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28.二人の距離感

ニヶ月が静かに過ぎていったある日、秋の風が少しだけ涼しさを運んできた。アスクはいつものようにチカと待ち合わせの場所に向かった。街角のカフェの前で、彼女は笑顔で笑いながら待っていた。アスクは自然と微笑みを浮かべ、彼女の横に並びながら、軽く肩を寄せた。


「今日のドーナツ、絶対に外さないわ。」とチカが言いながら、小さく笑った。その声にアスクは頷き、彼女の手元に視線を落とす。彼女の指先は軽く震えているように見えたが、距離は決して縮めず、あえて静かに、ただ寄り添うだけの空気を保っていた。


「そうだね。楽しみだな。」


アスクは微笑みながら答える。週に一度のこの時間は、二人にとって小さな宝物だ。それでも、少しずつ心が近づいているのがわかる。


チカの目はいつもより少しだけ輝いているように見えた。彼らは自然な流れで、店内に入ると、アスクは彼女の手を軽く取りエスコートする。彼女は少しだけ戸惑ったような表情を見せるが、そのまま彼の隣に並び、テーブルに座る。会話は軽やかで、沈黙の間にも互いの存在を感じ取れる空気が流れる。


食事の合間、チカはふと視線を逸らし、窓の外に目をやる。アスクはその横顔を静かに眺めながら、心の中でこの瞬間を大事にしていることを感じていた。


「アスクは、冒険者にならないの?」


チカの質問に、アスクはきょとんとして顔を上げた。


「ん?今まで、エンチャントのことで忙しかったから、冒険者になるって考えたこともなかったな。でも、そうだね。まずは、冒険者登録だけでもしてみようかな。」


アスクの返答を聞くと、チカは身を乗り出して、目を輝かせた。


「やった!じゃあ、早速登録しちゃおうよ。冒険者カードは身分証にもなるし、それに冒険者カード同士なら、遠く離れていても国内同士なら連絡が取れるんだよ!」


「へえ、すごいな。」


「すごいでしょう?アスクもチャットに参加したら面白いよ。」


アスクは、子どものように目を輝かせて熱弁するチカに、微笑んで言った。


「じゃあ、昼食後にお願いするよ。ボクは、チカみたいに、冒険者カードで誰かと話せるようになるのが楽しみだ。」



⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰冒険者ギルドへ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰



アスクは、少し緊張した面持ちで冒険者ギルドのカウンターに立った。彼の手には、登録用紙と小さな勇気が握られている。チカが横から声をかけた。


「アスクも冒険者かぁ。ワクワクするね。Fランクからのスタートなんだから、私がいろいろ教えてあげよう!」


アスクは深く息を吸い込み、静かに答えた。「ありがとう。チカ。これからよろしくね。」


冒険者登録はあっという間に済み、彼らはギルドの内部に足を踏み入れた。壁に貼られたランク表には、Fランクの下に「59630位」と記されている。アスクはその文字を見つめながら、遠い未来を思い描いた。


一方、チカは既にDランクに属し、現在「889位」で、次のCランクへの挑戦を夢見ていた。彼女の瞳は、希望と決意で輝いている。


「私、早くCランクになりたい。もっと強くなって、いろんなダンジョンでたくさん宝箱を開けるんだ。」と、彼女は笑顔で言った。


冒険者登録を終え、二人は並んで歩く。チカは時折、アスクの方をちらりと見て、何かを伝えたそうな表情を浮かべる。アスクはそれを察して、無言のまま彼女の手を強く握る。彼女の頬がほんのりと赤く染まるのを感じながら、ただ静かに歩き続けた。


言葉にしないまでも、二人の間には確かな絆と、微かに伝わる想いが流れている。お互いにとって、これからも続く時間の中で、少しずつ距離が縮まっていく予感を胸に抱きながら、今日もまた、特別な一日が静かに過ぎていくのだった。



⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰過酷の旅への準備⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰



チャンドラは、左手の怪我を完全に癒やした。長い療養の日々を経て、彼の表情には自信と決意が宿っていた。Sランクの冒険者ライセンスを手に入れるための遠征準備は、まさに最終段階に差し掛かっていた。


彼は山と森に囲まれたエコロアの町から、東に位置する港町クレイヴァンへと向かう準備をしていた。クレイヴァンは、多種多様な装備品や貴重なアイテムが揃う交易都市として知られている。遠征に必要な武器や防具、そして魔道具を揃えるために、彼は細心の注意を払って準備を進めていた。


また、今回の遠征はただの探索だけではない。チャンドラは、これまで彼を支え続けてくれたアスクへの感謝と、彼の努力を称える意味も込めて、特別な試験を兼ねた報酬の授与も考えていた。アスクの成長を見守ることが、彼の心の支えだったのだ。


