27.再会
アスクは静かに森の奥深くを歩いていた。木々のざわめきが心地よく、涼やかな風が頬を撫でる。彼の心は、久しぶりの再会を待ち焦がれている。ラビの森は、彼にとって特別な場所だった。セリスと別れてから、一月ほどが経っただろうか。その間、思い出は色褪せることなく心に刻まれていた。
森の深部へと進み、高くそびえた木々を抜けて、目の前に現れた小道を歩いていく。そして、光に導かれるかのような美しい泉にたどり着く。
アスクはゆっくりと足を止めた。そこに待つべき人物の姿が見えた。セリスだ。彼女の水のように流れる長い髪は風に揺れ、淡い笑みを浮かべている。アスクの胸は高鳴った。やっと再会できるのだ。
「セリス…」彼は静かに呼びかけた。
彼女は微笑みながら彼に近づき、その目は優しく輝いている。二人の間に流れる空気は、言葉以上の絆を伝えていた。
アスクは、助けてもらった仲間たちの顔を思い浮かべた。あの危険なダンジョンでの戦い、そして見事にブレイクを阻止したときのこと。皆の協力と勇気がなければ、不可能だっただろう。彼はその報告を、まず第一にセリスに伝えたいと強く思っていた。
「皆の協力のおかげで、ダンジョンブレイクを阻止できたよ。これも、セリスのおかげだ。やっと、会えたね。」
セリスは、ほっとした表情で、「すごいわね、アスク。あなたの努力と勇気のおかげよ。本当におめでとう。」と声を弾ませた。
その時、アスクは心に抱いていたもう一つの報告を思い出した。水魔法・中級へのランクアップだ。努力の結晶であり、彼の誇りだった。それを伝えることで、彼の気持ちも少しは伝わるだろう。
「あとね。ボクは、ついに水魔法・中級にランクアップしたんだ。」アスクは照れくさそうに笑いながら言った。
セリスは驚きと喜びを隠せない様子で、「すごいわね、アスク。毎日鍛錬を欠かさなかった証拠ね。」と声を弾ませた。
「それで、アスク、魔法の成長を確認したいわ。まずは氷魔法を使ってみてほしいの。」
アスクは少し戸惑った表情を浮かべながら答えた。
「ごめん、セリス。ボクはまだ氷魔法は使えないんだ。」
セリスの瞳が優しく光り、少しだけ微笑んだ。
「そっか。でも、大丈夫。私が手解きをしてあげるわ。」
彼女はゆっくりと手を差し出し、指先に冷たい風の気配を漂わせた。
「まずは、イメージをはっきりさせること。あなたの心の中に、冷たさや静けさを思い描いてみて。」
アスクは少し戸惑いながらも、目を閉じて心の中に静寂と冷気を思い浮かべた。セリスはその間も、穏やかな声で続けた。
「次に、そのイメージを手のひらに集中させてみて。温かいものと対比させると、より感じやすくなるわ。」
やさしく手を動かしながら、セリスはアスクの指先に風の流れを導いた。少しずつ、手のひらに冷たさが伝わり始めた。
「いいわ、その調子。今度は、その冷気を少しずつ形にしてみて。」
アスクは緊張しながらも集中し、指先からほんの少しだけ氷の結晶のようなものが生まれるのを感じ取った。
セリスは微笑みながらうなずいた。
「素晴らしいわ、アスク。焦らずに、少しずつ慣れていけばいいのよ。」
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰水から氷へ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
練習を始めてから、半刻ほどの時が経っただろうか。アスクは手のひらに意識を集中させる。隣に立つセリスの応援が頭に響く。
「もっと集中して、私がやったみたいに…」
『水』の魔力を練り上げる。今までは、ただの水の塊しか生み出せなかった。手のひらに生み出したそれは、頼りないほどに揺れている。
「これを……冷やす。」
アスクはそう心の中で念じる。いつもと同じはずなのに、今日だけは違っていた。水の中を、細かな光の粒が走り始めたかと思うと、一瞬にしてその動きを止める。アスクの心臓が大きく跳ねた。
「水の塊が……氷に変わっていく……」
それはまるで、時間の流れが止まったかのような、不思議な感覚だった。やがて、手のひらに乗ったのは、透き通った小さな氷の結晶。太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
