話」に最適な役割だった。

「その男は、きっと今回の追跡組織のエージェントだったんでしょう。でも、その取引が成立する前に、アスク様、あなたが私を選んでくれましたよね」

アズインはそっとアスクを見上げた。

「私の能力を見抜いたエージェントが、購入寸前までいっていた。だから、奴らは私がアスク様の『所有物』になった後も、私を諦めず、諜報活動役として利用するために、連れ戻そうとしているんだと思います」

アスクは、アズインの手をそっと握った。

「そうか。奴らは、君を道具として見ていた。だが、君はボクの道具じゃない。ボクの仲間だ。あのとき、偶然ボクが先に商館に行ったことが、逆に奴らに火をつけた形になったか」

アスクの瞳には、怒りが宿っていた。

「奴らの目的ははっきりした。だが、二度と奴らの道具にはさせない。そして、君のその能力は、単に諜報活動に利用されるだけの力じゃない」

二人の間に、共通の敵と、守り抜くべき未来が明確に刻まれた。「ラビの森」への道は、過酷な逃走路であると同時に、二人の絆と決意を固める道となった。


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