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31.試験結果

馬車の揺らぎの中、チャンドラは静かに鑑定スキルの試験結果を読み上げた。

「合格だ。とても良い結果だった。」その声には、評価の厚さと確かな手応えが宿っている。


試験の緊張がほどけ、アスクは深く息を吐いた。向かいに座るアズインに視線を向けると、思わず心臓が跳ねた。二重のぱっちりとした瞳には愛らしさが宿り、厚めの眉は整った顔立ちを引き立てている。グレーの髪は艶やかで、肩までふわりと垂れる。女性としての魅力が、静かな微笑みの奥に光っている。


試験中は、そんな細部まで見ていられなかった。だが今、改めてじっくりと観察すると、胸の鼓動は少し速くなる。彼女の存在が、試験の緊張を軽やかにほどいてくれるようで、安堵と同時に胸のときめきが蘇る。


馬車の窓から差し込む光がアズインの髪を銀色に染め、彼女が吐く息のたびに頬に浮かぶ微かな熱が、二人の間に新しい緊張感を生む。試験の結果は確かに良かった。けれど、今この場で交わされる視線と距離が、一層の期待を孕ませているようで、アスクは言葉にできないざわめきを胸の奥に抱えたまま、ただ静かに見つめていた。


続いて、チャンドラは静かな声で鑑定スキルの評価を語り始めた。


「アズインには、基本的な索敵能力と戦闘能力が備わっている。護衛としても十二分だ。生産関係の雑務も、そつなくこなせるだろう。」


そして、彼は語尾を少しだけ沈め、次の言葉へと移る。


「何よりも重要なのが、アズインの固有スキル、動物対話(アニマ・ソナー)だ。これは、生物と意思疎通を図る力である。情報収集の面では、圧倒的に有利になるだろう。中級の鑑定スキルだけでは、気づけない視点だ。よく、固有スキル持ちを見抜いた。こういった直感は、実戦において強力な武器となる。」


彼は一呼吸置くと、別の話題へと移った。


「やはり、アスクは与えたスキルをうまく使いこなしてくれるな。そこでだ。アスクに、今まで三年近く温めてきた秘蔵スキルを託したい。これは、ある隠しダンジョンで入手した『インキュベーター』というスキルだ。アイテムボックスにあるアイテムを増殖させることができるのだが、なかなかのクセモノで、毎日のMP消費が多い割には増殖率は日産0.01%に留まる。上級スキルになれば生産量がもっと増えるだろうと思っていたが、想像以上に使い勝手が悪い。だが、アスクなら使いこなせるかもしれない。どうだ、受け取ってくれるか?」


風は穏やかに揺れ、背後の木々がかすかなざわめきを奏でていた。アスクの瞳には、迷いを打ち消す決意が宿っている。二人の間には長い沈黙が、ほんの一瞬だけ流れた。


頭の中で、計算式が静かに組み上がっていく。日産0.01%という現実は、100個のキノコが100日を経れば、1個増えるという理屈へと結びつく。数を重ねれば重ねるほど、手元で使いきれないほどのアイテムが膨れ上がっていく。とんでもないスキルだ。隠しダンジョンの名を思い浮かべると、彼は自嘲と畏敬が混じった微笑みを喉元に押し込んだ。


「はい。そのスキル、喜んでいただきます。」と、嬉しそうに答えた。声には軽やかな光が宿り、相手に対する敬意と自信が混ざっていた。


その後、チャンドラとアズインが今後の仕事について話し合っている間、アスクはふと、今までのことを振り返っていた。自分は異世界転移者なのだろうか。なぜ、記憶が欠けているのだろうか。諦めと好奇心が交差する頭の中で、彼は静かに自問を重ねた。



⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰エンチャント武器⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰


ふいに冷たい風が吹き抜ける夜、エコロアの陰影が密やかに揺れた。先日、チャンドラは同盟の仲間たちへ、武器を惜しげもなく分け与えていた。その手には、彼がアスクへ依頼して生み出したエンチャントの試作品が握られている。通常の武器よりも、ひときわ妙な響きを帯び、使われる者の運命を少しだけ歪めるかのようだった。性能に影響がある。そんな説明は、毎回のように聞かされていた。


ヤコブは嘲笑うように口元を歪める。「チャンドラも相変わらず、エンチャントを諦めていないな。」


ロクは肩をすくめ、乾いた笑いをこぼす。

「ああ、時間とカネの無駄だ。そんなことに投資しているなら、もっと別のところに使えよなぁー。」


ウィルは、手にした武器を手のひらで転がしつつ、少しだけ希望に似た光を見せた。

「せっかくですから、もらった武器でダンジョンに行ってみましょうよ。」


ヤコブは頷き、決意をにじませた。

「それは良い。行くか。」


ロクは肩をすこしだけ落とすと、覚悟を決めたように腰へ力を入れた。

「しょうがねーな。やってやるか。」


夜風がひんやりと頬を刺す頃、エコロアの領土には新たな呼吸が宿り始めていた。いくつものダンジョンが静かにその存在を主張している中、最近見つかったラビの森ダンジョンは、エコロアの町を北西へと引き離し、最も遠い地点としてその名を刻んでいた。


だが、もっと身近な脅威は別の場所に潜んでいる。最も近いダンジョンは、春に桜が咲くサクラ・ブレードと呼ばれ、華やかな姿を誇るが油断は許されない。歩いて約10キロの距離にあり、初心者には手強いが、中級者にはちょうど良いと評されている。ブレードと呼ばれる所以は、大鎌を振るうサイス・マンティスがこの地に多く棲息しているからだ。


攻略法はすでに周知の事実となっていた。大振りの大鎌が振られる背後にはいつも隙が生まれ、それを丁寧に突けば容易に攻略できる。そんな安定した手筋を前に、彼らの動きは次第に音を立てて現実へと落ちてくる。


ウィルは静かに、決意を声音に乗せた。

「私が対峙します。ロクさんは背後をお願いします。」


ロクは短く返す声に力をこめた。「任せろ。」


彼は棍棒を握りしめる。振るうその一閃は、いつもの自分の体感よりも速く、背中を走る風を追い越していくかのようだ。余裕の表情を浮かべていたロクは、ヤコブと対峙しているマンティスにも、そのまま斬り込む一撃を決めた。


ロクの動きは、これまでのエンチャントとは異なる。新たな性能が彼の手元で輝きを増し、彼自身が歓喜に震えるのを抑えきれなかった。


戦場の空気には、金属の甲高い音と、耳を刺す風の音が混じり合い、二人の呼吸を合わせるように穏やかなリズムを刻んでいた。あらかじめ決められていた手順が、今まさに生きて動き出す瞬間――そして、彼らの前に広がる闇の中で、サイス・マンティスの影だけが、静かに揺れている。


ミッション達成

・上級スキルを初めて習得する(+20)

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