クレイヴァンへと向かう空は晴れ渡り、川岸には色とりどりの花が咲き乱れ、甘い香りが風に乗って運ばれてくる。澄んだ水面からは、魚が跳ねる音が聞こえてくる。馬車は静かに揺れながら、広大な川沿いを進んでいた。車内には、チャンドラとアスクの静かな時間が流れていた。


「アスクにも従者が必要だと思う。護衛だけでなく、何かと頼りになる存在がいると安心できるからな。」チャンドラが柔らかく言った。


アスクは少し考え込みながら、窓の外を見つめた。「確かに、その通りですね。ボクも自分の身を守るために、誰か信頼できる者を見つけたいです。」


チャンドラは微笑みを浮かべた。「それなら、明日は奴隷商館で従者を選ぶ試験をしてみよう。実際に会ってみて、スキル「鑑定」で相性や能力を確かめるんだ。」


アスクは頷き、少し緊張した面持ちで答えた。「わかりました。具体的にどのような手順で進めていくんですか。」


チャンドラの狙いは、ただ最も有能な者を見つけることだけではない。より賢く、交渉を有利に進めるための戦略も練り込んでいた。


「いいか、アスク。まず、最も重要な候補者を選出する。市場で最も高値をつける者こそ、その者が最も価値を見出している証拠だ。最も高額だと判断した候補者を選び出してほしい。」


「次に、アスクの心の中で決めた"欲しい候補者"を選ぶ。これは、アスクが最も惹かれる人物、あるいは最も望むスキルや資質を持つと感じた者だ。直感とともに、その候補者に対して熱い思いを感じた者を選出してほしい。」


「そして三人目。アスクの第二候補に気になった者を選んでくれ。これは、最も欲しい候補者に近いと感じつつも、少しだけ距離を置いた人物だ。」


この配置には巧妙な意図があった。最も高額を提示した候補者を一人目に据えることで、その人物の価値を認めることを示す。次に、"欲しい候補者"を二人目に置き、第一候補との違いを最大限に引き出す。そして最後に、第二候補を三人目にすることで、実は第一候補の高額さを巧みに利用し、交渉のテクニックを仕掛けていた。


「これで、スムーズに交渉が進むだろう。」とチャンドラは微笑む。最初の高額な見積もりを提示した候補者を第一候補と見せかけて、次に"欲しい候補者"の価格を抑制し、妥協をしたように見せて、実は価格を釣り上げないように"欲しい候補者"を狙っていたのだ。


その戦略は、まるで巧みな舞台の演出のようだった。チャンドラは静かに座席に身を沈め、次の一手を考え始める。


「そんな交渉もあるんですね。」と、アスクは感心する。


「まずは、鑑定して目ぼしい候補者たちと話してみることだな。直接会って、彼らの考えや意気込みを感じ取るのだ。」チャンドラが説明した。


馬車はやがてクレイヴァンの町に到着した。馬車の小窓から身を乗り出すと、そこには別世界が広がっていた。


まず目を奪われたのは、空に突き刺さるようにそびえ立つ石造りの城壁群だ。道の両脇には、色とりどりの旗を掲げた商店が軒を連ねる。鍛冶屋の鎚の音が心地よく響き渡り、香辛料を扱う店の前からは異国情緒漂う香りが漂ってくる。焼きたてのパンの甘い匂い、革製品の渋い香り、そして聞いたことのないような花々の芳香が、風に乗って入り混じり、活気ある街の息吹を肌で感じさせた。


人々もまた、これまで出会った誰とも違った。道行く人々は皆、動きが機敏で、眼差しには目的意識が宿っている。豪華な刺繍が施された絹のドレスを纏った貴婦人が、召使いを引き連れて優雅に通り過ぎ、一方で、煤けたエプロンをつけた職人たちが、大きな荷物を抱えて早足で行き交う。市場からは、威勢のいい売り子の声がひっきりなしに聞こえ、客たちの楽しそうな笑い声と混ざり合う。馬車のすれ違いざまに、鮮やかなターバンを巻いた獣人が異国の言葉で挨拶を交わすのが聞こえ、その多様性にも驚かされた。


鑑定スキル・中級という新たな力を得たアスクは、この先に広がる未踏の世界を、すでにその瞳に映し出していた。

ep.25→ep.28

【ステータスウィンドウ】

アスク

LV:38(ステータスポイント残+11)

AP:0/200←180(次のLVまで残り2380)

HP:300/320←258

MP:120/200←80

SP:70/70←50

スキル:

- 短剣・中級、

- 水魔法・中級、

- 探知・中級、

- 潜伏・中級、

- 鑑定・中級、

-アイテムボックス・中級

-エンチャント・中級

AV:筋力102+8、体力56+54、敏捷46+60、器用50、知力40+60、精神40+60

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