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2@9.エージェント

39度を超える熱に焼かれ、昨日まで意識は朦朧としていました。それでも何とか筆を執り、物語の続きを紡いでいます。何もできず、ただ熱に身を委ねた三連休でした( ゜д゜)

一週間ほど前のこと、クレイヴァンの街並みが静かに揺れる中、一人の男が奴隷商館の扉を静かに押し開けた。身なりはきちんと整えられ、知的な印象を漂わせている。彼の目は鋭く、しかしどこか冷静な観察眼を宿していた。


奴隷商館の入り口に立つ彼は、軽やかに奴隷商人と会話を交わしながら、一人一人を丁寧に鑑定している。彼の視線は、ただの商人の表情や仕草だけでなく、その内に秘められた潜在的な力までも見通すようだった。


何人かの者に目を留め、彼はリストを取り出しながら価格帯を確認し、メモを取る仕草を繰り返していた。その様子から、ただの商人ではなく、何かしらの調査や評価を行っていることがうかがえた。


ふと、彼は小さく呟いた。

「ここでは、三人ほど固有スキルを持った者がいたか。」

その声は静かでありながらも、決して漏れ聞こえることのない確信に満ちていた。


彼は冒険者ギルドカードを取り出し、素早く操作を始める。カードの中には、彼の目的や調査の足取りが映し出されているようだった。静かに、しかし確実に、彼の調査は進行している。


この男の名はまだ誰も知らない。だが、その鋭い観察と慎重な行動から、彼の目的が何かしらの大きな動きの一端であることだけは、確かなことだった。



⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰アルメニア⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰



夜の空がまだ薄暗い頃、北の霧を裂くようにアルメニアの城塞都市は眠りを破って目を覚ました。クレンヴァンの北に位置するこの軍事都市は、戦いの予兆を肌で感じていた。隣接する国々との境界線はいつも薄く、兵士の話す声は風にのって城壁の亀裂へと染み渡る。街の奥では、資源と人材を求めるさまざまな影が動き回っていた。


各国に散らばっている異国の商人と呼ばれる者達がひときわ目立っていた。彼らには鑑定スキルと呼ばれる人物の能力を知ることができる能力があった。彼らはエージェントと呼ばれ、候補者のリストを定期的に更新する。そのリストには、体力と知力の両方を兼ね備えた者、謀略に長けた者、あるいは特殊なスキルを持つ者たちが並ぶ。彼らは貨幣と見識の両方を引き換えに、ここアルメニアのための「人材」を運び込む。


大臣室の扉は堅く閉ざされ、必要がなければ開くこともない。だが時折、金の匂いが漂う夜には、手段を選ばぬ人々が闇の中で蠢く。大臣は、誘拐や調略といった忌み嫌われる手段にも手を染めることを厭わないと噂された。財力という名の力が、倫理の壁を次第に崩していく。彼の瞳には、勝利の光だけが映っており、手段の善悪は彼の胸の奥に眠る野望の影に覆い隠されていた。


候補者リストを握る者の手は、慣れた動作で紙の端を摘み、名前を読み上げるたびに微かな震えを走らせた。息を潜めて待つ者、山のような資源を夢見る者、そして戦場の彼方で自分を試す者――彼らはそれぞれの物語を背負い、アルメニアの夜を渡っていく。


日が高く昇ると、城壁の上には軍旗が翻り、風に揺れた。空気は緊張と希望を含んでいた。隣国との摩擦は絶えず、報酬の額が高いほど人々の胸には憧憬と疑念が入り混じる。エージェントの唇は薄く結ばれ、しかし目だけは鋭く光っていた。彼は知っている。人材はただの戦力ではなく、未来を左右する鍵であり、資源は生まれた都市の繁栄を決める運命の扉だということを。


夜明けが近づく頃、アルメニアの街は再び静けさを取り戻す。だが静寂の背後には、まだ見ぬ契約と約束が潜んでいる。大臣の影が城壁の影と重なり、エージェントのリストをめぐる取引の声が、遠くの山々へとこだまする。戦いはまだ始まっていないが、準備は着々と進んでいた。人材と資源の名の下に、アルメニアは再び歴史の潮流へと舵を切るのだった。


「クレイヴァンの使者からです。」


静まり返った執務室に、部下の声が低く響いた。差し出されたのは、厳重に封をされた一通の手紙。大臣はそれを素早く受け取ると、封蝋を指先で割り、中身に目を通した。

読み進めるにつれ、大臣の口元に愉快げな笑みが浮かぶ。彼は椅子に深く腰掛け、手紙を机に置いた。


「ほう……アイツの鑑定に狂いはない。やはり、固有スキル持ちか。」


満足げに呟き、大臣は部下である伝令役の顔を見上げた。その瞳の奥には、獲物を見定めたかのような鋭い光が宿っている。


「面白い。よし、すぐに彼らを確保しろと伝えろ。特に、この獣人のスキルは我々にとって大いに役に立つはずだ。決して取りこぼすなよ。」


「はっ!承知いたしました!」


大臣の言葉を受け、伝令役は一礼すると、足音も立てずにその場を離れていった。扉が静かに閉じられる。残された大臣は、再び手紙に目を落としながら、高らかに笑うのであった。

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