「やった…!できた!」
アスクは思わず叫び、その氷を掲げた。冷たさも、重さも、確かにそこにあった。自分の手で、まったく新しい魔法を生み出したのだ。隣にいたセリスが、驚いたような、それでいて満足そうな顔で微笑む。
「やったね。これで、アスクも『氷使い』の仲間入りよ。」
その言葉に、アスクの胸は期待と喜びに満たされた。これは始まりだ。水の魔法が、氷という新しい形を得たように、自分の魔法も、もっともっと広がっていく。そう思うと、胸の高鳴りが止まらなかった。
そして、思い出したかのように、アスクは静かな笑みを浮かべながら、最後の報告をセリスに伝えた。彼の瞳には、少し誇らしさと期待が混じっている。
「セリス、最後の報告があるんだ。実は、エンチャントのスキルが使えるようになって、中級にランクアップしたばかりなんだ。」
セリスは興味深そうに耳を傾け、アスクの話にじっと集中した。
「この間、近くにあった小石をエンチャントしてみたんだ。魔力を込めて、速さを強化した。これを指に乗せて、弾として飛ばすんだ。」
アスクは指を伸ばし、小石をつまむ動作を模倣した。
「まるで魔法の弾丸みたいに強化してみたいんだ。力を込めると、まっすぐに遠くへ飛んでいく。これからは、戦闘や探索の場面でも役立てられるように練習するんだ。」
セリスはその言葉に目を輝かせた。「すごいわ、アスク!エンチャントのスキルが使えるなんて、頼もしいわね。これからの冒険が更に楽しみになるわ。」
さらに、セリスはその様子を見て微笑みながら近づき、ある提案をする。
「アスク、ちょっと面白いアイデアがあるんだけど。小石を指弾きするのもいいけど、もっと効果的でかつ美しいものを考えたらどうかな?」
アスクは興味深そうに目を輝かせ、「何だろう?教えて。」と促した。
セリスは少し考え込みながら、「ねぇ、小石じゃなくて、氷の球を指弾にしてみるのはどうかな?氷魔法の力を使えば、小石をわざわざ集めてこなくてもいいでしょう。見た目もきれいだと思うよ。」と提案した。
アスクは目を輝かせ、「面白そうだね!やってみたい。」と答えた。
アスクは、周囲の空気を感じ取りながら、手を動かした。彼の魔法の力を集め、氷の魔法を駆使して、冷たく輝く氷の球を生成した。青白い光を放つ球体は、まるで冬の星空の一片のようだった。
次に、その氷の球にエンチャントを施す。魔法の光が氷の球に絡みつき、瞬く間に三角形のアングルが浮かび上がった。速さのアングルを引っ張ってみる。魔法の力が込められ、ただの氷の球が、まるで青い光のように輝き様子が浮かび上がる。
アスクはその様子を見ながら、「すごい!これならもっと速く、遠くまで、飛ばせるかもしれないね。」と感嘆の声を漏らした。
セリスは微笑みながら、「これなら攻撃だけじゃなくて、魔法の芸術品としても楽しめるかもしれないわね。」と言った。
森の静寂の中、二人の間に静かな魔法の流れが生まれていた。久しぶりの再会と、新たな成長の証。未来に向かって、アスクの物語はまた動き出すのであった。
⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰臨時収入⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
チャンドラは先日のダンジョンブレイクで成長させた魔石を手に、換金所の前で一瞬立ち止まった。最高品質の魔石を売り払う瞬間に、胸が高鳴る。手渡された白金貨1枚を見て、思わず目を見張った。
「これだけの価値があるとは……」とつぶやきながら、心の中で喜びを噛みしめる。今回の臨時収入は想像以上で、彼の努力が報われた瞬間だった。
チャンドラはすぐに頭をよぎった。まずは、協力してくれたアスクに報酬を渡すことだ。アスクは、ダンジョンブレイク発見に大きく貢献してくれた。また、エンチャントや鑑定スキルにも熱心に取り組んでいる。
「アスク、ありがとう。おかげで最高の魔石が手に入った。これでお礼をしないと。」
そう考えながら、次の行動を決める。チャンドラはアスクに報酬を渡すため、思案するのであった。
チャンドラはまだ知らなかった。この報酬が、アスクの冒険の運命を大きく揺り動かすことになることを……




